第9話

「こちら、草壁。神らしき人間を目視。対応に応じる。」

草壁といった先輩が無線で、本拠地の校長に連絡を入れる。この草壁先輩がまとめているのは、全員が炎能力者のチーム。それ以外に神話系の先輩たち、終界兄妹、剣と白夜先輩とその他能力者のチームに別れていた。

「さてお前ら。戦闘だ引き締めてくぞ!」

そういい無数の炎弾が、空を覆い尽くす。それを見た神はこちらに向かって全速力で駆け寄ってくる。

「太陽の豊穣神の力舐めるなよ?フレイヤ魔法で俺の強化を頼む!」

前方にいた2年の先輩が吹っ飛ばされる。それ先輩に3人ほどが駆け寄ろうとするが、それが相手の炎によって遮られた。その炎は俺達を取り囲むように円を描いている。

「逃がさねぇ気か。」

俺は先程生成していた炎弾を相手に向けて飛ばす。草壁先輩との肉弾戦中だのというのに1発も当たらない。

「後衛に回ります。前衛は草壁先輩3年生に任せます。」

俺がそう言い切ると、炎弾の生成を再開させた。先程よりは少ないが、ざっと50を超える炎弾が生成され、俺達の頭の上で燃えている。それを一気に神に放つ。それの1つも神に当たることはなかった。

「あれを避けるか。」

誰かがそう呟いた。あれだけの炎弾を全て回避する。それだけでも俺たちは絶望のそこに落ちていた。

「おいバカ共。ひよってる場合か?」

そんな挑発的な言葉を放つのは、最前線に立ち、神と肉弾戦をしている草壁先輩だった。

「草壁先輩。俺も前に出ていいですか?」

「好きにやれ1年坊主。」

「皆さんちょっと合わせてもらいますね。」

俺は神の所まで走りった。俺はいつも通りの舞のような足取りで、大きな炎を生成する。

「炎の舞 伍式 秋月」

秋月は炎の暑さを調整して、秋のような心地のいい環境を作り、それと俺の舞に魅入られている間に他の炎弾を少しづつ生成する技である。

神の目線がこちらに集まっているのがわかる。俺はある程度舞を待って、後ろでサポートしている方の神に向かって走りながら、舞を舞っている間に作った炎弾を神にぶつける。

「私がこんなもに魅入られる馬鹿だと思いました?」

「フレイヤ。あまり舐めるな。」

「わかりましたフレイ兄様。」

フレイヤと呼ばれた神は、俺が作った炎弾を全て捌き、俺の攻撃も受け止めた。しかし、先程戦っていたフレイよりは、勝機がある。フレイヤに関しては、神話系能力者くらいでしか勝てない気がする。けれどここには神話系能力者が一人いる。アモンの能力者である草壁先輩が本気のモードになれば勝てると思う。だからこそここでサポートは断っておきたいと俺は思っていた。

「フレイヤを倒します。」

蹴りをフレイヤに向かって放つ。その蹴りを余裕で受け止め、逆に殴りを放ってくる。俺は何とかそれを交わして、もう一度蹴りを放つ。それもまた受け止められたため、1度フレイヤに距離を置く。そうして俺は大剣を抜く。

「あらあら、乙女に対して武器を構えますか。」

フレイヤはそう発言した後に、2本の短剣を錬成する。そこからフレイヤは連撃を放ってくる。それを大剣で何とか受け止める。

「双剣ってのは悪手だったな。俺が、超えなきゃ行けねぇやつの得意武器だ。」

だからこそ、俺はその武器の対応が人一倍上手い。いつもいつも鎧亜に勝つために何度も何度も頭の中でイメージトレーニングをしていた。

「いいえ私はその方より使い手ですから。」

体術も混じえて、俺の体を確実に狙いに来る。けれど俺の大剣で全て受け止めれる。大剣を抜くと機動力がかけるのだが、その分リーチが長くなるため、遠方からの攻撃が可能になる。こちらの間合いで睨み合う。その間に炎弾を5個生成する。一気に距離を詰め、体術を混じえた連撃を放ってくる。

「俺に注意を注ぎすぎたな。」

俺は連撃を受止め、空を見る。そこには人1人を丸呑みにするような大きな炎弾が生成されていた。そうしてそれがフレイヤを飲み込むようにフレイヤにあたる、俺は炎が動く前に走り出していたため、その炎弾には当たらなかった。

フレイヤが死ぬその瞬間、世界が眩く光った。そうして少し遅れて爆発音。それがなんなのか分からなかったが、気づけば俺の体は吹き飛んでいた。はは。彼奴には届かなかったか。もう少し生きていたかったな。

「フレイヤがやられたか。」

「何よそ見してんだトール!」

俺は今以前対峙した、トールともう一度対峙している。けれどこのトールは以前トールではない。多分こちらが本性なのだろう。以前は俺のように人間に意識を授けていたのだろう。

後ろにはアスタロトとバティンが居る。どうやら俺たちは悪魔組として集められているようだ。

闇の玉を幾つも錬成する。そうしながら、トールの倒し方を考える。以前の戦法はトールにバレているので、却下とする。そうすると勝機が失われてしまった。トールとミョルニルのセットを相手取るのは俺がルシファーだとしても無茶だ。ならば後ろの二人を使うかとも考えたのだが、厄介な事にここにはトールだけではなくヘズもいやがる。

「考え事か?ルシファー!」

叫びながら雷を落としてきやがる。以前は雷を連続で出すと威力が落ちるのだが、全く落ちていない。何度も落としてるため、俺らが戦っている場所にはいくつものクレーターができている。本気を出すしかないのだろうな。あれをやってしまうと、自身の意識が飛ぶためやりたくは無かったのだが、あのトールに出し渋るのは良くないだろう。

「グァァァァァァァァァァァァァァ」

俺は暴れるだけの化け物とかした。

「大丈夫かい?鎧亜くん。」

「はい。」

少し緊張している。今から自分は全世界に対して、訴えなければならないのだから。

俺は今マイクに手を当てている。手が震えている。怖いとさえ思った。そうして、全世界放送で、今のこの国の現状が映し出される。

「全世界の皆さん。俺は極東の島国の軍事学校の生徒です。今、俺達は神と戦っています。何を言っているのだと思うかもしれません。けれど本当に神と戦っているのです。今映し出されているのは先程神が放った雷によって半壊した我が街です。これは今戦っている神と人間です。」

すると、神と戦っている虎口先輩が映し出されている。そうして1度間を置き俺は言葉を放つ。

「能力とは神に抵抗するために与えられた物なのです。戦争のためではありません。今は人と人が争うのではなく、人と人が協力して、神を打倒すべきなのではないでしょうか。神、いえあの悪魔共を共に倒しましょう。」

そうしてぶちりと電波を着る。とても緊張した。まだ少し足が震えている。頭に校長が手を置いてくれる。フーと1度ため息を着く。

「兄様達が、テュールとエーギルに対峙しました。」

言葉を発したのは後ろでフードを被って虚ろな瞳でどこか遠くを見つめている、影狼くんの妹であった。

「へっへっへ。テュールとは運がいいのか悪いのか。」

右腕にいるヨルムンガンドが楽しげにそんなことを言ってきた。俺の能力は神話系に珍しく、能力であるヨルムンガンドが外側に着いている。基本的には精神、つまり内側に出てくる。

「テュールはこっちで相手取る。」

もう意識を失っているであろう兄にそう告げて、ヨルムンガンドを武器に入れる。これは以前武器職人に作ってもらった、俺専用の銃。ヨルムンガンドの毒を玉として用いる銃だ。

テュールは剣を抜く。剣神であるテュールに剣を抜かせては行けないのだが、もう無理だ。ならば何とか肉弾戦をするしかない。

闇の兵とアイコンタクトをとりながら、即席で連携をとる。しかしながら、テュールは余裕の表情で、剣を綺麗に扱う。その切っ先は丸で舞っているように見えてる

「剣の舞かよ。」

ボソリとつぶやき、ヨルムンガンドの毒を腕以外の部位に打ち込んでいく。神話の伝説上俺がリタイアした後、テュールが捨て身で兄を食い止める可能性があるため、無闇に腕には毒を放り込めなかった。

「籠城戦なんでどうだ?」

ヨルムンガンドはいつにも増して、真剣な声音で言ってくるが、俺はその提案を却下する。

「籠城戦をしてもこちらがジリ貧になる。」

そこらの家に籠ったところで、テュールのこの剣の舞を防ぐのは無理だろう。テュールなら家ごと俺らを切ってくる可能性も大いにある。ならば、ここではもう出し惜しみしている場合ではない。神話能力とは神話の元となった悪魔や、神に自身の意識を手放すことで、最大限の力を解放することが出来る。けれどそれは普通の話。俺らは普通では無いのだ。力を解放しても意識は手放さない。ヨルムンガンドが体の一部になることによって本気の力を解放することが出来る。

「いくよ。ヨル!」

「シャッシャッシャッシャ」

いつもより蛇らしい笑い声がヨルから聞こえてくる。ヨルと契約してから、力を解放する時はヨルムンガンドをヨルと呼ぶように決めている。それは俺らの中の共通の認識。

シュルシュルとヨルは俺の左腕となる。人から見れば、片腕が蛇でてきている化け物。けれどここには、兄も含めて化け物しかいないのだ。ならば俺も、俺らも化け物になるのが必然だろう。

「ヨル。わかってるとは思うけど腕に噛み付くのはなしね。」

言葉を放っている間にもヨルは攻撃を仕掛けていた。体をうねらせて、叩きつける。それをテュールは腕で受け止めて、カウンターの攻撃を喰らいそうになるが、何とか避ける。しかし避けた先にはテュールの剣先があった。肩あたりに少し浅い切り傷が生じる。浅い傷で何とか受け止められたた。ヨルは、首筋を狙いに真っ直ぐに伸びる。それを後ろにかわすが、その後に剣を突いていた。シュッと小さな音がして、首から少し血が出ている。

「おあいこだな。」

シュシュシュとまたヨルが笑っている。ケラケラと楽しげな子供のように笑っている。先程と同じような攻撃を繰り返す。当たり前のようにかわしてくるが、少し特殊な攻撃をおりまぜてみる。先程の連撃ではなく、ヨルを相手の首に巻き付かせに行く。それを剣で切り落としに来るがそれを全てヨルは回避していく。首には届かなかったが、右腕に巻き付くことに成功させた。自由を奪った右腕を俺は剣で切り落とす。

「まず1本!」

少々声を荒らげてしまったが、何とかテュールの片腕を落とすことに成功させた。

「舐めるのも大概にしろよ?蛇!」

テュールは叫ぶと俺の目では視認できないようなスピードで連撃を繰り返す。最初のうちはヨルも避けていたが、段々と避けるのが無理なり、少しづつ被弾するようになった。そうして直ぐにテュールはヨルを俺の肩から切り落とした。そこには虚ろな目をした蛇の死骸がそこにはあった。

「ヨル!!!!!!」

俺は親友であった能力を失った。俺は右腕に剣を握らせる。もう俺は正気ではなくなっていた。テュールに単身で突っ込むそれは無謀、死にに行くようなもの。

「バカ弟。」

そうして、俺は兄である影狼に抱えられながら、陸高まで連れていかれた。

息が切れている。鼓動も早い。このホルンとかいう神を相手取ってから何時間なっただろうか。白夜先輩も辛い戦いを強いられている。しかしホルンは息のひとつも切らしていない。

何度目かの交代。

(お願い。氷剣。)

(了解。)

雷剣から氷剣に交代する。そこから氷剣は氷の柱を何本も作り出す。それとあられを何度も降らせる。短剣で雹と一緒に自身も突撃する。相手はこちらの攻撃を全て受け流している。

「こちら陸高。終界兄弟により、撤退をしても神はおってこないとの情報。もう少し情報が欲しいため、白夜くんと剣くんは撤退。その間神がノーマークになるけど、一般市民は避難させている。」

「了解。」

俺は後ろを振り返り、陸攻まで撤退する。どうやら神は情報どうりこちらをおってこないようだ。

終界兄弟が部屋に入ってきて、その後に白夜先輩と剣も部屋に入ってきた。4人とも体はぼろぼろであった。この部屋にいるのは先程入ってきた4人と俺、佐藤先輩、そうして校長の7人だった。

「1度状況を確認しよう。こちらの戦力は炎チームがフレイヤの自爆により半壊。トールとヘズを悪魔の神話系が抑えてくれている。テュール達は終界兄弟が足止めをしてくれたが致命傷は与えられず。ホルン達も白夜くん達が足止めしてくれたが、致命傷はなし。そうして戦っていないのが、推測するにオーディン、その息子であるバルドル。」

「俺が戦った神はヘイムダル。」

白夜先輩がそう口にした瞬間扉が勢いよく開く。そこには高身長で、黒髪を腰まで伸ばしたつり目の女性がたっていた。

「連れてきたぞ。師匠扱いが酷いやつだ。」

女性は言葉を口にして、首根っこを掴んでいた

兵士と俺の師匠である切り札を放り投げた。

「「母さん!?」」

「南乃花師匠!?」

終界兄弟は母さんという言葉が、佐藤先輩から師匠という言葉が聞こえてきた。この状況がどんな状況なのか教えて欲しい。

「フェンリルはそこそこだな。ヨルは死んだか。」

その女性は右腕を大きく振りかぶり、終界弟を殴ろうとしていた。俺はその間に割って入って、振り下ろされた拳を止める。

「DVはよそでやって貰っていいですかね?」

少し怒りをはらんだような声でこの女性に訴える。こいつは今子供を本気で殴ろうとした。その事がとても腹立たしく思う。

「私も賛成です。やめてもらっていいですか?」

「DV?これは躾だよ躾。」

拳を掴んでいる手の力を強める。女性は顔色ひとつ変えずにこちらを睨んでくるが、すっと腕を引いた。

「たく、良い子供を育てたな。はぁ。で本題は?」

「え、あの?」

俺は戸惑ってそんな声を漏らすが、女性に睨まれたので目線をそらす。

「自己紹介が送れた。終界南乃花。そこの影と、陽太、広無、今戦場に出ている夕闇の師匠。そしてそこにいる終界家の母だ。別に俺が産んだわけじゃねぇが、一応そいつらは俺の子供だ。」

荒々しく自己紹介をする。意外なところで色々な人の共通点がでてきた。校長は椅子から立ち、その椅子に南乃花と名乗って女性を座らせる。どうやら校長も南乃花には頭が上がらないようだ。

「んで母さんはなんの用だ?」

「育ての母に向かって何だその口の利き方は?」

また南乃花が何かやるのかと思い身構えたが、何も起こらなかった。

「能力を渡した私の最後の役目をやりに来たのさ。」

謎の緊迫感がその部屋に充満し、そこにいる全員が、息を飲んだ。そうして南乃花は口を開く。この最終戦争の、ラグナロクの勝ち筋を教えるために。

「ロキの能力ってのは特殊だ。3の人間が集まってやっと能力を天界から下ろせるかどうか。そうしてその3の人間の能力も厳しい。けれど、この学校には3の人間がいる。

1つは神の目だ。これは模倣の目と未来視が複合したものだ。

2つ目は八の属性を持っても崩壊しない肉体。

最後に憎しみの感情を力に帰る神の能力。」

ハッと息を飲んだ。その3人を俺は知っている。神の目のを持つ1人目は穂坂莉々、八属性を持ってなお崩壊しない肉体、2人目は不動剣、最後は俺の過去の能力だったものを所持している太刀奪一。

「ロキを下ろすに使った人はどうなる?」

「能力のやつは譲渡だけで大丈夫だ。目は両目をえぐりとらなければならない。肉体はロキを下ろすから強い精神を持っていないと死ぬな。」

「ダメだ!そんなのをしてしまえば。」

俺が言葉を発した瞬間、今まで以上に思いプレッシャーを感じる。息をすることを忘れてしまうほどのプレッシャーを南乃花は放っている。

「小僧。俺はな。少数派を切って、多くを救う。そういう考えなんだよ。甘ったれた事をそれ以上言ったら俺はてめぇを殺す。てめぇみたいな理想を掲げて最終的には誰も救えなかった女を知ってる。」

その殺すと放たれた言葉は、嘘ではない。本当に俺がこれ以上甘ったれた事を言うと本気で殺しにくる。今ここで引けと本能が訴えかけてくる。

「すみません。ロキを下ろすのに俺も立ち会ってもいいですか。」

「あー。それぐらいならいいぞ。ただ何か変なことをしてみろ?俺はお前を殺すからな?」

そうして南乃花は部屋を立ち去って言った。会話をしていただけなのに鼓動が早く、息も荒い。息を整えるために当たりを見渡す。そこに派閥の悪そうな顔で下を向く影狼くんがいた。

「ふふ。あんなこと言ったのに化け物にはならなかったんだね。」

そんな影狼くんの姿を見ると少しだけ緊張が解けた気がする。俺はそんなことを呟いたあと、師匠のところに駆け寄った。

「師匠。再会が早かったですね。」

「そうだが、こんな形だとは予想もしなかったよ。」

「早速で悪いが、オーディンたちの対処に向かって欲しい。剣くんと白夜くん、それに切り札と鎧亜くんに向かってもらう。残りは待機でよろしく。」

そんなことを言われ、俺たちは戦闘の準備をした。俺は師匠から貰った2本の短剣をしっかりと腰に装備する。

「父上人間来ましたよ?」

そう言葉を発したのは知らない人間。その横には皇帝がいる。けれどその皇帝の中に入っているのは能力であるオーディンだ。苦しそな顔を師匠はしていた。それを察してか、それとも自分がオーディンと戦いたいのか、白夜先輩が口を開く。

「俺と剣くんはオーディンで。もう1人の方は君たちが宜しく。」

そういい白哉先輩は地を蹴り全速力で飛び蹴りをかましている。しかしオーディンはそれを軽々ととめている。

「我はバルドル。」

そう目の前の敵は叫び俺らの方に突進してくる。それを手で受け止める。あまり力はないように感じる。先程までの死闘を見てきたから言える。こいつがなぜ神なのか疑問に思うほどこいつは弱々しい。そう思いながら、バルドルの相手をしていた時、バルドルは師匠に触れて何か言っている。その次の瞬間、師匠は俺に殴りかかってきた。俺はそれを驚きながらも交わす。

「何してんすか師匠。」

「体が勝手に。分からないんだ。」

師匠はまた俺を殴ってくる。それをかわした瞬間、師匠はナイフを投げてくる。俺はそれを短剣で叩き落とした。師匠の能力は最終追尾。自信が投げたものが必ず対象者のなにかに当たるという能力。何かを設定するこはできないらしく、俺はこの能力を俺の武器、つまり対象者の武器に当てて落とすという戦法で回避している。師匠はその後もナイフを一本づつ投げてくる。それを修行をしていた時のように叩きを落としていく。修行の時は師匠はこれに体術を加えてきたのだ。このままではこちらがジリ貧になると踏み、地を蹴り、距離を詰め、脚技を行使する。しかし右足からの蹴りはとめられ、膝蹴りも軽々と止められる。距離を詰めた状態で何度も連撃を繰り返すが、回避されていく。師匠は反撃だと言わんばかりに、ナイフを八本投げ、体術も交えて攻撃をしてくる。ナイフを捌くのに必死になっていた俺は、師匠の体術に被弾してしまう。右脇に走る激痛。これが師匠の本気。数度師匠の攻撃を受けていたが、ここまで重くはなかった。よろけるだけで耐えたが気を抜けばぶっ倒れる。短期決戦。このままやってしまっては師匠に負ける。ならばスピード勝負に出よう。1度距離をとり、もう一度一気に距離を詰め、回りながら右の短剣を首をかすめに行くが避けられるから、足元を足でひっかけて転ばせてやる。師匠はしりもちを着いた。その胴体を後ろに引っ張って寝っ転がらせる。その上に馬乗りなって心臓に、心臓のある場所にナイフを持っていく。

「ダメだ!躊躇するな鎧亜。もう乗っ取られ……………アアアアアアアアアアアアアアアア」

師匠がバカみたいな声量で叫びながら、俺の下でじたばたと暴れる。ゴクリと俺は生唾を飲む。師匠にはお世話になった。本当に短い時間だったが、本当にお世話になった。そんな人間を俺は殺せない。けれど師匠はそんなことお構い無しに俺の首を掴み、首を絞めてくる。息が出来なくなる。ああ、俺は師匠に殺されのか、なら本望だ。フッと色々な人間の顔が思い浮かぶ。同じクラスのやつら、別のクラスだけれども、体育祭で切磋琢磨したヤツら、影狼くんに、剣くん、一、そうして優しく笑う師匠の顔を俺は思い出した。

「さようならじじょう」

大きな雫が零れ落ちていた。それは師匠の胸あたりにポツポツと落ちていく。気づけば俺はナイフを突き刺していた。そうして俺が流している涙は師匠の傷口にも、零れていた。

「神槍グングニル。」

目の前にいるオーディンは神話に登場する神槍を顕現させた。俺も同じく槍を使う風剣に任せる。後ろで白夜先輩が身体強化を俺付与してくれる。光の能力の身体強化は他の属性とは格別だ。体がとても軽い。今なら空でも飛べるような気すらする。

「行くぞオーディン!」

そこからはよく覚えていない。オーディンとの戦闘を楽しんでいたような気がする。オーディンが突いた突きを交し、相手が隙を見せれば槍を放つ。それだけだった。

「こりゃあダメだな。じゃあな。」

ハッと我に戻る。オーディンは長期戦を嫌ったのか逃げていった。俺は1度白夜先輩の方をむく。白夜先輩は

「帰ろうか。」

そう言い学校に俺らは帰るのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る