第14話

 大河と祭が昼ご飯について話をしている時。

 カイルはリトに問う。


「リト兄貴。何でこんな所にいるんだよ……」

「えーと……」


 言いかけて、リトは小首を傾げる。

 それに合わせてカイルも首を傾げた。

 しばしの間を置いて、リトが呟く。


「何でだっけ?」

「うぉおおおおい! そんなもんオレが聞きたいぜ兄貴!」

「とりあえず、昼ご飯の用意をするぞ。パパ上に何をされるか……事と次第によらず、もれなく貴様も引きずり込むからな」


 大河も命、かかっちゃってるもんね、と祭はリトに手を差し出して掃除道具入れから出してやる。


「わかってるなら止めてやれよ。お前、龍神だろ? 神がゴーストより弱くてどうすんだよ!」

「パパ上に杖を封印されて自分の仕事とやらも満足にできていない人間に言われたくはないな」


 睨み合いながら、カイルと大河は祭にリトを任せて台所へと向かった。

 先程、大河が言った通り昼ご飯は丼の予定である。

 おあげの卵とじを大河は手早く作り上げた。


「よし、運ぶぞ。早く行かなければパパ上にどんな制裁を加えられるか分かったものではない」


 二人は丼を持って台所を後にする。

 すでに神は座っており、祭はリトの前で手を振ったり首を傾げたりしている。


「あ、来た来た。遅かったね、大河クン。パパ腹ペコなんだよっ。そんなにお仕置き、されたい?」

「謹んで遠慮します」


 お詫びに、と大河は神の前に丼を置いた。

 その丼にはこれでもかと油揚げが卵よりも多く乗っていた。


「さっすが大河クン! わかってるねぇ~儀園神社の若奥様」

「俺は男です。若奥様はやめてください」

「じゃあ今度、パパとイケナイ遊びでもしてみる?」

「しません! パパ上。純粋無垢で天然で可愛い祭の前で穢れたことを言うのはやめてください」


 仮にも神職でしょう、と大河が諫めると、神は大河にいけず、やら何やら言っている。


「可愛い祭が邪道に走ってしまうなんて……考えただけでも嫌過ぎます」

「お前、実はホ―――」

「何だ? それ以上言ってみろ。口にした瞬間、貴様の首を落としてやる」


 それに、と大河は言葉を続ける。

 曰く男色趣味ではなく祭だけは例外とのこと。

 一人でも対象になったら、その気があるっていうことではないのだろうか。

 口にすると本気で首を落とされてしまいそうなので、カイルは胸の内に言葉をしまい込み、それよりもとリトを見る。


「パパ~、イケナイ遊びって何~?」

「祭ちゃんにはまだまだ早い話だよ。それよりカイルくん。そっちの人は?」

「あー。オレの兄弟子」


 まだ何でここに来たのか聞いていない。

 彼は出された緑茶を、眠たげな目で不思議そうに見つめている。

 何から説明すればいいのか分からず、カイルはまだ手を付けていない目の前の丼をひっくり返してのたうち回りたい気分になった。

 とにかく聞かなければならない。


「で。リト兄貴は何でここに来たんだ?」

「カイル……実はホモだったの?」


 小首を傾げてリトが問い返す。


「リト兄貴ィ! 質問に質問で返すなよ! ホモどうのこうのの話はとっくに終わってるから! ついでにオレは決してホモじゃねェから! そりゃちょっとはトキメいちゃったりしたけどよ」

「ホモだったんだ……身の危険を感じるよ、カイル」

「兄貴! 違うって言ってんだろ! それよりどうしてここにいるんだよ」


 ギリギリと歯を鳴らしてカイルは、いつものことながらぼんやりとしているリトに詰め寄る。


「そりゃあ兄弟子と揃ってパパ達を倒しに来たんでしょう? パパは喜んで受けて立つよ。二度と足腰立たなくしてあげるから。特にカイルくん」

「うっせェ! クソ狐! テメーはすっこんでろ!」

「パパ上。カイルは血の気が多いので足腰を立たなくしてやったくらいではすぐに復活しますよ」


 カイル、大河、神が言葉を投げ合っている間、丼を食べ終えた祭はリトの隣に腰を下ろすと名前を聞く。


「外人さん、お名前は? ボクは祭だよっ」

「僕はリト。一応、というかなんというか、とりあえず? カイルの兄弟子だよ」

「おーい。一応とかとりあえずってリト兄貴、酷いぜ」

「そんなに長い間、一緒に修行してないし……ほとんど入れ替わりだったし。えっと、祭、ちゃん?」


 名前を覚えてもらえたことが嬉しかったのか、祭は大喜びで大河と神を紹介する。

 大切な友達の大河。

 すごいパパ、と。

 大河と神は祭の紹介の仕方に喜び、感動している。


「そういうことはもういいからよ、いい加減リト兄貴、来た理由言ってくれよ」


 話が一向に進まない。

 その間にも神が言葉を投げつけてくる。

 カイルは黙ってろと怒鳴るが、


「えぇ~。構ってくれなきゃパパつまんないっ」

「ジジイが可愛く言ったって微塵も可愛くねェよ。大河でも使って遊んでろ!」

「それは聞き捨てならんな。貴様と俺はもはや、パパ上の玩具で運命共同体だ」


 勝手に運命共同体にするな。

 頭を抱えながらカイルは大河に言い返す。


「うぅ、大河可哀想……」

「祭……俺のことを心配してくれるなんて、俺は嬉しいぞ」


 彼らがいては話が進まない。

 ここは一度、リトを借りている部屋に連れていき、理由を聞いた方がいいかもしれない。

 カイルがそう考えリトを見ると。

 彼は眠たいのか舟を漕いでいる。


「ってリト兄貴! 頼むから寝るな! 寝るんじゃない! 用事を言え!」


 がくがくと彼の肩を掴んで数度揺さぶると、ハッとリトは目を覚ます。


「用事……」

「そうだ! 用事だ!」


 何の意味もなく、ここに来たとは思えない。

 リトが、口を開く―――。

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