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「ま、おまえも難儀な教授の世話を押し付けられたもんだよ」

キムリナ教授が無くしてしまった記憶媒体を探しに下を向いて歩き回るソンジェの後を、テヒョンもまたちょろちょろとついて歩いている。目線は下に落として捜索に一役買ってくれてはいるのだが、いかにせんよく喋る口が忙しい。テヒョンは美術学科の副手なので実習のある午後は割と忙しいはずなのだが、もしや此奴ゼミから必要とされてないのではあるまいか?という疑念がソンジェの中で沸く。

 今のソンジェとテヒョンは、まるで巨大な2羽のアヒルが仲良くヨチヨチ散歩しているかのようだ。上背のある2人が連れ立って腰をかがめ、左右に頭をふりふり地面を睨め回している姿はどこか可愛らしくも、珍妙な迫力があり、すれ違う学生たちが何事かと、怪訝けげんな顔で振り返っていく。

「俺が補助で入ってなかったらもっと酷いだろう。学生が不憫だからな・・・今回に限らず」

「まあな」

キムリナ教授は何かと問題の多いことで有名なのだ。

「もしかしたらイ・スギョン先生がデータ送ってくれるかもしれないと思ってメッセージ送っておいたんだ」

「そっちが間に合うと良いな」


2人は大学の真ん中を通る天の川通りを駐車場のほうに向かって下っていく。大学で最も人通りの多い場所だ。音楽学科の棟からだろうか、ピアノの音が聞こえてくる。こんなに晴れた気持ちの良い日なのに、アスファルトを這いずるように睨め回しながらそぞろ歩かねばならぬ悲哀よ。


20号館前まで来たあたりでテヒョンは「じゃっ、俺リトグラフの部屋寄ってくからー!グッドラック!」とドアを押して入っていってしまった。

その場に佇んでしばらく見ていたら、テヒョンはリトグラフ実習室の女子たちと楽しげにお話ししている。ソンジェはぷうとふくれてしまった。なんだ、あの薄情モノめ。ソンジェが見ていることに気づいたテヒョンはこちらに向かってひらひらと手を振ってくる。おもしろくない。今日は何もかもがおもしろくない。

「チッ!!!」

ソンジェは忌々しげに舌打ちすると、駐車場の方に向かって歩き出した。




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