第13話 悪夢
(これは、どういうことなんだ)
俺は未だに目に映っている状況が理解出来ていない。
(なんで、俺がここにいるんだ。)
そう。俺の目の前で楽しそうに黒髪の女と料理をしている男はどうみたって俺なのだ。
少し濃い青色の髪の毛はきっと切る余裕すらないのだろう。腰あたりまで伸びていてまるで女性のような長さだ。
今の俺は髪を結んでいるが、実際髪を解けばそれに近いくらいはある。
それに、髪だけではない。容姿に口調、声だって同じなのだ。
(なんで、どうして。)
目の前にいる男は俺と似ていすぎているのだ。いや、同一人物なのだから違うところを探せという方が無理があるだろう。
それでもだ。何故この男を俺は見れているのだろうか。
そもそも俺はどうしてここにいるのだろうか。俺はシャルムの家に行って仮眠を取っていたはずではないか。
(ん?)
そこでようやく気づいた事がある。俺は元々一人称が「僕」だったはずだ。なのに今は「俺」と言っている。
何故だ。なぜ無意識のうちに一人称が変わってしまったんだ。
(………。)
駄目だ。いくら考えても答えは浮かんでこない。
何故僕がここにいるのか、何故僕は無意識のうちに一人称が「俺」に変わってしまったのか。どんなに考えても答えは浮かんできそうになかった。
コンコンコン。
そこで我に返る。誰かがノックをしてきた。
(あ…。)
それと同時に思い出す。これから起こる全てのことを。
「はーい。」
そのノックに料理をしていた女の方が返事をする。
「いいよ俺が出るよ。」
「お兄ちゃんはここで作ってて、私よりもお兄ちゃんの方が料理はうまいんだし。ね、」
そして女はドアに向かっていく。
(あぁ、駄目だ!出ちゃダメだ!!)
俺がいくら言葉を発しても女の方は止まる様子はない。
まるで僕の言葉が聞こえていないかのように、
ガチャ、キー
女がドアを開ける。それと同時に僕は女の元に走っていた。
僕はこれから何が起こるか分かっている。これは僕の過去のお話だ!だからこそ僕は女の元に走っていく。
そして、白い防護服を着た大人が家の中に入ってくる。
「キャッ。」
女のか細い悲鳴が上がる。それを聞いた男がドアに向かってやってくる。
(ダメだ!来ちゃダメだ!!)
僕が声を上げるもやはり聞こえはしてないようだ。
僕は知っている。この後女が連れていかれることを、そしてその後僕がどれだけ悲しむかということを。だからこそ僕は女の腕を掴んで…
掴めなかった。掴もうとした手は女の腕を通り抜け空を切った。
(なん、で…。)
僕は救えなかった。こうなるとわかっていたのに救えなかった。多分僕の声が通らなかったように僕はこの世界のものを触ることは不可能なのだろう。まるで幽霊のように。
そして、男が来た時にはもう…玄関から女はいなくなっていた。
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