第6話 瞑想

 寺に戻って、情報を整理した。お調子者の天使が余興で飛び降りることになった。窓の下には一階の日よけが張り出していた上に、保険としてマットも用意してあった。週刊誌の記者がマットを足場にするために動かして、日よけのある窓から写真を撮った。記者へのタレコミは、接待していた会社のライバルのスパイか、恨みをもった役人か。いずれにしても、情報源は明かしてくれまい。


 マットが動かされていることに気づいた布団屋は中止の合図を送った。おそらく、まだ日よけは出ていたために、天使は異常に気付かなかった。

 運の悪いことに、天使が飛び降りる直前に、日よけが閉じた。そして記者が去った。


 記者は日よけが閉じたから現場を去ったといった。天使の飛び降りに本当に気付かなかったのだろうか。自分だったら、気付かれたらすぐに逃げて隠れる。もし離れたところに隠れていたら、何かが落ちたとしても気にしないかもしれない。それとも騒ぎになったので、あきらめて帰ったとも考えられる。


 僕は、この物語のかけているピースを探した。深遠なる宇宙に思いをはせる。何もないと信じているその空間にまだ見えない何かが隠されているのではないか。

 如来という太陽を中心に菩薩たちが集まり、そのまわりを武衆たちが衛星のごとく守っている。かれらは自由に動いているように見えて、実は如来にもたられる物理法則にも似た理によって動いている。


 もし、偶然ではなく、天使を狙った犯行だったら。


 やつに聞いても当時何をしていたか覚えていない。だいたい政治に首を突っ込むような正義漢でもない。僕は供養してくれと受け取った天使の遺品を取り出した。

「そろそろ、自分たちも終活を始めないと。自分のものは捨てられるが、息子のものとなるとゴミに出すのも気がきけてねえ。」

 そういわれて持たされたのは、ほとんどが昔の写真だ。小学校や中学校の時の写真もある。高校の卒業アルバムもあった。なつかしい。やつは留年して学年が違ってしまったのであいにく僕の姿はそこには映っていない。


 アルバム以外にも未整理の写真の束がある。知らない顔ばかりだ。運動会の写真。これはカケコの時のだな。芸人さんとのツーショットもある。ウケコ時代か。ほかにもおそらく仕事仲間だろうと思われるものがいくつもあった。

「色んなバイトを転々としてたんだ。」

 そんな中に、僕は最近会った顔をみつけた。その写真は中年だった。十年以上経っているなら初老だろうか。

「喫茶店のマスターだ。」

 彼は天使のことは知らないと言っていたが、知り合いだったんだ。

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