第28話

「ねぇねぇ」


 今の今まで大人しく黙っていた祭が口を開いた。


「ボクいいこと思いついちゃった!」


 祭の提案はこうだ。

 カイルの修行ついでに、自分達三人で力を合わせ、悪いモノ達の退治をしていこう。

 そういうことである。

 ナイスアイディアだと祭は誇らしげに言った。


「ダメー! 祭ちゅわん! そんな危険な遊びはパパが許しません! そういうのは鬼喰一族に任せておけばいいの! 祭ちゃんがそれでケガでもしたらパパは……パパは……」

「もう聞き飽きたっつーの。だったら死ねよ。その方が済々する」

「カイルくんの意地悪! マゾ!」

「誰がマゾだ! 誰が!」

「マゾか~。うん、確かにそういう気がするね。私のサディスティックな虐めにも耐え抜いたし」


 自分でサドと自覚している分、性質が悪い。

 ヤト曰く、虐められるよりも虐め抜きたい派らしい。

 例えばそこに生ゴミ(気に入らない男)がいたら、ドアで潰した挙句に倒れた所を見て見ぬ振りで踏みつけ蹴りつけるということをする、と。


「いやいやいや! やられる側にも立って考えろよ! 痛いんだからな!」

「カイルなら大丈夫だよ。私はそう信じてるから」


 そんな所を信じてほしくない。

 一方、大河は祭に、その提案は諦めるように諭す。

 いくらなんでも危険なことを冒してまで、カイルの力になる必要はないと。


「だってボクだって男の子だもんっ。ねぇパパ。ボク、パパを守りたいから、いいでしょう?」


 カイルと、大河、そして自分の三人でこの国、とは言わないけれど、この町を守りたいと。

 一人では難しいけれど、三人ならどんなことでもできる。

 祭はそう言った。


「祭ちゅわん……。こんなにいい子に育って。うん、祭ちゃんも男の子だもんね。大河クン、役立たずのカイルくん、祭ちゃんをしっかり守らなかったら、二人揃って切腹させるからね」

「……俺も、ですか。いいんですか? パパ上。俺が切腹したら、パパ上の大好物であるスペシャル油揚げ丼が二度と食べられなくなりますよ?」


 カイルが卑怯だと大河に言うが、


「使えるものは何でも使え、がここのルールだ」


 と言われてしまった。

 何故、自分が神のご機嫌取りをしなければならないのか。


「仕方ないなぁ。大河クンは助けてあげるよ。というわけで、カイルくん。祭ちゃんを守れなかったら切腹ね」

「何でオレはそんな役割ばっかなんだコンチクショー!!」


 溜息をついてふと考える。

 もしも、ということを考えるのは、カイルは好きではない。

 すでに起きてしまったことに対して振り返った所で時は戻らないというのを、よく知っているから。

 けれどもやはり、思ってしまうのだ。

 もしも、両親が死んでいなければ。

 もしも、弟がゴーストに襲われなければ。

 もしも、義理の両親から離れなければ。

 もしも、魔術師になろうとしなければ。

 きっと今、この場所に自分はいない。


「カーくん、一緒に頑張ろうねっ。ボク、もっともっと狐術がうまく使えるように頑張るからっ」

「仕方がないから手を組んでやる。もはや、貴様はこの儀園神社になくてはならんからな」


 祭と大河がカイルの肩を叩く。


「お前ら……」

「今更、貴様だけを抜けさせてたまるものか。貴様が今、いなくなればパパ上の悪戯は俺に集中砲火だ。それだけは避けんとならんからな」


 祭はいいとして、大河の言葉は聞き捨てならない。

 さらに大河はカイルの首に腕を回す。


「前にも言っただろう。俺と貴様はもはや、対パパ上共同戦線を張る運命共同体だと。今更抜けさせてたまるか」

「テメーはそれが目的か!」

「龍神の俺が貴様を買ってやっているのだ。少しは有り難がれ」

「有難味もクソもねェよ!」


 大河の腕を振り払い、カイルは怒鳴る。

 死ぬまでここにいろと言うのか。

 そんなことになってたまるかとカイルは思う。


「本当にカイルったらいい友達を見つけたね」


 師匠として嬉しいよとカイル、大河、祭の様子に微笑ましい笑みを浮かべるヤト。


「うんうん。祭ちゃんにとっても大河クンにとってもいい刺激になるから、来てくれて本当によかったよ」


 ついには取っ組み合いに発展している大河とカイル。

 負けているのはカイルで、祭がさらにカイルの上にのしかかっている。

 祭も大河も、カイルよりも随分年上ではあるが、ああやってカイルと絡んでいると同年代のように見える。


「よっぽどいい縁なんだろうね」

「みたいだね。さて、カイル」


 パンッと一度手を鳴らしてヤトがカイルを呼ぶ。

 大河、祭の二人に押しつぶされているカイルは何とか身動きを取ろうとするが、大河よりも祭がのしかかっているせいで動けない。


「せっかく私が珍しく真面目に呼んでるのに。お仕置きまでじゅーう、はーち、さーん……いーち……ぜ」

「数字飛んでるっつーの!」


 慌ててカイルは祭を押しのけて立ち上がる。

 ヤトは惜しい、と舌打ちをする。

 もう少しでお仕置きができたのに、と。


「それじゃあ祭ちゃんはパパと狐術練習しようね~」

「うんっ。大河はどうするの?」

「俺はひとまず、部屋の確保と、布団の用意、食事の用意だな」

「じゃあカーくんっ頑張ってね!」


 そう言いながら神、祭が出ていき、その次に大河が出ていく。

 彼らが完全に出ていくと、ヤトが口を開いた。


「とりあえず、こっちも始めようか」


 杖がなくても、魔術が使えるようになるために。

 それはカイルにとって大きな成長になるだろう。

 本当ならば大きな任務を与える前に指導をするのだが……。


「さぁさぁカイル。楽しい楽しい地獄の特訓をしようか」

「……う、うぃっす……」

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