第3話
鳥居をくぐった先は何の変哲もない神社だった。
大きい割に閑散としていること以外は。
それに空気もどことなく違うように感じる。
これが神社というものなのだろうか。
聖域という空間に満ちている清浄な気とはまた別の気配も感じる。
これはまさしくゴーストの分類に入る気配だった。
自分の瞳は間違っていなかった。
やはりこの神社には棲んでいるのだ。
ゴーストが。
だが気配が分散されているせいか、思ったようにゴーストの渦の出所を見つけることさえできないでいた。
その時、前方に着物を着た男がいるのを見つけた。
色素の薄い茶髪の男である。
参拝客のいないこの神社にとっては貴重な参拝客であろうか。
「
神社の境内でかくれんぼ。
何とも平和な光景だ。
溜息をつきながらカイルは境内に置かれたベンチに腰を下ろす。
清浄でいて同時に妖気も孕むこの神社は一体何なのだろうか。
「パパ張り切って見つけちゃうからね~」
先程からやたら、男が目に付く。
何と大人げないのだろうか。
デレデレとした顔を見ると、どうやら随分と子供にべったりとした親バカらしい。
「あ! 祭ちゅわん見ーつけた!」
男に冷めた感情を抱きながら、カイルはそろそろ他を調べようとベンチから立ち上がったその時……唐突に何かがカイルの上にのしかかった。
逃れられるはずもなく。
カイルはあっけなく地面に崩れ落ち、降ってきた何かに下敷きにされた。
「おぐっ!?」
思い切り腹と顔を地面にぶつけた。
あまりの痛みに、のたうちまわりたい気分ではあるが、自分の上にのしかかっているモノのせいで身動きすら取れない状態である。
「あっはっは~まだまだだねぇ~。もうちょっと頑張ろうね~」
男はカイルを無視して、祭というらしい自分の上にのしかかっている子供の頭を撫でてやる。
「パパに見つかっちゃった~。でもね、ボクうまく着地できたでしょ?」
「うんうん。パパ、惚れ直しちゃった~。かわいいかわいい祭ちゃんが怪我でもしたらパパは……パパは……もう生きていけないよ!!」
親子はまるでカイルが見えていない。
笑い合う二人の声に、ついにカイルは切れた。
「この……いつまでもオレの上にのしかかってんじゃねェよ!!」
勢いよく立ち上がるカイル。
一方、カイルの上にのしかかっていた祭は彼の背中から転がり落ちた。
「人を潰した挙句、のしかかっておいてテメーは詫びの一言、も……」
文句を言おうと祭に向かって振り返った瞬間、思わずカイルは言葉を失う。
親に似たのか、綺麗な色素の薄い茶髪。
瞳は大きな黒曜石のような漆黒。
少女めいた顔立ちをしているが、明らかにそれは少年で。
水色の袴がよく似合っている。
しかし、思わずカイルは頬を染めてしまった。
一瞬、自分が祭という少年に対して抱いた思いに、しばし間をおいて気付いたカイルは叫んで走りだした。
「オレは……オレはノーマルだぁあああ!!」
カイルはその場の空気にいたたまれず、その場から走り去ったのであった。
祭とその父である
「あの子、いつの間に……?」
ふと、祭は自分のすぐ傍に白い杖が落ちているのを見つけた。
今しがた走っていった少年のものらしい。
神の着物の袖を引っ張りながら、祭は杖を指差して言った。
「パパ~。さっきの人、杖落して行っちゃったよ?」
「ん……? これは……。祭ちゃん。これに触っちゃダメダメ。火傷しちゃうからね~。危ないから封印しちゃおうね~」
神は祭の頭を撫でて真剣な表情になる。
だが、悲しいかな。
温和な表情とは別人であるのだが、神の顔は力を込めすぎて妙にダンディーな顔になってしまっている。
残念な顔であることも気にせず、神は指で印を結び呪文を唱えた。
一陣の強い風が吹き上がったかと思うと、その風は杖に絡んで消えた。
「さ、祭ちゅわん。ちょーっとおつかい、頼んじゃおっかな~」
何事も無いように杖を拾い上げる。
「何? 何?」
おつかい、と聞いて祭は幼子のようにワクワクした表情で神に聞く。
「さっき逃げ出した子にこの杖、返してあげてね。
「はぁい! 大河ぁ~! 大河どこ~? パパがね、ボクと大河におつかいだって! 大河ぁ~!」
神社の母屋の方から出てきたのは、祭と同じように水色の袴を着たスラリと背の高い青年。
祭は大河と呼んだその青年を連れて神社の外へと出て行った。
「さぁて。久しぶりに楽しい日々になりそう。ちょうど大河クン虐めるだけじゃ物足りないって思ってたんだよね~」
ウキウキ気分で伸びをしながら、神は神社の奥にある母屋へと戻って行った。
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