第13話 ゲス
「ところで、大曽根代議士はご存知ですか。」
僕は、去り際に下川さんに尋ねた。
「ええ、昔から良く知ってます。犬猿の仲といいますか。悪いことはしますが、悪い人じゃないんですがね。彼の政治は、ゲスの究(きわみ)といったところでしょうか。」
下川さんは、顔色一つ変えずに淡々と答えた。
「天使が福太くんと中学の同級生ということは知ってましたか?」
「まあ、仕事柄。ターゲットが知り合いの場合、チームから外すのが失敗しない鉄則です。一つ忠告しておきますが、この件にはこれ以上関わらないほうが身のためです。」
亡くなった人のことをあれこれ言うのもなんだが、大曽根議員は党内での評判はいいが、世間の評判はいいとはいえない。政界のドンとして君臨し、強引なこともやってきたようだ。官僚たちは恐れ、忖度政治の基礎を作ったといっても過言ではない。
後になって知ったが、下川さんの言ったゲスとは忖度を英語のguess、つまり、推測するに引っ掛けたものだったようだ。
忖度の語源は孟子らしいが、仏教でも使う。相手のことを推し量ることで、良い意味に使うことが多かったのだが、最近の説法ではすっかりNGワードになってしまった。
有名なのが『さくらを喰う会』。不起訴になったが、馬肉業者を集めての贈賄疑惑だ。他にも、野党の女性議員を指し
「アンナ、やつには負けない。」
といって物議をかもしたこともあった。
大曾根議員が指示したのか、それとも福太か他のだれかの忖度なのか。疑惑は益々深まるばかりだ。
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