第4話

※この物語はフィクションです。実在する団体、人物とは関係ありません





「話がある。」

次の対戦相手に勝つには俺の過去を明かさなければいけない。こうやって話を持ち出す。

「何?」

影狼くんが聞く。

武人名家に産まれた俺は昔から稽古づけの日々だった。父親は何度も俺に稽古をつけていた。稽古以外には興味を示さない人だった。能力は概念系。俺にも能力を明かさなかった。

俺に能力が宿った。その時のために精神、肉体共に鍛えられていた。そのため能力が宿ってから俺はすぐに使いこなすことが出来た。

そんなある時、俺と同じかそれ以上の能力者に出会った。そいつの名は太刀奪一。それから俺はそいつと仲良くなった。あいつも武人名家の子で色々と共通することが多かったからだ。

しかしそんな日々は長くは続かなかった。

ある時俺は能力に呑まれた。能力に呑まれるその言葉通り俺は体を能力に乗っ取られた。心の底から世界に対する敵意。

心の中になにか黒い得体の知れないものが入り込んでくる。俺の必死の抵抗も跳ね返すほどの何か。俺はそれから気を失った。

その後俺が起きたのは3日後だ。起きて直ぐに俺は能力を使おうと思った。しかし出来ない。

そして俺は気づいた。能力が無くなったということに。残ったのはあの銃だけだった。

それから俺は父親に蔑まれながら今まで生きてきた。能力が無くなった喪失感はハンパなかった。怖いとさえ思った。俺は震えながら稽古をした。1人で淡々と。

「とまぁこんな感じだ。そしてあいつの能力は能力の強奪。触れれば強奪完了だ。」

2人は驚きを隠せずにいるようだ。当然だ。明日戦う相手が最強と呼ばれる能力なのだから。

「まぁ触られなければいいのんだろう?」

多分影狼くんは余裕だと思っているのだろう。無茶だも思うけれど彼に言っても聞かないだろう。それに影狼くんがこんなにワクワクしている顔を見るのははじめてだ。

「かるーく対策する?」

剣くんはそう言いながらかスマホを弄っている。確かに剣くんの能力なら模擬太刀奪ぐらい簡単だろう。そう思った俺は

「頼む。」

とそくとうしていたのだった。

それから数分後俺はクラスの体育館に連れてこられた。そこにはうちのクラスメイトプラス学校指定ジャージに身を包んだ雨竜、不死原さん、クラーレくん、という異色のメンツがいた。

「なんでいるの?」

率直な疑問をなげかける。

「そいつに呼ばれたから。」

不死原さんの指差す方向を見るとそこには、仁王立ちをしている剣くんがいた。

「ここにいる全員対君で特訓ということで。」

待ったが影狼くん以外の全員から入り俺は事情を説明する。ついでに俺が着いてきた悪態についても説明し謝る。数名はそれで許してくれるが大半は親の仇でも憎むような目を向けてくる。

部外者3名は無言で聞き、後半の話はつまらなかったのか各々好きなことをしていた。

「じゃあまぁやりますか。」

「炎の舞 肆式 夏月」

今までの炎の舞とは違う、ジリジリとした暑さに俺は捕えられる。それまるで夏の夜のようで自分にあたる風が心地よい。しかしそんなことを考えている間に彼は攻めてくる。いつも通りの舞を躍る足取りで。彼の攻撃を凌いでいると後ろから龍星くんが殴ってくる。それを俺はしゃがんでかわし足払いを入れて龍星くんをころばして炎舞くんから距離をとる。しかし彼は炎弾を飛ばしてくる。後退して避けるが避けた先には穂坂さんがいた。俺に狙いを定めて蹴りを飛ばしてくる。それを手で受け止めるが、後ろからは炎舞くんの炎弾もとんできている。穂坂さんの足から手を離し、炎弾を回避する。こうした攻防を続けていると、足元に黄色の液体が流れ出している。とても嫌な予感がした。

「これ。マジで死ぬやつか?」

この液体の張本人である彼らの元に駆け寄り、問いをかけながら蹴りを飛ばす。

「大丈夫。吸ったとしても腹痛程度。」

との答えがクラーレから返ってくる。雨竜は初耳なのか驚いていた。多分こいつ頭のネジぶっ飛んでやがる。まぁそれも家庭環境のせいだろうな。それからも俺らは訓練を続けた。

あれかは何十分かたち、先生が来て解散を言い渡された。

「ぐへぇ。疲れた。」

不死原さんはぐでぇぐでぇしていた。それを雨竜が抱えていた。それを羨ましそうに眺めるクラーレくん。それをボーと眺める同居組という謎の構造ができていた。

「クラーレ。羨ましいのか?」

歩みを進めながら、剣がクラーレに聞く。それにクラーレは少し考え口を開く。

「うん。君ぐらいしか関わりがなかったから彼等みたいな関係性ってのに少し憧れてて。それに君達にもだよ。」

面と向かって憧れていると言われるのは少し照れる。それに剣との関係性も気になる。まあそこら辺は後で聞くかと自己解決をし、空を眺める。空は黒色の雲でいっぱいだった。もう少ししたら降り出しそう。そんな雰囲気を醸し出していた。

「あ。急ぐは。」

雨竜の言葉に続いて他クラス組はそそくさと走っていった。なんか嵐みてぇな奴らだったな。

体育祭五日目

目を開けて定位置にある時計で時間を確認する。そこにはいつもと違い6時と記されていた。どうやら寝過ごしたようだ。しかし6時に起きても学校には間に合うので準備をして、いえをでる。

教室に入り、クラスメイトの顔色を見る。みんな神妙な面持ちだ。ドクンドクン。いつもより速い心臓の鼓動。緊張しているようだ。彼奴に対しての勝ち筋が見えない。神話級以上のチート。俺はそう捉えている。

「席つけ。てもうみんな席ついてるか。」

先生が入ってくる。それから直ぐに俺たちは転移された。

5度目の転送。もうすっかり体に慣れた感覚。転送されて直ぐに気づく、今までの体育館ではないと。端にはずらりと観客が、そして床には大量の砂と言うよりかは土が敷きつめられている。コロシアムのような設計になった建物。

「決勝だけはこの特別コロシアムでやるよ。じゃあスタート。」

校長の気の抜ける声に1A皆が一斉に戦闘態勢をとる。校長の試合開始の合図から約5秒太刀奪を残し、相手クラスが一斉に離脱をする。太刀奪のワンマンチーム。そんな言葉だけで表していいのかも分からない程、大雑把な作戦。それでいてとても合理的作戦。

「みんな出来るだけ離れて。」

あいつが最大火力で皆を一気に離脱まで追いやるのが今一番濃い負け筋。それを回避するために、皆を1箇所に集めないように務める。1A対太刀奪の睨み合い。静寂に包まれたコロシアム。一番最初に動いたのは炎舞くんだ。一気に距離を詰め、炎の舞で一気にケリをつけようとしている。しかし、一瞬にして炎は消える。またも静寂。それから数名が連携をとりながら、攻撃をしている。しかしそれも数秒も持たない。だが攻撃をかけた彼らも直ぐに離脱している。じわじわと追い詰められていく。なんとなくだが不死原さんのような雰囲気。死が少しづつ近づいてくるそう感じる。

何か解決策を探す。俺があいつと暮らしていた数年の記憶を漁り出す。そしてふと思い出す。

「そういえばこの間俺らにはどこか欠点があるという話をしたろ?」

あぁ。そういえばそんな話もしたか。ここ最近は、父上の鍛錬が激しくなっていて日常の会話も忘れてしまう。

「あったな。」

その時は確か、俺自身の能力の欠点について語った記憶がある。しかし彼の欠点は特になかったな。

「この間、能力を行使した際に、俺の記憶ではない誰かの記憶が流れ込んできたんだ。しかも辛い辛い記憶だった。」

もしあいつの能力行使がトリガーだとすると、能力を使う際に少しだけ隙ができるはずだ。だが俺には能力がない。ならどうする。

1度思考をやめ、顔を上げるそこには銃が空を飛ぶというトンデモ現象が起きていた。忘れていた。こんな能力を持った人間がいたな。

何か忘れてるような。とりあえず現象を引き起こしている張本人のところまで走る。

「滝川さん。」

「無能力者か。何か策でも思いついたか?」

少し苦笑いをする。何も策が出来ていないのだ。

俺自身が持っているものを考える。頭脳、体術、そして2つの短剣。それ以外は……………

忘れていた俺の大事な武器。

「滝川さん俺の銃を操作してあいつに当ててくれ。」

「さっきからやってるけど、あいつには当たらない。」

1人でダメでも2人なら道は見えるかもしれない。負け筋の中に出来た1つの細い細い勝ち筋。これを潰してはいけない。ここが正念場だ。

「あいつの注意は引く。それと攻撃を当てたら、俺の元に銃を戻して欲しい。」

それだけいい。全速力で走る。視界には影狼くん、剣くん、穂坂さんの姿が見える。剣くんは弓でチクチクと。影狼くん、穂坂さんは1度引いて作戦をねっている。ならば擬似的に1体1、いや1体2だ。裏から奴の首元目掛けてナイフを振る。それを奴は後ろも振り向かずに受け止める。舐められている。口を開く

「久しいな。」

びくりと奴が反応する。きっと俺がこの学校にいることは知っていた。けれどこんな戦い方をするとは思っていなかったはずだ。

「お前か。」

そう言いながら奴は体を翻しこちらを見る。そうして互いの刃が届く範囲内で攻撃し合う。俺は短剣だけ使えないが奴は色々な能力を行使してくる。炎、水、風、土等の属性系はもちろん、概念系も数個使ってくる。そうして奴が俺とのタイマンに集中し始めた時、ゴンとやつに背中に何かが当たった。よしと思う。しかし奴は動揺を見るどころか、口を開いて

「見つけた。」

と言った。そうして次の瞬間、滝川さんや残っていた影狼くん達が離脱した。一瞬の出来事すぎて何が起きたか分からなかった。

「何をした。」

「なに。単純な事だ高速度の追尾弾を送り付けた。」

追尾弾。ここに来て新たな技か。面倒くさい。しかしこいつはこれ以外にも色々な攻撃を用意している。そうしてあの作戦も破られた。もう万事休すか。

しかし相手は待ってくれない。奴は攻撃をしてくる。これを何とか受け流しながら、どうするか考える。ジリジリと追い詰められていく。何とか銃は拾えたが。何をする。

「高密度エネルギー弾。」

直径5センチ程の球体が俺を目掛けて飛んでくる。しかしとてもゆっくりなので交した。交わしたあと数秒後爆発音にも似た、音が後方でなった。後ろ振り返ると、壁であったところが抉れていた。あの球体が作り上げたクレーターだ。あれを触れると一溜りもない。今の所スピードが遅いため交わすのは余裕だ。

しかし奴は攻撃と球体を織りまぜてくる。回避した先に球体があったりと、動きづらくなった。それから数分して、このままだと埒が明かないことが判明したため、距離をとる。奴も別の技に取り掛かり始めた。

「彼らの思想、過去、未来全てを背負おう。

炎は大地を温め、水は全てを潤し、雷は大地をも砕く。風は運命を運び、氷は鋼のように硬く、土は生命を産む。」

やばいことは確かだ。これを奴に好きにさせたら死ぬ。生物としての本能が訴えかけてくる。逃げろと。しかし理性がそれを拒んでいる。勝てないのか。またあの時のように。

「久しぶり。君は覚えてないかな。」

知らない子供が前に立っている。

「あれ、太刀奪は?」

少年はくすくす笑いながら、問いかけに答える。

「ここは君の心の中。どうして入れてるかって言うとね。とってもすごい神様の力なんだ。」

そうなのか。ここで理解する。これは夢なのだと。

「で君はどうする?もう一度戦ってあげてもいいよ。」

「闇は何よりも暗く、光は世界を照らす」

俺は奴の声で目を覚ます。あぁやはり夢だったんだ。でも何故俺はこいつに負けていない。本当に神が与えたチャンスなのか。

憎い、憎い、憎い、

この感じ以前に体験したことがある。そうだよな。全てが憎いよな。でもな、以前みたいに飲まれるのは、俺が成長してないって認めることだ。だから今回は少しだけ力を借りるよ。

「そうそれが正解だよ。」

先程の少年のような声が聞こえて。そうか。これが正解か。きっとこれが最後の共闘だ。よろしく頼むぜ。俺の能力!

「概念は世界の理をもねじ伏せる。悪魔の力は全てを切り裂く。我が問いに答えよ。

いつなんどきも咲き誇りし黒き華

《白椿》」

決勝戦だけは死んでも教室には戻らずに、コロシアムの観客席へと転送された。周りを見渡すと他クラスの連中もいた。そう周りを確認した瞬間、太刀奪は何かの詠唱を始めた。

太刀奪がなにかの詠唱を終え、放出しようとしている。しかしあのクソ無能の方にもなにか大きな、言うならばエネルギー波ができている。そうして互いにそれを放出した。その二つのものは中間で押しあっている。

「勝て!クソ無能おおおおおおおおおおおお!」

気づけば叫んでいた。俺の叫びに感化されて口々、あのクソ無能を応援し始める。ここで負けることは絶対にに許されねぇぞ。

数秒後、太刀奪の方が強く、くそ無能に着弾する。その次の瞬間、無数の黒いの花、椿が咲き、それに触れた瞬間、あのクソ無能は倒れた。

コロシアムには、全力を尽くし倒れた少年と、全力を出してなお立ち続ける少年、そしてコロシアムを埋め尽くすほどの椿が咲いていた。

そうして観客の誰かが呟いた。

「完全なる美しさ」

と。

「あー。体育祭おつかれ。言い忘れてたんだけど、この体育祭で活躍した人間は、海高との親善試合に出れる」

海高とは海風能力高等軍事学校の略である。そしてサラッと言ったが結構大事なことなのでは。

「は?」

誰かがボソリとそんな声を上げた。

「まあ数日後、声がかかると思うから。2日間は振替休日だから」

坂田先生がそう言い、俺らの1年体育祭は終わった。

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