第5話 天使が舞い降りた場所
翌日、天使が飛び降りた店に行った。昨年は不要不急の外出自粛で、寄らなかった。以前にも増して人通りのまばらな道を進むと、見慣れた二階建てがあった。2階はいつの間にかに別の店に変わっていた。一階のバーは臨時休業の貼紙がしてある。
「こないだまでは時短要請にも応じないっていきまいてたのに、例の接待騒ぎで時短どころか休業しちまった。まあ、連日取材が来てたから無理もないか。ここだけの話、最近は厚生労働省の官僚がよく来てたよ。」
事情を察した2階の店主がこっそり教えてくれた。
「よく、いわくつきの物件で商売を始めましたね。」
僕は、躊躇無く初老の老人に尋ねた。
「緊急事態宣言で客が来なくなって前の店主が店をたたむって聞いてね。私はご友人のことは存じませんけど何だかロマンを感じましてね。」
役所を退職して、ようやく念願の喫茶店を始めたそうだ。コーヒーに詳しくない僕は、酸味の少ないものをお願いした。
「そうですね。お手ごろなのはマンデリンですね。少々お高くなりますがブルーマウンテンは初心者にも飲みやすいですよ。」
天使が舞い降りた場所
店主はそういった。だからあえてこの窓のある一角を借りたらしい。挽き立てのブルーマウンテンを口に含みながら窓から外を眺めた。せめて今日ぐらい贅沢をしてもばちは当たらないだろう。窓から見える空はどんよりとしていたが、ところどころ隙間から光が地上に差していた。
帰りの電車の中で眠ってしまった僕は、発車のベルの音で目を覚ましドアの前で待つ天使の霊と一緒に、慌てて降りた。
「ん?いつもと様子が違うぞ。」
良く見ると、一駅前だった。うっかりにもほどがある。天使のやつは笑っている。やつのいたずらか?時々こういうことがある。しかたない、次の電車を待つか。そう思って改札口のほうに進むと駅員がなにやら走り回っている。
「先ほど出発しました下り列車において、人身事故が発生いたしました。脱線した模様で復旧するまでのあいだバスによる振り替え輸送をいたします。」
駅の構内では、改札に向かう人と、電話をかける人でごった返した。
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