第4話 墓場
天使の墓の前で僧侶が、お経をあげている。その後ろで彼の親族とともに僕が頭をたれ、口元を隠し肩を震わせる。まあ、そこまではならよくある光景だ。
僕の横には、霊となった天使本人がボーと立っている。それを知っている僕は笑いを必死でこらえる。
「えー、本日は皆様にお集まりいただき、こうしてご供養することで、きっとあの世で幸せに過ごされていると思います。」
一般的なことしかいわない僧侶。僕は思わず
「プッ」
と声を漏らしてしまった。しかし、誰もが悲しみに感極まったんだと思っている。
同じ僧侶という職業をしていると、説法ひとつで相手の力量というものがわかる。さらに、自慢させてもらえば、僕は天使を成仏させるために修行に励んだ。世襲のボンボンとは違う。そんな、なまくら経で成仏するほど霊はやわじゃない。
僕としても、本当なら毎年わざわざくるほどの親友というわけではないのだが、天使のやつが僕のそばから離れらないということで、やつの里帰りにしかたなく付いてきている。地縛霊のように土地に留まる霊もいるが、守護霊のように人について離れないタイプの霊もいる。そのため、毎年その夜は天使の実家に僕も泊まるはめになるのだ。
「夜のお勤めがありますので。」
そういって、客室で一人瞑想にふける。せっかくの実家だ。親子水入らずで過ごさせてやりたい。天使のやつは、今は両親の部屋にいる。
「ふしぎですね。なんだかあの子がそばにいる気がしますよ。」
「じきわしらも行くからあの世でまっとれよ。」
それは年寄りの思い込みなのか、家族の絆なのか。
「そこにいますよ。」
そういってやりたいのはやまやまだが、それでは天使の魂は地獄に落ちる。天使が悪魔になるなんて、それこそ堕天使だ。
僧侶として一言いわせてもらえば、墓にお供え物をしたりする人がいるが、あれほど無駄なことはない。動物たちが寄って来るし、浮浪者が食中毒になるかもしれない。さらに気づいてないだろうが、霊を墓に置いてきていることになる。いくら死んだ人だからって、一人ぼっちで墓場に残されるなんて気持ちのいいもんじゃない。だから僕は、
「墓は亡くなられた方のご遺体をお納めしておくところで、魂の住処ではありません。いわば、なくなったお体の代わりです。ですから、時折、綺麗にしてさしあげるためにお参りに来ればよろしい。魂は、ご自宅の仏壇なり、ご遺族と一緒におられるのです。」
と、説いている。
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