第79話
カイルが目を覚ませば、見知った天井が見えた。
自分は一体、どうなったのだろう。
まだ重たい目蓋を無理矢理開いて、何度か瞬きをする。
「あ、起きたかい? カイル」
「……師匠……」
最初に目に飛び込んできたのはヤトの顔だった。
あれから何日経ったのかと聞いてみれば、一週間以上も時間が経っていたとのことである。
そんな長い間眠っていたとは。
魔術協会への報告もどうなったのかと思っているとリトの力も借りて全てヤトが取りまとめて報告をしてくれたようである。
ハデスとの戦いの詳細についてはカイルが眠っているため、追って報告をするということで保留となっているらしい。
「本当にやり遂げてくれるなんて、さすが私の弟子!」
「師匠……。一応、師匠がいなきゃ、オレは何も出来なかった。そうだ、祭は!? 大河はどうなったんだよ! あのバカ穢れに当てられてんだろ!? それに晴明は!?」
思い出したようにカイルが布団から飛び起きると、ヤトは苦笑しながら障子の方を指さす。
スパーン! と音を立てて入ってきたのは祭である。
決着をつける前は子狐の姿だったがすっかり人形に戻っている。
「カーくん起きた!? 大河っ大河ぁ~! 大河どこ~? カーくん起きたよっ!」
少し遅れて、いつもの静かで動作で大河も部屋へと入ってくる。
あれほど壊れていた神社もレイキ会の協力のお陰か元通りに戻っているらしい。
「何だ。生きていたのか」
死んだかと思っていた、と大河はいつもの口調で言うが、どこかほっとした表情をしている。
「カイルくん目覚めたんだって? さっそくカイルくんに悪戯~!」
そぉれ! と、大河の後ろから神が枕を投げつけてきた。
避ける間もなくカイルはまともに枕を顔面で受けた。
「テメッ何しやがるこのクソ狐! こちとら目覚めたばかりの怪我人だぞコラ!」
「神さん。一応、起き掛けだから許してあげてくれない? 師匠としてはもう少し安静にしていてもらいたいんだけど」
いつもなら便乗する所だが、ヤトはひとまず神を宥める。
次の枕を投げようとしていた神だったが口を尖らして暇だったのにと呟いている。
「パパ! カーくん目が覚めたばかりなんだから。悪戯はめっ! だよ」
「祭ちゅわぁん! 祭ちゅわんがそう言うならパパ大人しくしてるよっ」
一生大人しくしてくれたらいいのに、とカイルと大河が思ったのは他でもない。
「そういや師匠。晴明は?」
「晴明さんなら目を覚ましたよっ。カーくんのお陰だよっ」
代わりに祭が答える。
それなら一応、良かった。
もう一つ気がかりなのはハデスのことである。
あの後、気が遠くなり最後、ハデスがどうなったのかのかまで分からないのだ。
「ハデスは……」
すると、一同は気まずそうな雰囲気でお互いに顔を見合せた。
少しもカイルと目を合わせようとしない。
「カイル。確かに功績者だけど、聞いちゃう? それ」
「本当に聞いちゃうの? カイルくん」
「聞くのか……? 確かに、すぐにどうなったのか分かることではあるが」
「あのね、あのねっ」
祭が言おうとしたのを、神が「めっ!」と言って遮る。
一体どういうことだ。
何故、気まずそうな表情で自分に隠し事をしているのか。
「何なんだよ一体」
「いやぁ~……ねぇ? いずれ分かるしねぇ……」
「いずれも何もすぐに分かることだが……」
自分達の口からは何とも、と一様に口を閉ざす。
その時、開いた障子から誰かが入って来た。
「目覚めの紅茶をお持ちしました! カイル様!」
「は?」
黒いローブ。
入って来たのは、顔立ちは整っているものの隈があって顔色も少々青白く不健康そうな青年だった。
その手元には温かいお茶とお茶請け。
「師匠?」
誰だこいつ。
そう思ってヤトを見るが、ヤトは目を逸らす。
「いやぁ~だってねぇ?」
「どうしてもって言うからねぇ……さすがのパパも唖然としちゃった」
だから、誰なのか。
「私め、これからカイル様に仕える使い魔となりました! あの戦いでカイル様の眩い光に包まれ、私はニュー死神として生まれ変わったのです!」
「なんだかね、ハーくんピカピカなんだって」
「祭。それは違うぞ」
ハーくんとは一体……混乱する頭で、カイルは必至に考えて整理をする。
「ご安心ください。カイル様が死出の旅路に向かわれる際は、私めが責任をもって、カイル様の魂を刈り取り送って差し上げますので」
つまり……目の前で不気味な笑みを浮かべる不健康そうな青年は……
「はぁぁあああ!? ハデス!? つーか使い魔ってなんだよそれ! オレが使い魔の術を使うわけがねェだろ!! つーか使えねェし!!」
どういうことだ師匠、とヤトを問い詰めるがヤトも首を傾げて知らない分からないと言うばかりである。
「まぁ、いいじゃない。使い魔。しかも今はほとんど力を失った死神だし」
「問題ありだろ!」
「まぁ、いいじゃない。丸く収まったんだし」
「パパ上。奴もこの神社に置いておくのですか」
「だって仕方ないじゃない。追い出すにはカイルくんごと追い出さないといけないし」
「わぁいっハーくん、今度こそよろしくねっ」
「祭様。先日までの長い間、申し訳ございませんでした。私め、深く反省しております」
何ということだ。
呆然とカイルはする。
「……そういえば、晴明の奴が何かした可能性が高い」
不意に大河がその時のことを思い出す。
倒れ込んだままのカイル。
目を覚ました晴明がカイルを目覚めさせる助けをしようと何か術をかけていたと。
まさか、その時にこっそりと彼はハデスをも助けた可能性がある。
しかもよりにもよって晴明ではなくカイルの使い魔とするように。
「あのヤロォォオオオオ! 諸悪の根源はあのヤローか! 絶対、知的好奇心がどうのこうのとか言って何もかもを有耶無耶にするパターンだろ!! 目を覚まさせるついでに術なんてかけやがった! 絶対、一か八かだろ! やっぱあん時にボッコボコにしときゃよかった!」
「まぁまぁ。とりあえず落ち着きなよ、カイル。一応、彼のお陰で目が覚めたんだ。協会から手紙も届いているし、まずそれを確認しようじゃないか。リトが配達してくれたんだ」
「落ち着いてられるか! 今度あの顔見たら絶対、ボッコボコにしてやる! 余計なことしやがって!! 死神を使い魔にするバカがどこにいるんだよ! あのヤローが自分の下僕にでもすりゃいい話だろーが! 人を余計なことに巻き込みやがって!」
「魔術協会としても珍しいしね。とりあえずカイル。落ち着かないと……」
脅しをかけてくるヤトの前で居住まいを正してカイルは手紙の内容を待つ。
何やら分厚い。
一体何が書いてあるのか。
もちろん実績については文句などないだろう。
ヤトは、手紙を開いてその内容を読み上げる。
****
次回、最終回です!
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