第17話 真実

 容疑者全員に地大寺に集まってもらった。

「天使はこの中にいる麻薬組織に狙われたんじゃないか?」

 僕は担当直入に尋ねた。本当にそんな連中が混じってたら、拳銃で撃たれるかもしれない。ここはお寺だ。医者こそいないが、葬儀屋もいる。僕が殺されても事故死にできるかもしれない。ふと、『はたらく仏たち』の釈迦に説法を思い出した。信念を貫けば僕にも救いの手が指しのべられるだろうか。僕の未来を決めるのは、釈迦かそれともチャカか。


「あの日、俺たちは2次会にいった。」

 お茶屋が語りり出した。

「そこで、俺は天使と同じ匂いを感じた。天使はダシコの匂いだといった。お茶屋をやっていると、ハーブの情報は嫌でも入ってくる。とくに、大麻は茶葉に隠して販売している連中がいるために、警察もよく見回りにやってくる。当時、出汁粉にまぎれて大麻を栽培していた連中が摘発されたのは知ってたよ。そして、運悪く奴らも天使の匂いに気づいちまった。」

 店長は何もしらなかったらしいが、店のオーナーが元締めだった。店が取引に使われていた。


「店の隅にいたやつらは、裏切り者を見つけたとどこかに電話していた。慌てて、外のトイレに天使を連れて行ったんだが、見張られちまってとても逃げられる状況じゃなかった。そこで、おれと布団屋で窓から逃がす算段をした。窓の下の日よけに降りてマットの上に降りる予定だった。天使を葬儀屋につれていき、その後、坊主のところに匿う段取りをたてた。しかし、計画が狂った。所詮、素人考えだ。」

 お茶屋はコップの水を飲んだ。

「なぜ、話してくれなかったんだ。」

 僕は思わず怒鳴ってしまった。

「俺たちは、お前のことを知らない。それに、天使の上司と名乗る下川という人が現れて、自殺として処理するから余計なことはしゃべるなと言われていた。」

 葬儀屋の手が小刻みに震えていた。


「福太は関係してるのか?」

 僕は一番気になる点を訪ねた。

「俺たちは店からでられない。偶然下にいたやつに段取りを頼んだ。それに、やつなら日よけが壊れても内密に処理してくれる。」


 皆押し黙ってしまった。しばえあくの沈黙の後、重苦しい空気の中、坊主が口を開いた。

「去年、元締めのオーナーが捕まった。これで、ようやく俺たちは未知の恐怖から解放されると思った。しかし、長年染み付いた恐怖心はそう簡単に払拭できるもんじゃない。」

 9年間の恐怖がどのようなものか想像することはかなわないが、当時のことを他人に話すことはできなかったろう。


 後で知ったが、あの黒服たちは麻薬取締の捜査官だったようだ。あまりに僕が嗅ぎまわるため組織の残党かと疑われてしまったようだ。

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