第10話 薬師三尊

「薬師如来様、下界では疫病が流行っているせいで、沢山の方がお参りしに来ます。そろそろなんとかしてあげたほうがよろしいのでは?」

 ナース姿の月光菩薩(がっこうぼさつ)が中央に座る白衣すがたの如来に言ったが、如来は答えない。

「問診ばかりしてないで治療をお願いしますよ。」

 如来は、下目使いにギロリと月光菩薩を睨んだ。

「あ、失礼しました。薬師瑠璃光如来様。」

 如来は微笑んだ。

「そうです。名前はきちんと言いましょう。ゲッコウちゃん。」


「薬師瑠璃光如来様。印を変えたほうがよろしいのでは。子供たちが、大仏さまがお金ちょうだいってしてるって言ってますよ。」

 月光菩薩が中央に座る如来に語りかける。

「これは、お金いらないのポーズ。ちゃんと右手を立てて、いらないってお断りしてるでしょ。」

 反対側の日光菩薩が答える。

「ああ、無銭印(むせんいん)ですね。」

 如来が一括。

「施無畏印(せむいいん)。」


「他の如来様、何も持ってないのにどうして薬師様は壷を持ってるんでしょ。」

 月光菩薩がひそひそと日光菩薩に問いかけた。

「阿弥陀様が薬師さまのライバルというのはご存知ですよね。昔は他の方と同じように待ってなかったんです。お二方とも同じような印なのでよく間違われたそうです。たから、薬壷(やっこ)を持つようになったとか。」

「やっこだから中身は豆腐ですかね。」

「阿伽陀(あかだ)という霊薬らしいです。」


「娑婆(しゃば)では夜勤には手当てがつくらしいですよ。」

 月光菩薩は不服そうに言った。

「仏はそういうものではないから。」

 日光菩薩がたしなめる。

「やっぱり、おしゃれもしたいじゃないですか。」

 飾り気の無い如来とは違い、菩薩は修行中なので装飾品を纏っている。

「では、給金を日光ちゃんの倍にしましょう。」

 如来が月光菩薩に言った。

「いいんですか。」

 月光菩薩は目をキラキラさせた。

「かまいません。」

「ところで、日光ちゃんいくらもらってるの?」

「ボランティアですからもらってません。もともと薬師様の光明は無量(むりょう)です。」


 久々に、はたらく仏たちを読んだ。

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