1、疫病 (3)
半月が出ている。
トゥーイ達の住むチョンプーの村は、
トゥーイはカラカボ山の裾野の森を足早に抜け、それから山道に入った。
歩き始めは月明かりがあったので
火打金で火打石を打ち、
夜に山に入るのは初めてではない。父に連れられ、夜行性の
香水に使うらしいが、生々しい糞の臭いのするそれが、どうして香水になるのかはわからなかった。乾燥しすぎると値が下がるので、その商人が来る時期を見計らって狩りをしていた。
山奥まで獲物を追い、野営になることもあった。無口な父だったが、野営で火を囲んだ時だけは、ぼつぼつと話をしてくれた。ほとんどが猟に関する話だったが。
夜の山は怖い。一人で入ると特に怖い。だがそう思っていると、ますます怖くなってしまう。怖ければ何も考えずに、ただ「警戒」する。父からそう教わった。
しばらく
この先に川があるのだ。カラカボ山の頂には火口に雨水の貯まったクプトゥ湖があり、そこから溢れた水がチョンプーまで流れている。
やがて谷川が現れた。
苔の張り付いた岩の谷はさほど深くはないが、水量は多く、歩いて渡るのは難しい。夕方には必ず雨が降るので、夜の水量は特に多い。水音は
だが、村からまだ遠くないこの場所には橋が架かっている。
トゥーイは左右の吊縄を
何度も使ったことのある橋なので不安はないが、気を抜くことはできない。床板は
橋の半ばに来た時、水音に重なって、奇妙な高い音が聞こえた。
コォォォォオオーー。
水音は耳を
(鳥?)
だが、こんな鳥の鳴き声は聞いたことがない。
目を落とすと、川面に何かいた。飛沫を飛ばす濁流の波間に、何かがうねっている。
(大きい……!)
人の体ほどの太い胴体なのに、ウナギのように細長い。巨体をくねらせて、川を下っていく。
月に照らされ、その生き物は半ば白く、半ば透明に光って見えた。
「あれが、
山頂のクプトゥ湖に棲むと言われる
トゥーイは吊り橋の上で弓を構えた。
(呪いは
放たれた矢は、中途半端な手ごたえで白い巨体に刺さった。
突き刺さった矢は吸い込まれるように、
村にはびこる疫病が、なぜ〈
あの巨体を弓で殺せる気がしないし、殺して兄の呪いが消えるとも思えなかった。白く透けた
(
トゥーイは橋の上から、下っていく
(どこへ行くのだろう?)
川はこの先枝分かれして、チョンプーの村やガルアンの谷に流れて行く。
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