第3話 なんだこりゃぁ
地球の表層、一般には地球儀を世界地図として誠司含めて、ほとんどの人間が認識している世界を〈偽なる大地〉称しているに対して、誠司を召喚した彼らが住まうここは、〈真なる世界〉と呼ばれる。
地球の中心、地下中枢に位置し、大小含めた12の国で治められ判明している限りで12億を数える人が生活を営む。
大陸は全て陸続きであるが、領土問題などを含めた諍いは絶えない。
どこを始まりとするかは諸説あるが文字が現れたのを起点とするならば歴史はおそらく5000年を数えるらしい。
元々5000年以上前,国といった枠組みさえなかった頃から、言語と文字に関しても共通してラテン語が使われ現在では地上と同じように英語へと形を変えている。
この変化には、〈真なる世界〉が召喚技術を用いて3000年程前から地上文化を度々取り込んでいるのも無関係ではないだろう。
この世界の学者にとって誠司たちが住む地上、〈偽なる大地〉のラテン語自体、大昔の〈真なる世界〉からの追放者たちがもたらしたものではないかと見るのが主流派らしい。
その逆などはもっての他、偽なる大地からの来訪者発祥などはあり得ない、そんな主張をするものは〈真なる世界〉において変わり者か鼻つまみ者だけである。
人種としては、分類が多少はあるそうだがこの世界の人間にとって話題になることもほとんどないため、今日まともに自分が今は金髪、青い目ですが、三世代前の祖父は黒い肌でその後は黄色い肌の娘の血も入っています、などと言えるものは基本的にはいない。
誠司がこの世界の人間を見ても全く統一感を感じない。
もしかしたら誠司のいる国境が200ほどに分かれてそれぞれが国や人種に分かれている世界も数百、数千年を経るとこのようになるのかもしれない。
元々地球の中でもかなり小さい面積の日本でさえ、混血があまり進んでいないよう思えるが、北から南と様々な人種が混じって今の日本人が形成されているのだ。土地によって顔の造形が違うように感じるのは当たり前なのだ。
そして最も大きな、この世界の根幹にも関わる、外の世界、彼らの言葉で言う誠治たちの住む〈偽なる大地〉との違いとは〈導力ナーガ〉の存在だろう。
原子の力と言えるのだろうか、直接大地の力を借りて火、水、雷などを念じるだけで使えるようなのだ。
実際、誠司が半信半疑で指に意識を集中するとマッチのように火が指先よりでてきた。
(ライター要らず――、だな)
熱も感じ、本物のようである。
この世界で誠司のような――彼らでいう地上人がが召喚されたのは、地上の人々はこの力を使える耐性が圧倒的であるためらしい。
どうやら〈真なる世界〉の住人たちは、あまり導力を使うと疲労感に襲われ極度の怠気なども伴う「導力中毒症」なるものになるとのこと、そこから免疫力なども低下し様々な病気の併発までまねいてしまうそうなのだ。
しかし地上人であるならば同じ症状にならないわけではないが、彼らの言葉でいう〈真なる世界〉の人々より耐性が10-20倍ほどであるため、生活に欠かせないインフラ装置、水や電力、火力を扱う〈導力〉の担い手として求められているとのこと。
堅物にみえる白髪まじりの大学教授のような男性の小一時間ほど、ざっくり説明という名の講義を聴きながら誠司は情報を整理しながら頭の中を整理していく。
こんな状況では情報はどれだけあっても困りはしない。
だが彼や彼女らがどこまで事実を語るかは分からないし、卵の白身について語っても黄身については語らずということは十分ありうるのだ。
「この度、そなたがこの世界に呼ばれたのには私どもに必要であるからであり、偶発的な事態でもなく意図したものなのだ」
この発言にはいささか説明というより誇らしげなニュアンスが込められていた。
偶然ではなく意図的に行ったといったことを召喚技術を誇りたいのか、どこぞの大学の教授でもやってそうな男は少し胸を張る。
誠司からすればそんなものに対して1ミリも感銘を受けるわけではなかったので冷ややかな視線を男性に向ける。
偶然でなければ余計、質が悪い。そんな気もしてくるのも手伝ってか、だんだんと元来長くもない誠司の忍耐と書かれた心の爆薬の導火線にうっすら火が点き始めていた。
「もちろんそなたにも事情があるだろうから私たちなりの悪くはない待遇で迎えさせていただくつもりである」
簡単な子供にもわかるような絵を使いながら教鞭のようなものを使い大学教授のように男性は言葉を続けていく。
その途中まで誠司はいつのまにか煙草に火をつけ飲み物のグラスに勝手に灰をこぼしながら、しかめつらしい顔で黙ったまま話を聞いていたが、突然、立ち上がり聞いていた話を手で遮る。
「おっさん、あんたの長い説明を聞くのも悪くはないんだが、一度結論から聞きたいんだよ」
一瞬、男性は話をばっさり切られたことに顔をしかめるが意見を求めるように褐色の肌のこの会の中心人物に目を向ける。
誠司もその人物に視線を送る。
「お前、俺に何をさしてーんだよ?」
ぶしつけな言い方に一同が赤毛の男性を除き、顔を曇らせるが意見を求められた当の本人は意に介した様子はなく、納得したように口を開く
「それを答える前に一つだけいいかな? 」
「なんだ」
「君をどう呼べばいいかな」
名前ではなくどう呼べば、といった言い方に誠司は気付いたが特に目くじらを立てるわけでもなく、答える。
わざわざ誠司の地上における素性など興味がないのか、詮索する気が無いのか、もしくは誠司のことを知っているのかもしれない。
特に隠すこともなければ怯える必要もないため誠治は、あっさり答える。
いきなりの急展開であったとしても今のところ動じず、また躊躇せず得体のしれない相手に本名を明かせる橘誠司という男の肝は、どこまでも太い。
「橘誠司だ、セイジと呼べ」
「そうセイジか。じゃあセイジ、簡単にいうとこの世界を救ってほしいんだよ」
「馬鹿にしてるのか、てめー……、ガキ相手の話じゃねえんだよ」
一瞬呆けたように頭がくらっとしたが誠治はなんとか姿勢を保つ。
そんなことを言われて納得するのは子供か、頭の足らない人間だけだ。
見ず知らずの世界すら違う、素性や性格、能力さえわからない人間に世界の命運を託すこと、そしてたった一人の、彼らの言葉で言うならこの世界での耐性が多少強い、くらいのだ――たった一人の地上人に、そこまでのことができるとも思えない。
しかも一体何から救えと言うのだ。
別に世を裏から統べる魔王がいるわけでもないだろう。
――今でも十分状況は常識外だから、魔王もいるのかもしれない……
「それなら、この世界を手伝ってもらうためってのはどうかな」
呆気に取られている誠司を横目にクスッと微笑を一瞬浮かべたように見える褐色の女性は、発言を大分スケールダウンした内容に言い換える。
「んー世界を救うってのがざっくりした表現だったことは認めるけど、別に間違っているわけでもないよ」
誠司の怪訝な視線を受けて、レティと名乗った褐色の美貌の持ち主は、詳細について話し出す。
「具体的にはこの世界の人ではできない、生活に必要な導力技術を使った手助け、この世界の魔物の駆除に、場合によってはそ・れ・以・外・の・脅・威・からこの国を守ってほしい」
「はい、分かりました、と俺が聞くと思うか」
「簡単に受け入れてくれるとはこちらももちろん思ってはいないさ。ただこの世界に召喚されたほとんどの人はこちらの提案を受け入れてくれている、こちらの世界での待遇は彼も言ったように悪くはない」
続けてレティは、露骨に誠治が享受するメリットも匂わすことを忘れない。
「衣食住はもちろん、高い生活水準での暮らし、そして地上人というのはこの世界では賛否両論の意見はあっても高いステータスであるからね」
ほらきたことか、分かっていたテンプレート通りの解答に誠司はフン、と鼻をならす。
「ほとんど、か――。召喚された奴らってのは俺みたいのもいたのかよ? 」
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