第57話
「連行だと?」
視線を鋭くさせて大河は天を睨んだ。
「オレっちはよぅ分からんが、晴明について聞きたいことがあるとのことでの」
詳しい話はレイキ会本部でとのことだ。
詳細は分からないがどうやら一緒に行った方がよさそうだとカイル、そして大河は顔を見合わせる。
その時、玄関の騒ぎを聞きつけたのか、神と祭もやってきた。
「あ! 天さんだ~」
「こんな時間に何騒いでの? あれ? 鞍馬の馬鹿じゃない。久しぶりに会ってみれば、やっぱり相変わらず汚くて臭いね~」
「よーぅ。神。馬鹿は余計じゃ。それより、今夜今から大河とこの異人、借りてくぞ」
目に留まらない速さで、天はカイルと大河を小脇に挟んだ。
「ちょ、ちょっと待ってよ! カイルくんはどうでもいいけど、大河クンはダメだよっ」
「仕方ないじゃろう。姫さんがこの二人に聞きたいことがあるっちゅーことでの。レイキ会本部に連れて来いとレイキ会で酒飲んで寝ていた所、蹴りだされたんじゃ」
それではの、とそのまま二人を連れて行こうとする。
しかしそれを止めたのは神の狐術である。
「理由も知らずに二人を連行されるのはいただけないなぁ。馬鹿天狗」
「ねぇねぇ、どうしてカーくんと大河なの?」
「そりゃ内緒じゃ。言ったらオレっちが姫さんに殺されるでの。話が纏まり次第、姫さんからお達しがあるじゃろうからの」
天は玄関から出ると、背中からバサッと黒い羽を出した。
天狗の羽である。
先程まではただの大男であったがさすが長く生きている天狗だけあって立派な羽である。
「おぉ、そうじゃ。オレっちに酒と金をくれたら、今言ってやらんでもないぞ?」
「誰が馬鹿天狗にあげるのさ。こうなったらパパもレイキ会に乗り込み……」
「忘れとった。おんしらがついて来たら、問答無用情け無用で狐鍋にするって姫さんが言っとったぞ」
狐鍋、と聞いて祭だけでなく神も固まる。
「……パパ、待ってようよ。もしパパが大河達について行って、狐鍋にされちゃったらボク一人になっちゃうよっ」
そんな悲しい別れなんて嫌だと祭は神に抱き着いた。
祭にそんなことを言われたら掌を返すに決まっているだろう。
話は決まったとばかりに、天はカイルと大河を抱えたまま夜の京ノ都の空を飛ぶ。
「……ところで狐鍋ってうまいんじゃろうか?」
「知るかよ」
「知らん。パパ上なら食って腹を下そうがどうなろうが構わんが、祭に手を出したら八つ裂きにするぞ。馬鹿天狗」
大河の言葉に、天は冗談じゃと笑った。
「ところでよ、晴明についてってどういうことだよ」
レイキ会に向かう途中、カイルは天に問いを投げかける。
少しの間を置いて天は言う。
「姫さんから簡単に聞いただけなんじゃがな。晴明が姿を消したらしいんじゃ」
「奴が?」
晴明が姿を消す直前、会っていたのは大河とカイルだと晴明が行方を眩ませた茶屋の店主から聞き出したとのことだ。
そこから晴明が姿を消すきっかけになった犯人は大河とカイルではないのかと疑いがかかっているらしい。
「最後に会っていたのは俺達だから、犯人は俺達だと?」
「そうは言っちょらん。異人さんのことはよぅ分からんけど、大河と一緒にいるくらいじゃ。そんなことはせんじゃろて」
天曰く、大河が理由もなく相手を襲うわけがないということだ。
大河が妖怪や幽霊などの類であったならば黒だとはっきり言われてもおかしくないが、大河は神様である。
晴明の行動も少々問題はあったが、大河が彼を襲うほどのことまではしないはずだ。
何も分からない以上、最後に会ったモノと話をする必要があると言うことで、天狗である天にレイキ会へ連れてくるよう指示を出したとのことだ。
数分程で、空を飛んでいた天が地上に降り立ち、カイルと大河を小脇から下した。
カイルの目の前には、紫の垂れ幕が随所に散りばめられている和風の館である。
「ここがレイキ会本部じゃ」
「ここ……普通の場所じゃねェな」
すると天はさすがじゃのぅと面白そうな表情でカイルを見る。
「魔術師らしいとは聞いてたんじゃが、おんし面白い目を持ってるみたいじゃな」
「嬉しくも何ともねェけどな」
そう。
このレイキ会本部は異界の狭間にある。
儀園神社や晴明の館のように、多重結界の内側だ。
多重結界の内側にあるということは、ごく普通の一般の人間に見られたり察知されると厄介だからである。
「一番、現実的な問題は館の土地代や維持費だがな」
大河はケチくさいと呟く。
広さが十分あるのだ。
リアルな問題である。
とはいえ、ここまで連れてこられた以上、中に入らないわけにはいかない。
「では行くとするかの。オレっちについて来ーい」
「声がでかいぞ。馬鹿天狗。とっとと行け。その前に風呂を貸せ。貴様の臭いが移ってたまらん」
二人は天について行く。
右に曲がったり、左に曲がったり。
空間が捻じれているような感覚にカイルは戸惑いながら二人の後をついていく。
ここで離れてしまえば迷子になることは確実だ。
「おや? 珍しい顔が紛れているねぇ」
聞き覚えのある声に、カイルと大河は振り返った。
紫月だ。
彼女の後ろには、煉が立っている。
「お、姫さんの妹御じゃ。なんじゃ今から出るのかの?」
彼らを送り届けたら一緒に酒でも飲もうと思っていたのに、と天は残念そうに紫月に話しかけた。
「まぁね。ほら、晴明が行方不明だから。その調査に駆り出されるのさ。あと、カレの屋敷もキナ臭くてね。はぁ……ボクも家でお酒を飲んでいられたらどんなに楽なことか」
「お嬢。今月の電気代と維持費が払えんぞ」
煉の言葉に紫月はぷぅ、と頬を膨らませる。
だがそういうわけで動いているということだ。
遊んで暮らしているように見えていたが、意外と仕事はちゃんとしているらしい。
お目付け役として煉がいるお陰だろうが。
「そういうわけで、ボクも動かざるを得ないのさ。カイル、それに大河。気を付けてね。あぁ、天。先にお風呂に案内した方がいいよ? 義理姉様、今最高に不機嫌だから」
紫月はそれだけを言い残すと、煉を伴い、手をひらひらと振って出口に向かって歩いていったのであった。
彼女の後姿を見送ってから先に進む。
手前に風呂場があるのか、カイルと大河は簡単に風呂に入って天から移った臭いを落とす。
ついでに大河は天を風呂に叩き込んでおいた。
改めて天の案内で、一際大きな扉の前に辿り着いた。
「この先が姫さんの部屋じゃ。オレっちの案内はここまで、と言いたいところじゃが、話が気になるんでな。一緒についていってやるぞ」
「いらん」
「いやぁ、相変わらずいいキレしとる。大河のあっさりばっさりは」
笑いながら天はその扉を押し開いた。
ゆっくりと音を立てて、軽く押し開くと後は自動で大きく開く。
促されてカイルと大河は天と共にその扉の中に入った。
彼らが入ると自動で扉は閉まったのであった。
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