第15話 職業柄

 僕はもういちど容疑者の供述を思い返していた。天使は布団屋にどっきりを持ちかけられた。個人的には同業者は疑いたくない。葬儀屋とお茶屋は何も知らないといった。それに、福太は遺族には本当のことを話すといっていた。しかし、おばさんたちの様子から福太が首謀者とは考えにくい。

「もし、天使がスパイと間違って殺されたとすると、どうやって気が付いた。」

 僕が推理をしていると、本堂から甘い香りが漂ってきた。


「いつものではありませんね。」

 住職が修行僧と話している。

「はい、うっかり切らしてしまいまして。似ている香りでと思ったんですが、やはり解ってしまいましたか。」

 小僧は申し訳なさそうに答えた。

「今度からは気をつけなさい。」


 香り。ダシコ。天使に染み付いたあの香りで、誰かが気付いたんだ。下川さんは僕のわずかな線香の香りを嗅ぎ取っていた。喫茶店のマスターをするくらいだから鼻がいいのだろう。なら、あいつも鼻が効くはず。やつらは福太の開く意見交換会でよく会っていた仲間なのだろう。しかも大麻を扱うには、やつの仕事は絶好だ。気になるのは、さほど金回りがよさそうではなかったことだ。


 だとすると、福太も布団屋も利用されたと考えたほうが自然だ。議員秘書である福太が、違法接待しようという場所で事件を起こすメリットはない。布団屋も自分商売道具で殺人をするほど間抜けではないだろう。


 まてよ。あのうろついていた、黒服たちは何だ。ホスト・・・にしては黒髪でチャラくもなければ、いかつくも無い。刑事や役人とも思えない。そうか、あの仕事なら。それに、結構羽振りもよかった。


 あの二人なら仕事上の検疫などでもあやしまれないかもしれない。が、組織は壊滅状態のはず。いまさら僕にまで命の危険が及ぶだろうか。それに下川さんが調べている厚生労働省ともつながらない。


 もやもやした日々を過ごしている中、欠けたパーツを埋めるような情報が週刊誌に掲載された。

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