第6話 勝手な奴ら
レティや格の違いから立ち入ることができない男たち、そして少女が蛇に睨まれた蛙のようにその2人に惹きつけられていた。
血なまぐさい戦闘というものであることを忘れさせるほど、この戦いは余人を寄せ付けさせはしない
美すらも感じる個として鍛えられた二個の生物の行方が目が離せない。
どちらからも合図があったわけではないが、その空間がひび割れる。
周囲には瞬間、風が吹いていたように感じられた――いや実際吹いていた。
それは
先に動いたのは銀髪の男の方であった。
その速度は、まさに言葉どおり疾風であり、何者も寄せ付けれないものと感じられるものであった、実際誠司ですら一歩も踏み出せていなかった。
しかしその後、誠司はごく一瞬の間に交わされたやりとりの中で短く内心舌打ちをするのだった。
それを理解しているのは銀髪の男と誠司のみだろう。
あろうことか男は、誠司ですら反応しがたい神速の速度で敵の目の前まで移動しながらもまだ大剣を抜かずに、掌底を誠司にくりだそうとしていたのだ。
その余計なワンモーションが無く、初めから同時に抜刀していれば誠司もただではすまなかっただろう。
だが傍から見ても分からない、そのたった一つの掌底という動作を加えてしまったため、勝利の天秤が銀髪の男に傾くことはなくなかった。
そのやりとりなどまったくわからない周りより2回りは幼い少女が、惨状を予想し一瞬目を閉じる。
だが次に目にしたのは銀髪の男の顔のこめかみを果物のようにつかみ、指をくいこませて男を左手一本で持ち上げている誠司であった。
銀髪の男はバタバタと魚のように手足を動かし、剣を落とし両手でなんとかこめかみをつかむ誠司の手を必死にはがそうするが、ビクともしない。
(なめたことするからだぜ?てめぇ)
そして男の顔面をつかんだまま壁にたたきつけるその勢いで壁にヒビが入る。
文字通り壁にのめりこみ、男は壁に顔をつっこんだまま痙攣を起こしているのみである。
男を片手で壁にのめりこましたまま誠司はレティへと顔を向ける。
警戒しながら赤毛の男は誠司の背面にいながらも蛇に睨まれた蛙のように動けない――
その光景に息をするのも忘れ少女は恐怖の色を目に浮かべ、震えながら固まる。
他の人間もレティ以外は明らかに目の前のあまりの出来事に口を開くのすらできないほど誠司の存在に呑まれている。
レティはそんな周囲には目もくれず誠司の前まで静かに歩いていく。
少女が気付、恐怖を置き去りにしてなんとかレティをかばうように前に出るが、レティはそれを少女を見ずに手で制する。
目はどこまでも目の前の誠司を見つめたままだ。
誠司は片手で男を壁にのめりこましたまま顔だけレティの方を向いたままだ。
誠司との距離が1メートルほどの距離になったところでレティは、彼女からすると二頭身は高い誠司に向き直って宣言する。
「そこまでだ、セイジ、私が私の都合だけで子供たちや皆を利用しているんだ」
「彼らは関係ない」
彼はは言葉を発さない、まるで射殺すかのような目をレティに向ける。
その場に流れる時間は、時の流れが違うのではないか、と思わせるほど遅く感じさせる。
誠司もレティも目を離さない、離せない。
レティの目には恐怖の色はなく何かを受け入れているかのように見える。
決して彼女の言葉は額面通りではない、彼女の独断と指示でこれほどの大掛かりな仕掛けをうてるわけがなく、様々な思惑が生んでいる状況であるはずなのだが彼女はすべてを自身の肩に背負うことを決めていたのだ。
たとえどのようになろうと、自分の生み出した結果は甘んじて受け入れよう、そんな覚悟すら感じるレティの凛とした立ち姿には美しさすら感じる。
永遠とも呼べる沈黙を打ち破ったのは、銀髪の頭をつかむ左手を離して身体をレティに向けた誠司であった。
「随分、勝手なんだな。てめぇはよ……」
「そうだね」
「そんな勝手なお前の目的はなんだ?」
「目的か――」
「証明じゃないかな」
何の、と聞く者はこの場にはいない。
その答えに満足したわけではないだろう。
しかし誠司は視線を外しレティに背を向け壁にのめりこました男を引き上げる。
ふう、と短く誠司は息を吐く。
「何もする気はねーし約束もしねー、だがてめーの邪魔はしないでいてやる」
唐突な発言にもレティは何も言わない。
ただ無表情に次の言葉を待っている。
「だから――てめえはもうガキを呼び出すのはやめろ」
何を言っている、大きな片眼鏡の少女はそう言いたかったし叫びたかった。
この国の事情も知らない異邦人が、何のために馬鹿にならないコストをかけて
場合によっては一からそれこそ言葉から教えなくてはならないリスクも承知でこんなことをしていると思っている。
地上人でないとできない生活に欠かせない導力技術、彼らほど耐性がないと行くのも危険な地域の開拓、それらを腕力だけは強い異邦人が一人、邪魔をしないという約束一つに召喚をやめろというのだ。
遠慮せず地上人を召喚する他国との差も広がり、ただでさえ衰退の途にあるこの国を支えようと、レティが有象無象の権力者たちをいろんな手管を使いギリギリの綱渡しをしているのに、そんなことをすればレティの敵対者たちにいい口実を与えるだけ取引にもならない馬鹿々々しい話だ。
(そんなの承諾できるわけない)
だがそんな少女の思惑とは別にレティはあっさり前言を撤回し承諾する。
「わかった。それでいい。どれほどの付き合いになるかは分からないがよろしくセイジ」
それを見て誠司は、どこか不満げに頷く。
「フン、想定内だったみてーだな。まぁとりあえずこいつらを医者にでもみせとけや、レティ」
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