第16話 悟り
木を隠すには森の中という。骨壷に麻薬を入れたり、茶葉に大麻をまぜて密輸するなどの話も聞いたことがある。鼻の利く茶屋と死体を扱う葬儀屋。これほどの取り合わせがあるだろうか。
こないだの黒服も葬儀屋の社員なら自然だ。僕は最初に茶屋はいい人だと思った。それは天使の写真を仏壇に飾っていたからだ。しかし、自分が殺したしまったということだったのかもしれない。
僕が狙われるとすれば、それは真相に近づいたということだ。釈迦は虎の前に身を投げ出しても助かったというが、僕が真似をしても食われる。猿真似と悟りは違う。警察に言ったところで証拠がない。相談しようにも下川さんはもういない。僕は一人でやばい連中を相手にしなくてはいけなくなってしまったわけだ。
真実を知っても幸せになれない。
下川さんの言葉が頭から離れない。僕は数日考えた。やつらは組織だ。逃げてもいずれ見つかる。虎穴に入らずんば、虎児を得ず。やはり、敵中に飛び込む以外に活路はないと悟った。
すると、妙に落ち着いた。人間は迷いが消えると穏やかになるものらしい。万一に備えて手紙を残した。遺品整理の際に、きっと誰かが見つけてくれるだろう。
僕は、住職に暇をもらいに行った。
「最近、悩んでいたようだが吹っ切れたのか。仏の教えとはどう死ぬかではなく、どう生きるかじゃ。そのことを忘れんようにな。」
そういって、休みを許可してくれた。
翌日、最低限の荷物だけを持って電車に乗った。いよいよ最後の対決だ。
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