第8話 下川さん

「嘱託の下川ともきさん。10年前に辞めましたよ。なんでも、面倒を見ていた子が亡くなったというんでショックを受けてたようです。天使くんとかいったかな。珍しい名前なんで覚えてます。」

「下川さん、プライベートなことは一切話さなかったですね。ここに来る前は警察関係の仕事をしていたとかいう話でしたよ。なのでここでの仕事はあまり向いていないようでしたね。もっとも、定年過ぎての再雇用での配属ですからね。」


 職安での評判は窓際族ってやつだった。なかなか仕事の決まらない連中の相手を押し付けられていたんだろう。しかも、天使のしていたバイトは正規のものではなく、下川さんが個人的に見つけてきたもののようだ。

「天使くんのような場合、学歴も素行も評価が低いので普通の就職先はなかなかないんですよ。時給600円程度か、せいぜい日雇いで時給千円、でも色々引かれて実際には日当500円なんてひどいところも多いんです。それにくらべたら、下川さんの持って来た内容は破格でしたね。危険もないみたいだし。」


 下川さんという人は、どうも評判がいい。しかし、安全で破格の仕事なんて、坊主でもそうはない。昔から坊主丸儲けなんていうが、それは檀家の多い一部の寺だけ。大半は寺の補修もままならないほど貧乏。僕のいる寺は、比較的参拝客も多いが、修行僧もいるのでカツカツだ。死ぬたびに活活(かつかつ)と生き返らされる等活地獄のよう。

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