第4話 過去


羚が帰って3日がたった。この日、海夷が初任務から戻って来た。

『サタン』での初任務ということで、小さな宴会を開いた。

「あれ?羚は?」

キョロキョロと辺りを見渡すが、羚の姿は見えない。

「相棒の初任務成功なのに冷たいねぇ」

少々酒がはいったリリィが海夷の方に頬を寄せて笑っている。

海夷は少し頬を染めながらもまんざらでもない様子だ。

「信用している証拠だよ。気にしなくていい。」

ルシファーは酒を飲まず宴会を見て楽しんでいた。

「…ふぅん」

水割りを手にじっくり宴会を楽しむことにした。



<ガゥン ガゥン>

修練場で的を狙う羚は大きなため息を吐いていた。

銃弾は的を外しカスリもしないのだ。

「…わざと…ですか?」

隣で見ていたのは情報収集を専門にしているベレトと呼ばれている人物だ。

今回得た情報を羚に伝えにきていただけだが、修練場の的などめったに外さないはずの羚の銃弾が一発も当たらないことに不安を隠せない。

「俺がわざわざ的を外すとでも?」

銃に弾を詰め直し再び的を狙う。

<ガゥン>

弾は的の端に当たったが、中心部からは程遠い。

「……どうしたもんですかね…」

ベレトは首を傾げている。

「どうしたものか…」

羚も首を傾げている。

ベレトの目は吊るしてある左腕に向けられていた。

「痛みますか?」

「……いや」

<ガゥン>

弾は先程より中側に、しかし、中心にはまだまだ遠い。

「…紫炎の麻痺毒のせいですかね?」

どうなのだろう。毒抜きは羅楠にしてもらったはずだ。

それは自らの目で見ている。

「一度ガルデアで診てもらったらどうです?」

「…斬頼か」

明かに嫌な顔をする羚は乗り気ではなようだ。

「腕は確かなんですから」

深く被った帽子の上からも苦笑いが見える。

確かに今まで大きな怪我をした時はいつでも斬頼の世話になっていた。

ガラは悪くとも腕は普通の医者よりもすぐれている。

「…分かった。このままだと任務にならないからな」

渋々ベレトの意見をのむことにした。



「ということだ。俺はガルデアに戻る。」

宴会を終えたディアンと海夷に伝えに行くと酔いが回った仲間たちが各々床や机に突っ伏している。

「…海夷…酔っているのか?」

海夷は壁にもたれて熟睡している。

毛布がかけてあるのはリリィの気づかいだろうか。

歓迎も兼ねていたらしくほぼ強制的にグラスに酒を注がれて、割と強い海夷でも耐えられなかったようだ。

「かなり騒いでいましたから」

椅子に腰掛け、満足そうに笑っているディアンはワインを手にしているが、酔っている様子は見受けられない。

「あなたがご自分で決めたことならば、私は承知致しますよ」

グラスに残るワインをゆっくり回す。部屋中を漂うアルコールの匂い。羚は鼻を袖で覆っている。

「ガルデアに行くのはかまいません。しかし、一人で行くのは止めて下さい。」

優しい笑いの奥に鋭い眼が覗く。

「(一人でいくつもりだったんだが…)誰を連れて行くんだ?こいつはしばらく無理だ」

海夷はすぅすぅと寝息をたてている。この様子では数日まともに動けそうにない。

「リリィか?」

「いえ、彼女は明日から任務が」

「じゃぁ、誰だ?」

羚は信頼している者としか行動しない。それは『サタン』内では、承知のはずだった。

「ベレトもすぐに出るそうですし…」

結局思い当たる人物が誰もいない。

「グリフを連れて行けというのか?あいつは整備士なんだ、ここを何日も開けるわけにはいかないだろう?」

「そうですね…他の者も任務があるようですし」

一瞬ディアンと羚の目が合う。

「私がいきましょう。」

「あぁ……って、お前がか!!!!?」

羚が驚くのも無理はない。ディアンがついてくるということは、『サタン』のNo.1とNo.2がそろっていくということで、あり得ない状況になる。

「いくら何でも、それはマズイだろ」

しかし、ディアンは考えを曲げる気はないらしい。

「私なら、あなたも安心でしょう?護衛としては十分だと」

「貴様…この為に他のやつに任務回しただろ」

クスクスと笑うディアンを責める事も呆れてできない。

こうなっては彼も引こうとしないことを知っている。

「丁度、私も斬頼殿に用がありまして」

それなら仕方ないと、ディアンと共にガルデアに行くことになった。




「……これはこれは…『サタン』のNo.1とNo.2がそろって、どうしましたか?」

明らかに不機嫌な様子でむかえた斬頼は乱暴に扉を開けた。

特にディアンの方を睨んでいる。

「たまたまだ。そんなに気を悪くするな」

ふーっと煙草の煙が吐き出される。

煙はふらりに向けられていたが、慣れた二人は動じない。

「お前の用件は見りゃ分かる。ディアンの用件を聞く前に診てやるよ。」

そう言い終わると羚のシャツをつかみ、強引に診察室に連れていった。

ディアンはあまりの手際のよさに何も言えず診察室の前で立ち尽くしている。


「……炎神?何でまた。炎神・紫炎っていやぁ仁国の四天王といわれる腕だろ?やり合うには早すぎじゃねぇか。」

左腕の傷を見ながら斬頼が呟く。

「っ……予想外の出来事だ。まさか、紅河帝の屋敷に来るとはな……っ……」

時折痛みが走る。大分傷口は塞がったものの、まだ完治には程遠い。

「処置は見事なほど丁寧にされている。麻痺毒も残ってねぇと思うが?」

バシンと傷を叩かれ蹲る羚は痛みに声も出ない。

塞がったとはいえ痛いものは痛いのだ。

「……お前の弾が的に当たらないのは精神面じゃねぇか?」

「精神?」

斬頼の目が急に鋭くなった。

「お前はまだ何処かで迷っているんだろ?覚悟もしてねぇくせに動くからだ」

その眼は鬼のようだった。鋭く、恐ろしい。羚は声が出せなかった。

ただ奥歯をかみしめて耐えている。

「一つ、情報が入った。」

顔を反らし、煙草に火をつける斬頼に目を向ける

「2日前、仁国を裏切った女兵が捕まったそうだ。」

その言葉に羚は目を丸くした。

「お前が探している『聖羅』も女兵だったよな?」

鼓動が早い。

「まさか…あいつは…死んだ…はずだ…」

フッと蘇る紅い記憶はまだ、鮮明に残っている。

「死んだ奴が生きていたなんてザラにある話だろ?お前のようにな。」

煙が天井に当たり、ふわりと広がる。

「お前は顔を知らない。確かめようはないけどな。」

羚はうつむき、考えた。

「確かに、アイツの顔は知らない。だが、アイツなら、国に捕まるようなヘマはしない」

伏せた灰色の瞳に映る過去は決して心地の良いものではない



それは、四年前の事



レイ、17歳。まだ、世に知られていない『サタン』を国中に広めた事件が起きた。

当時、殺し屋グループで名高い『パナギア』にレイ・クレイバーの暗殺が命じられた。

王家滅亡のためにだ。

『パナギア』がレイの存在に気付くのは早かった。金色の髪、白い肌、そして、灰色の瞳。王家クレイバーの特徴は色濃くレイに受け継がれていた。

表の世界とは一切関わりを持たないようにしていたレイだったが、生きているいじょう情報を遮断することは出来ない。

『パナギア』のうりは『完全滅殺』個人の暗殺やチームの抹殺を専門にしている組織だ。

よって、『パナギア』に狙われたレイが逃げ場を失うのは早かった。

岩壁と谷に挟まれ、逃げ道が塞がれ、もう終りだと諦めた時だった。

<ガゥンガゥンガゥン>

響く三発の銃声に空気が変わる。

「聖羅!貴様裏切るつもりか!?」

後方から聴こえる幾つもの罵声に振り返ろうとした。

「振り向かないで!前の敵だけに集中して」

銃を構えるレイの背に触れる感触と声、レイより少し低い肩が、確かにそばにあった。

視界に入る黒の髪がその顔を隠している。

仁国の兵士がレイをかばったのだ。

「聞いて。この辺りの谷は水かさが十分あるの。飛び出た岩肌もないし、逃げるなら、ここしかない」

信じて良いのだろうか。確かに蒼く澄んだ水はかなり深いようだ。

しかし、水面までは数十メートルあり、下手をすれば岩壁にぶつかるだろう。

国に捕まるか、自ら飛び下りるか。レイの答えは決まっているだろう。

「…あんたはどうする?」

「私はあなたが行ったら続く。」

透き通ったきれいな声に迷いはなく、真っ直ぐな意思を感じさせる。

「お互い、生きていたら…礼をする」

今後互いに生きている事を願って、レイは跳んだ。

時間がゆっくり感じられた。

風の音も、『パナギア』の声も、自分の鼓動さえも。

顔が見えるか見えないか。

惜しくもはっきりとは見えなかった。

見えたのは、きれいな後ろ姿だけだった。




「『聖羅』仁国南部の兵家に生まれ、実践、実力共に優れた功績を持つ。」

血に染まった研究室に数名の無惨な死体が転がる。

腕を斬られた者、額を撃ち抜かれた者、人の形すら留めていない者様々だ。

「『パナギア』に所属したのは四年前14の時…四年前…14。俺と同じ…」

研究室の外も地獄絵。見かけるヒトは全て死んでいる。

「2ヶ月前、『パナギア』を裏切り、クレイバーと共に谷へ飛び込む。その後、聖羅の死亡を確認。」

ここは『パナギア』本部。2ヶ月前、谷へ飛び込み、なんとか助かったレイは『聖羅』と呼ばれていた女兵を探していた。

「…俺だけ…助かったのか」

『パナギア』は根拠もなく決定をするような組織ではない。

おそらく確かな証拠があるのだろう。

悔やみきれない。命を助けてもらったのに、その恩を何一つ返せない自分が憎い。

「これだけの血を浴びても、一つの命すら守れないのか」

幾つもの水滴が、返り血を洗い流すかのように流れ落ちた。

レイはたった一人で『パナギア』を崩した。自らのデータを抹消して。






主犯:サタンの羚

被害者数:127名

生存者数:0

経歴及び容姿共に不明

所属:サタン



「この男…どう思う?」


「さぁな。羚という名にはひっかかるが…奴は谷へ落ち、死んだ。」


「しかし、もし生きていたら…」


「死んだよ。あの谷は人を生かさない。」


「根拠はあるのか?」


「見に行けば分かるさ」


「……」


仁国上層部での会話は深刻なものだった。


「で?サタンについては?」


「あ、あぁ…ほとんどのやつらがレビア王国出身の輩だよ。本部も何処にあるのやら」


「…サタンのボスは?」


「…ルシファーだ」


「銀髪の悪魔か?」


「あぁ…レビア軍の生き残り。主人を亡くし地に落とされ悪魔と化した哀れな守護者さ」


「なるほど…天に住んでいた奴は、新な天を受け入れず悪魔に身を委ねたのか」


「いずれ、決着をつける日が来るさ。」


影を残したまま、会議は閉められる。その数日後、手配書が配られる。


『暗殺組織「サタン」を第一級危険組織とする』



部屋にフワリと舞う煙にシンとする空気が重たい。

羚は身動き一つしない。

「それまで俺とディアンしか信用しなかったお前の事だ。忘れるわけねぇよな。」

聖羅はただ一人、レビアの自分を庇った。それまで仁国とレビアは対立し、まさに犬猿の仲なのだ。

それは羚にとって信じられない行動だった。

「その半年後だったか?お前が海夷に出会ったのは…」

「あぁ…」

互いに路頭に迷っていた。彼女と同じように国を捨ててレビアにやってきた海夷とは偶然出会ったようなものだ。

だからこそ…今の信頼がある。

迷い、悩む苦しみを知っているからだ。

「斬頼…俺は戦うしかない…もう、迷わないと誓った…覚悟も、しているつもりだ」

その眼は光を取り戻していた。真っ直ぐ澄んだ…グレーだ。

「久しぶりだな…クレイバーの眼だ。あとは勝手にすればいい…俺はゆっくり鑑賞させてもらう」

ニヤリと笑う斬頼の眼は妖しくも穏やかだった。

「コンタクト、どうしたんだ?いつも黒のカラーコンタクトをしているだろう?」

確かに、普段羚はクレイバーの特徴であるグレーの瞳をカラーコンタクトで隠してきた。

しかし、今は透き通ったきれいなグレーだ。

「あぁ…どこかに落としたらしい…」

「お前がなくし物とは珍しいな」

タバコを灰皿に押し付け呆れた顔をしている。

「……あぁ…そうだな」

そっと鏡を見れば金髪に灰色の眼をもつ自分が映る。

まるで記憶の中にうっすらと残る父親のようで…

「新しい物をつけるさ」

情けなくて…惨めで…

「………」

そんな羚に何も言わず、また、斬頼は新しいタバコに火をつける。

「…まぁ、今日はよく休め…疲れは禁物だ。俺はディアンの用を聞くとする」

羚と入れ替わりにディアンが入る。

ディアンはそっと羚に微笑みかけるとサッとドアの向こうに消えていった。

羚はいつも使っている部屋に入り眠りにつく。

心拍数は相変わらずで、ぐっすりとはいかないだろう。

けれど、今は起きている方が辛かった。

少しでも早く…一秒でも長く…眠りにつきたかった。

わずかな隙間から朝の光が射し込んでくる。

重い身体をゆっくり起こすが、疲労が抜けている感じはなかった。

「…あまり…眠れなかった…」

結局ほとんど眠ることなく朝をむかえてしまった。

頭がぼぉっとする。奥の方がズキズキする。

着替えを済ませ、頭を抱えたまま斬頼とディアンがいるであろう診察室に向かう。

ドアノブを回そうとした時だった。

「どうしてもっと早く伝えて下さらなかったのですか!!?」

ディアンの怒鳴り声だ。

普段は温厚でキレることなど滅多にない。

それ故に羚の手が止まった。

「だが、それを知って何になる?どうせ何も変わりはしない。分かったら出てけ。」

ガチャリとドアが開かれる。

「あっ…レイ様…」

羚がいたことに驚いたようだが、すぐに顔を反らし去っていった。

どうも、重い話をしていたようだ。

「…何があった?」

羚が斬頼に問うが、本人は呑気に煙草をふかしている。

「お前には関係のない話だ。聞くだけ無駄だな」

斬頼が話さないと言ったことを聞くのは不可能だと、羚はよく知っている。

「そうか…ディアンは、大丈夫なのか?ずいぶん気がたっているようだが…」

白い煙が天井に溜まる。

「あいつの問題だ。自分でなんとかするだろう」

「昔からあんたはそうだ。どんなに相手が苦しもうと、絶対に手は出さない。」

「指名手配されてるような奴に情を求める方がどうかしてるだろ?」

もっともな答えだ。

第一、羚やディアンと共にいること自体、他から見れば信じられない光景だろう。

「……斬頼……今、ベレトに仁国の動きを調べさせている。それが終わったら、策をたて、乗り込むつもりだ。」

話題を反らし、ゆっくり、ゆっくり語る。

「…そうか…」

斬頼は目を合わせず、ただ煙草を吸っている。

「もしもの事があるかもしれない。確実に成功するなんて言い切れない。」

羚も斬頼を見ることができなかった。

「…それでも行くつもりだ。次にアンタと会う時は俺が全て終わらせた時だ。」

「…そうか。覚悟は決まったんだな?」

煙草の煙がゆらゆら動く。

「目的が一つ増えたんだ。迷ってなんかいられない。」

眼に映るのは決意だ。決して折れぬであろう真っ直ぐな決意だそこにある。

「これからの戦いは何人ものプライドを背負うことになる。負けるわけにはいかないんだ」

「海夷はどうする?アイツは仁国の人間だ。そう簡単に母国を裏切れるか?」

そう。これは確かに『サタン』として起こす戦争だ。

この酷な戦いに海夷はついてくるだろうか。

「言ったはずだ。それはアイツが決めること。俺達が曲げていいはずないだろう?」

それは『サタン』に入る時にも言った。全ては本人が決めることだ。

恐らく、いや、確実に海夷にとって苦しい戦いになるだろう。

それでも、羚はこの戦いを起こさなければならない。

「裏切りも覚悟しておいたほうが良いぞ」

そう…それは最悪の状況を作る。

「……信じたいがな。」

伏せる瞳は汚れ無き純粋な気持ちだった。

「……俺にはお前の気など分からねぇが、あいつらなら分かるんじゃないか?」

窓を開けると、小さな隙間から素早く煙が抜けていく。

かわりに、心地よい、冷たい風が流れ込む。

「……春……か?」

「あぁ…もう、ずいぶん前からな」

「…そうか……気付かなかった」

「……直に…蓮の季節だ」

羚の脳裏に白い蓮が浮かぶ。

「そうか…またリシャベルの蓮を見に行きたいものだ。」

『リシャベルの蓮』とはレビア王国に古くから伝わる昔話の蓮の事だ。

その蓮は透き通るような純白で見る者の心を癒すといわれている。

「戦火に向かう前に行ってみたらどうだ?」

斬頼はまた煙草に火をつけている。

「戦いが終わったら…見に行く」

羚は微かに笑った。

「『天女リシャベルに誓い、迷わぬ心をここに示さん。揺るぎ無き意志を天に捧げ』…だったか?」

「あぁ。王家の戒めだな。」

「お前は迷ってばかりなのにな」

ニヤニヤと楽しそうに笑う。少々頭にくる笑い方だ。

「それも、今回までだ。」

拗ねた子供のように不機嫌な羚は息を吐く。

斬頼が笑っている。

それは人を見下した笑いじゃない。

本当に笑っている。

羚も静かに笑った



「ディアン…いいか?」

正午を過ぎた頃、羚はディアンの部屋を訪ねた。

彼が怒鳴るほどの会話も気になっていた。

「レイ様……どうぞ」

中に入るとディアンはスッと立ち上がり頭を下げた。

「先ほどはすみませんでした。つい、斬頼殿と……口論に…」

視線は左下を向いている。

「お前が怒るなんて、珍しいな」

羚は笑っていた。

「あ………」

ディアンは何か話そうとしたが、そのまま黙り込んでしまった。

それが、彼にとってどうしようもないことなのだと羚は悟った。

「今は話せなくてもいい。だが、いつかは話してくれ。俺も気になっているからな」

ディアンはまた、俯いている。

「本部に戻ったら、そんな顔はするな。ここでは『レビアの兵士ディアン』でかまわない。だが、お前は『サタンのボス、ルシファー』でもあるんだ。お前が迷っていたら、皆が迷うことになる。」

ディアンが2つの顔を持つように、羚もレビア王家の顔と殺し屋の顔と持っている。

それがどんなに大変で辛いことか、羚にはわかる。

だからこそ、互いに甘やかすわけにはいかない。

この緊張感が緩んだとき、今まで築いてきた絆が切れてしまいそうだからだ。

「すまんな。ディアン…」

ただ一言残し、羚は自分の部屋へ戻っていった。

「レイ様……私はあなたに忠誠を誓いました。あなたの命なら喜んで受け入れましょう。私は、私の事でなど悩むことは致しません」

残されたディアンの呟きを羚は知らない。

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