第12話 エンジェル
「よく調べましたね。」
下川はコーヒーを差し出して答えた。
「今日はマンデリンです。飲みやすいでしょ。」
確かに、ブルーマウンテンよりも苦味があってコーヒーっぽい。
「天使くんのことは残念です。ですが、彼は素人ですから危険な活動はさせてませんよ。仲間が仕事をしている間、ターゲットの気を引いてもらうのが役目です。ですから、本当の目的も伝えてません。」
「天使の死は本当に事故ですか。」
僕は単刀直入に聞いた。
「わかりません。一時期スパイのことはエンジェルと呼ばれていたことがありました。もしかすると、天使という名前があだになってしまったのかもしれません。当日は別働部隊が一階の情報を集めていました。ですから天使くんが二階に来ていることはだれも知りませんでした。」
老人は本当に残念そうに話した。
「ここに店を開いのは、天使のことが理由ですか。」
「それは申せません。ですが、まったく無関係じゃありません。」
僕は、窓辺に飾られた白い一輪挿しを見つけた。
「サギソウです。なんとなく天使の羽にみえませんか。天使の羽という名の植物がありますが、私はこちらのほうが好みです。」
撃たれて死んだ白鷺の跡に生えたというサギソウ。まるで天使の死を象徴しているかのようだ。
「この店も長くはありません。お気に入りの豆がありましたらお分けしますよ。」
僕にはコーヒーをたしなむ趣味はない。せいぜい自販機の缶コーヒーを飲むくらいだ。丁重に断って会計をしようとした。
「結構です。代わりといっては何ですが、天使くんの供養をしてあげてください。」
さすがに坊主と気付かれたようだ。
「お香の匂いがします。」
長年染み付いた匂いは簡単には抜けないものらしい。
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