1、疫病 (2)

 小屋に出入口はない。


 村の掟で、呪いにかかった者が出たら、その家族全員が強制的に『隔離の小屋』に移される。呪いはさわるとうつると言われており、実際誰かが呪いにかかれば、その家族全員亡くなることも多かった。呪いにかかった者がすべて死ぬか、まれに快復しても、その後ひと月過ぎるまで小屋からは出られない。


 誰も出入りしないから出入口は必要ない、という建前なのだ。


 竹の骨組みにあしの束をかぶせただけの、簡素な円錐形の小屋。その壁のあしを押し分けて、トゥーイは外に出た。


 顔に夜の涼しい風が当たり、気持ちがいい。


 あしの小屋は風通しがいいが、今は乾期の最中さなかで、日中は暑くてたまらない。夜になっても小屋の中は昼の熱気が残り、蒸し暑かった。小屋の中まで涼しくなるのは、深夜から明け方までの間だけだ。


 コティとノイには悪いが、小屋の外に出るとほっとする。


 残された大事な家族。けれど一緒にいると、辛い現実と向き合わなければならない。



(痛み止めが必要なのは本当のこと……)



 だが、それを口実に息抜きをしたかったのも本当だった。


 小屋の外をぐるりと竹垣が囲んでいる。竹垣といっても、両手を広げたほどの間隔に竹を立て、膝と腰の高さに細竹を横に渡しただけの簡単なものだ。


 これより中に外の者が入ってはいけない、中の者はこれより外へ出てはいけない、その目印に過ぎなかった。


 昼間は手の空いた村人、たいてい年寄りが見張りをするが、夜は誰もいない。


 これでは見張りの意味がないが、あるいは、こうして夜に抜け出し、村を去ることを期待しているのかもしれない。

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