第11話 雷鳴直撃

(何故こんなことになっているんだろう)




レティは誠司からルークとの対決の場所を求められ、屋敷からいくばくか離れた自然に包まれてはいるものの外部の人間が立ち寄らない兵士たちの訓練場をあつらえルークと誠司を見守りながら独白する。








まだ知り合って日が、時間すら浅い短い付き合いではあるものの多少は見えてきた誠司の人柄と幼い時分より付き合いのあるルークの性格を考えればお互いがどこかで一度ぶつかるとは思っていたがよもや僅か数時間でここまでの大事になるとはレティも考えてはいなかった。






そしてルークの中にそこまで負けず嫌いというか、熱いものがあるとも思っていなかった。元々初めて、レティと知り合ったときは一人だけの召喚だったこともあり大人しく引っ込み思案な子供であったのだ。


成長するにつれて生意気にもなっていたがどこか達観したような、どこか世の中を冷めたものの見方をするようにもなっていたのだ。




(元々、直接人と争ったりなどする子ではなかったのにね)


7歳のころからの付き合いのレティは知らなかったルークの一面に感慨深いものを覚える。








誠司のルークに対する突然の行動は十分、レティを驚かせたがそれよりもその後のルークの涙を流すほどの感情の奔流の目を奪われた。




悔しいのか、恥ずかしいのか、当人でなければ分からない。16歳らしいとも言えるが、ルークなりに何か思うことがあったのだろうか。








 地上人である奇異な出自、今現在でも数万人はいるといわれているがその数は決して多くはない。




そしてその中でも抜きんでた導力センス――この世界における生活に欠かせない、世界の理を、原子を操れるともいうべき〈導力ナーガ〉をルークは、レティの知る限り誰よりも操れる。




地球の地下中枢、通称〈真なる世界〉出身のレティの知る限りでもルークはずば抜けているのだ。








 それは単純に彼が地上人であるため、他の人間より〈導力〉ナーガに耐性があるというだけではない。




彼の研鑽か、いや研究か。どちらにしろルークは間違いなく何かを掴んでいる。




地上で健やかに育っていてもさぞ優秀な人材になっていただろう。




この世界もあくまで地上人から見たら不思議な仕組みが働いているとしても10億以上もの人が住まう地球であり現実なのだ。




 環境が変わったから人より耐性があるから、それだけで地上人が何の積み重ねもなく力を発揮できる甘い世界ではない。地上人というのはほんの少しのアドバンテージを与えてくれるだけだ。




だからこそルークの弛まぬ努力、それが実を結び、レティは信頼と期待を込めて地上人の組織の一つを任せている。








だが彼はまだ16の少年なのだ。




その年齢でありながら余人をさしおき一つの組織を任される、それが彼に孤独をもたらした一因でもあったのだろう。レティはいつからかルークからの親愛の情は感じても距離を感じるようにもなっていた。




しかしそれについてレティに何か言う資格はない。




 ルークの努力は何のためか、それを強制はしていないがそう仕向けたのはレティ自身なのだ。




自分の駒としてルークだけではない何人もの人間を大きな遊戯盤のコマのように扱い人生を消費させているレティはルークの支えにはなれないし、なる資格もない。




ある意味、ルークにはどんな形であれ、対等に正面から全力で向き合ってくれる人間が必要だったのかもしれない。




もしこのままレティの元で暮らしていたとしても、ルークはどこか満たされない気持ちのまま過ごすことになっていただろう。




ただし誠司は、少々刺激が強すぎるかもしれない、下手をすればルークは立ち直れなくなるほどのダメージは負いかねはしないのかがレティは心配であった。






誠司とルークはおよそ10メートルほどの距離を開けたところで向き合っている。




国の兵士が訓練に使用しているこの場所は、決闘というにはただおおぴっろげな広い地面というだけで観客もおらずどこまでも寂しい。




だが当人たちにはそれはどうでもいいことである。




ルークは、文字通り万全の用意をしていた。




恰好こそは先ほどと同じだが手には宝石を頭にはめこんである細長い杖のような鉄製のものを携えている。細身ながらその杖にはいくつもの紋様が描かれている。




対する誠司は、スーツ姿にネクタイをゆるませた出で立ち、煙草をもう吸ってはいない。








両者はともに開始の合図を待ってはいない。






ルークが売って誠司が買った喧嘩だ。




始まりはルークからなのだ。








ルークが手にしている杖は、彼が作り出した、彼の研究成果だ。




この世界の仕組みについて彼なりに考えた理論に沿った作品だ。




導力とは、一体何なのか。火を起こし、水を起こし、大地の形を変える。




 だが決して無から有を生み出すわけではない。水はただ大気の水素を集めるだけであるし、火も酸素に摩擦を加えて起こしているだけ、大地はその形を盛り上げたり砕いたり今ある形を変えるだけだ。








 そしてどの力も無制限ではない、その場に溢れる導力の素となるべきものが枯渇するしそれは大地を果ては枯れさせる、また使用においても人間の体にはその力の酷使には疲労感を伴い中毒症状さえあらわれる。それは地上人でさえ変わらない。地上人は5-20倍ほどその使用に耐性があるだけなのだ。








ある時、ルークは気付いてしまった。




この力を起こすスイッチとはその人間の寒いという身体の感覚に対して暖をとろうとするもの、この世界の獣が喉の渇きを潤すために水を求めるもの、脳からの指令かそれとも別のなにか、意思というべきトリガーをもってして起こすもの。




それは脳から発せられる電波ともいうべきものを捕える仕組みなのか、しかしどうであれ理屈でいえば地球における自然現象、台風、雷、地震さえも起こせる力なのだ。




ただそれを起こすには仕組みを理解し操ることが必須であり、なおかつ人では耐えれない毒に絶えれることが条件であるため、不可能に近い。この世界の獣でさえそんなことはできないのだ。








 それでも――この世界にもあった導力技術、なるべく人間への毒に成りうる導力に対する負荷を減らすものをルーク独自が昇華させ発展させた杖ならば疑似災害とも言うべきものは起こせる。




もちろん、身体への負荷は大きいが杖のおかげでルーク単独での力を使えるのだ。








今、このとき、人に使うことはないだろうと杖を完成させたとき、自分に課していた戒めを解き放つ。




彼なら大丈夫―――およそルークにしてはありえない非合理的な思いから全力をぶつける








ルークは誠司に杖を向けるとただ念じる、雷よ――








そして杖からまっすぐ伸びた光線はぼんやりと杖を眺めていた誠司を突然、貫く。








「がぁぁああああ!!、ぐぉおぉおおおおおお、がああああああああああああああ」




獣のような雄たけび、唸るような咆哮、誠司の身を包むスーツはいたるところが小さく裂けていく。




目視できる雷、青白い光のようなものに身体を包まれる。




身体の血液が熱い、痛いではなく熱い――沸騰するようだ。




「ぐぅううっ!」




常人であれば黒コゲであろうが、誠司は苦痛に顔を歪めるが倒れる気配はない。




その様子にルークは、一瞬躊躇するがやめる気配はない。




疑似的な雷とはいえ常識外の力の発現に彼への負荷も途轍もなくたっているのがやっとなのだが誠司が意思を持ちしっかり二本足でたっているかぎり続行なのだ。




二人の様子を見てレティも狼狽する。




雷を単独で人が起こすこと、それに耐えうる人、どちらも彼女の良識は受け入れられないがそれでもなんとか理性の声を絞り出す。




「やりすぎだ、ルーク!君の勝ちだ、それにセイジだけではない、君もただでは済まないぞ!」




だがその声は当人たちには届かない。




「がぁあああああっ!」




吠え続ける誠司、その身体を包むスーツに見る影はない、しかし力尽きたのはルークの方であった。




時間にすると数十秒、膝をついたのはルークの方であった。






「はぁ、は、、はぁ、やっぱり倒れないかぁ、」




肩で息をしながらどこか満足な顔をしているルーク、そのまま倒れこみそうだ。




生物としては本来であればほとんどの生物が耐えうるものではないはずであったが誠司ならば自分の全力を受け止め切ってくれる気がしたのだ。




次はルークが誠司の全力を受け止める番だ、おそらく無事では、いやもしかすると命がないかもしれない。




ただこちらも相手を殺したかもしれないほどのことをしたのだ、今度はルークが相応の対価を払う番なのだ




「て、てめえええ!」




電撃が止まるとボスボスと煙が身体から漏れ出る誠司、だがさきほどまでの苦痛はなんのその激昂した表情のまま、ツカツカとルークに歩みだす。








その様子にレティは理解が追い付かない。




「る、魔人ルドゥ、、」




そしてこれから起こる惨劇に目が離せない。




肝が冷える、誠司はこれから何をする気なのだろう。あれほどの事があってタダで済ます男ではないはずだ。




だがその思いは斜め上の方向に裏切られることとなる。

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