第34話 先輩、もっと近づきたいです



 小春日和の空の下、オレはぼんやりと公園のベンチに腰かけていました。

 足元には、一匹の中型犬。


 この時期我が家では、妹の誕生日と両親の結婚記念日が近いので、子供の頃から毎年、なぜか半強制的に学校を休まされて旅行に出かける伝統があります。

 今年は、オレは仕事が休めないからとパスしたら、結果がこれですよ。お互い、辛い立場ですね……。

 まあ、1年目でも休み取れなくはないんですけど。はがねの精神さえあればね(オレのはハリガネです)。


 だけどオレは、家族旅行より王都に残って仕事するほうがいいです! だって、仕事だったら、お会いできますし。

「先輩……」

 貴女は今、どうされていますか。どこかの男とおデートなんて……ないないない! ないですよね!?


 今日なんかも、仕事から遠く離れた休日の公園で、いるはずのない貴女のお姿を求めています。

「ああ、重症だ……」

 そう、重症なんです。

 だって、そのいるはずのないエイミリア先輩が、この公園へ入って来られるのがハッキリと見えるんですから! しかも、男と手をつないで!?


 あ、いや、男といっても、年端もいかない小さな男の子ですけど。……ってもしや、先輩の隠し子!?

 いやいや、甥っ子とか、そういうオチでしょ? だってほら、あんまり似てない……と思うし。いや、甥っ子ならそれなりに似てるもんですかね? いや、でも、髪の色だって全然違うし。うん、似てない。似てない。

 はっ、もしや、父親似? むしろ連れ子という線も!?


「ねえねえミリアちゃん、ぼくもワンちゃんほしいなぁー」

 えっ、『ミリアちゃん』!? お手てつないで『ミリアちゃん』って……う、羨ましいです。でも、『ママ』じゃなかったですね。ホッ。

 いやでも、最近の若いカップルなんかは、子育ても友達感覚で、名前で呼ばせたりする、なんて聞いたことがありますが……?


「うーん、じゃあ、ママとパパ説得してごらん?」

 これはもしや、先輩流の英才教育? そのメリットとデメリットをプレゼンして、見事わたしを納得させられたら、前向きに検討してあげましょう、みたいな?


「あっ、ワンちゃんだー!」

 え、先輩の連れ子……じゃなくて先輩が連れていた子供が、こちらへ向かって突進してくる!?

 ちょっと待って、オレまだ心の準備が……!

「ローグくん、待って! ……あ。コウくん」

「あ……、ミリア先輩。お疲れさまです」


 あ、仕事じゃないんだし「お疲れさまです」はないか。こういうとき、なんと言ったらいいのでしょう? 「こんにちは」?

 先輩も返答に困っていらっしゃるのか「うん……」と微妙な返しで。

 そんな歯がゆい空気を払ってくれたのは、小さな救世主でした。


 駆けてきた少年は、オレと犬から3歩ほど離れたところで急に立ち止まったのですが、追いついてきた先輩のほうを見上げて、

「おにいさん、ミリアちゃんのおともだち?」

「うん、そうだよ。コウくんっていうの」

 えっ? オレ、ミリアちゃんのお友達?


 うおぉ、先輩直々に、お友達認定いただきましたっ!

 オレはこの度、晴れて後輩を卒業……はしないですけど。でもなんか、ちょっぴり昇格した気分です。えへへ。

 できればもうちょっと、友達以上……くらいに這い上がってみたいもんですけれども。まあそれは追い追い、ですよね。


「じゃあ、ローグくんもご挨拶しよっか?」

「はーい! ぼく、ローグくんです! 5さいです! あとね、ミリアちゃんはぼくのオヨメサンなの」

 はうっ!?

 ま、負けた……。オレは5歳の子供に完敗です。友達以上の宣言もできないオレの目の前で、お嫁さん宣言をするとは。末恐ろしいお子様ですね。


 がっくりと項垂れるオレを見かねた先輩は、

「コウくん、撫でていい?」

 えっ!? そ、それはもちろん。

 撫でるって、具体的にどこをでしょうか? できれば頭とかだけじゃなくって、いろんなとこ撫でまわしていただけたらと、思うんですけれども。

 ああ……顎なんですね。いや、オレじゃなくって、オレの連れてる犬のね。そりゃそうですよね。はい、失礼しました。


「かわいい子だねー。キミ、名前は?」

 はっ! 先輩がナンパをなさっている!? どこのどいつですか、先輩にナンパしていただけるなんていう幸せ者は! 今すぐオレと替わってください。オレならホイホイついていきますよ。

 しかも犬の首筋撫でていらっしゃるだけなのに、その手つきはどこか艶めかしくって……。ああっ! そんな目でオレを見ないで。いや、そのままずっとオレだけを見ていてください。


 ……あ、えっと、名前ですか?

 はーい、オレ、コウくんです! ……って、違う違う。

「ケロ――えっと……ケルベロス、です」

 い、言えない。この犬の名前に隠された重大な秘密なんて。いや、めっちゃしょうもない秘密ですけど。

 ああっ、すみません先輩! オレは貴女に隠し事をしてしまいました。いや、でも、ウソはついてないですよ。ギリギリね。

「カッコイイ名前だね。オスなの?」

 ハイ、オレはオスです! オスの機能も万全ですよ……ってちがーう!

「……いえ、メスです」


「ねぇミリアちゃん、ぼくも……」

 隣で見ていたローグ少年が、モジモジしながら先輩の袖を引っぱっていました。

 なにっ、ぼくも撫でてほしい? いや、次に撫でてもらうのはオレです!

「じゃあ、おにいさんに聞いてごらん? 触っていいですか、って」

 あ、そっちですか。


 少年はオレのほうをチラッと見てから、素直に先輩の言葉を反復しました。

「さわって、いーですか?」

「もちろん、どうぞ。噛んだりしないから、大丈夫だよ」

 ローグくん、ここは一時休戦です。先輩に対して『子供の面倒見もいい優しい男』をアピールするチャンス!


 オレはローグくんが怖がらないようにケルベロス(仮)の口をおさえつつ、少年の小さな手を導きます。

「ほら、ここ触ってごらん」

 ローグくんはもう一方の手で『ミリアちゃん』にしがみつきながら(ああっ、オレもそっち触りたい!)犬の背に恐る恐る手を伸ばすと、毛先にちょんっと触れただけで飛びのいてしまいました。

 怖かったのかな、と心配したけれど、その目は感動に輝いていて。それからちょっとずつまた、距離をつめて。オレや先輩が撫でてみせるのを真似ながら、ちゃんと触れるようにまでなりました。


 犬が顔を向けるとまだ怖がってしまうけど、無邪気な少年はすぐにまた近づいて。そうして少しずつ慣れていきます。

 オレも、先輩とこんなふうに距離を縮めていけたらいいのになあ。

 ほらほら、怖くないですよ。触ってごらん?

 でもこの場合、怖がって近づけないでいるのは、オレのほうでしょうか……?


 先輩はしゃがんでいる体勢にお疲れになったのか、オレの隣でベンチにもたれかかって、優しい笑顔で犬と少年の交流を見守っていらっしゃいます。

 こうしてると、なんか……。

 なんかこれってもう、休日の家族の構図じゃないですか!?


「あっ、ママだー!」

 オレを幸せな白昼夢から引きずり出したローグ少年は、またまた唐突に駆け出しました。

 ちょうどエイミリア先輩たちが来たのと同じ方向から、女性が一人、ローグくんよりもさらに小さな女の子を伴って歩いてきます。

 ローグくんは女性の足元にタックルして、グイグイ引っ張って戻ってきました。


「このおにいさん、ミリアちゃんのおともだちだって。コウくんちゃん!」

 うぅっ。くん付けのうえにちゃん付け、やめてください。

「あら、知り合い?」

「うん、職場の同僚。偶然会ったの」

 ああ、さらに格下げ。『おともだち』は子供にわかりやすいように言っただけですね。

 でも先輩、この出会いは偶然ではなく必然なんですよ。すなわち『運命』という名の……いえ、すみません。なんでもないです。


「コーディアスです。スティングスで、エイミリア先輩のお世話になっています」

「へえ、てことは後輩クンか」

「うん。あ、彼女はファライアっていって……」

「ども! 『ライア』でいいよ。ミリアとは魔道学院からの親友なの。コウくん……あ、そう呼んでいい? よろしくね!」


 先輩のご友人にしてローグ少年の母親であるファライアさんは、豪快で気さくな方のようです。

「ついでに、こっちのチビはリナリア。リナ、ご挨拶しな」

 ファライアさんは連れていた小さな女の子に促しましたが、女の子は母親の陰に隠れてしまって。そうする間にも、大人の社交に飽きたローグくんがしびれを切らせて母親に縋りつきました。


「ねーママぁー、ぼくもワンちゃんほしぃー」

「はぁ? ダメだって言ってるでしょうが」

「えぇー! だって、おにいさんももってるよー?」

「『もってる』じゃなくて『飼ってる』! おにいさんは大人だからいいの」

 微笑ましい親子喧嘩を、二人並んで眺めていたら、先輩がふいに笑ってオレのほうを見上げてきました。

「ふふっ。『大人だから』だって」

 普段目にするローブとは違う私服姿、晴れた日曜日の公園で、突然そんな笑顔を向けられたら……。ああ、オレもワンチャン、ほしいです。


「動物飼うの、大変そうだもんね。コウくん、ひとり暮らしじゃなかったっけ?」

「あ、はい……。実はこの犬、実家で飼ってるやつで。妹のなんですよ」

「へえ、妹さんがいるんだ」

「あ、はい」

 あれ? もしや、先輩がオレのことにちょっぴり興味を示してくださっている?


「……それで、妹と両親が今日から旅行に行ってて、その間オレが犬預かることになったんです。それで実家にコイツ引き取りに行って、今は、その帰りで」

 ああ、なんか上手くしゃべれない。先輩、呆れていらっしゃらないですかね?

 チラッとお顔を盗み見ると、先輩はニコニコと笑みを浮かべながらオレの話に耳を傾けてくださっていて。そんなの見たら、オレはますます舞い上がっちゃうじゃないですか。


「あっ、だからこのデカいバッグの中身は、全部コイツのなんですよ。ドッグフードとか、ボウルとか、おもちゃとか」

 ああっ! 話題がそれてしまう。せっかく先輩のことを聞き出すチャンスだったのに。

 ところで、先輩は? おひとり暮らしですよね? お住まいはどのあたりで? ご家族は? ちなみにお父様はどのようなお方で……?


 テンパる頭でなんとかそっち方面に話題を戻せないか算段していると、ファライアさんがズンズンと近づいてきているのが視界の端に映りました。

 ひぃっ、すみません! 大切なご友人に近づいて、あまつさえプライヴェートを聞き出そうなんて。オレには出すぎたマネでした。いえ決して、下心では……なくは、ないですけど……。


「あのさ、コウくん、悪いんだけど」

 ハイ! オレなどの顔でよろしければいくらでもお貸しします。お気のすむまでボコっていただいて構いません。ですからどうか……接近禁止令だけはご勘弁を……!

「この子ら、ワンちゃんと遊ばしてやってもらえるかなぁ?」

「えっ? ……あ、そんなことなら、全然いいですよ」

「ごめんねえ。言い出したら聞かなくてさぁ。ホント、誰に似たんだか」

 どうやらオレがお貸しするのは、犬本体とバッグの中のおもちゃだけで済むようです。



「あぁー、あれくらいの子供が一番疲れるわ」

 子供たちが犬に慣れてくると、ファライアさんも離脱して、オレたちと一緒に木陰に腰を下ろしました。

「子育てって体力使うし、産むなら早めにしないとダメよー?」

 ふぉあっ!? 家族連れでにぎわう昼下がりの公園で、いきなりなんて話題ですか!

 いや、むしろ普通なんでしょうか?


「ふふ、ライアだったらまだまだパワーあり余ってる感じだけどね」

「あたしじゃなくて、あんたのことでしょ? まだ相手いないの?」

「えっ。うん……、いない」

 あれ? ずいぶんあっさり認めていらっしゃる。いつもなら先輩、焦らしたりはぐらかしたりして、聞き耳立ててるオレが翻弄されるのに。

 それともあれは、職場だからなのでしょうか。相手が学生時代からのご親友なら、そういう相談なんかもされる…‥?

 はっ、もしやファライアさん、先輩の恋愛遍歴をすべてご存知だったりするのでは!? 姐さん、いや、師匠と呼ばせてください!


「えーっ? なんでよ、もったいない!」

「もったいない、って……」

「あんた、いい加減に男の一人や二人くらい作ったらどうよ?」

 いや、二人は作らなくていいと思いますけど。できればその一人も、じっくり慎重に。そしてその一人というのが、できることならば……。

「えー、だってぇ……」

「だってじゃないよー。気になる人とか、いないの?」

「だって、わたしなんかのこと好きになる物好き、いないでしょ」

 ……え?

 なななにを仰せなのですか先輩!?


 そうこうするうちに、ローグ少年がまた唐突に駆けてきて、エイミリア先輩のお手を取って連れ去ってしまいました。

 さすが、早々にオヨメサン宣言していただけのことはあって、手が早いですね。オレもうかうかしていられません。

 ていうか、完全に後れを取っています……?


「で、後輩クン? 職場でミリアの浮いた話とか、聞かないの?」

 先輩の残り香漂うスペースを挟んで、ファライアさんがオレに問います。

「いやぁ……。オレはあんまり、そのへんのことは」

 興味はあるんですけれども。いやむしろ、興味津々なんですけど。なかなか先輩、謎が多くていらっしゃいますからね。

「そっかぁ。あの子あんまりそういう話、しないからねえ。ていうか、ミリアがフリーだってことも、周りがあんまり知らないんじゃない? ウチの旦那も、それ言ったらビックリしてたよ」

 ああ、たしかに。その手のウワサ話は、たいてい「カレシいる前提」で始まりますね。オレもついさっきまで、確証が持てずにいました。


「学生の頃はどうだったんですか? 先輩、人気だったでしょうね」

「そりゃあ、モテたよ」

 ああ、やっぱり。学院のマドンナ、言い寄る男は数知れず、みたいな?

 はっ! まさかその中の誰かと、今も密かに愛を育んでいたりするのでは。だから職場ではそういう話しないし、興味もなさそうなんですか?

「まあ、主に女の子に、だけどね」

「えっ……?」

 そっちは想定していなかったです!


「ミリアって学生の頃は、見た目わりと男の子っぽかったんだよね。髪もずっとショートだったしさ。背もあの頃から高かったし」

「へえ。男の子っぽいって……なんか、想像つかないです」

 たしかに先輩はすらっとしていて女性としては高身長だし、すっきりとした瓜実顔に切れ長の目。女性から見てもカッコイイらしく、スティングスでもよくウワサになっているけれど。

「そっかぁ。ま、学生の頃の話だからねえ。ミリアの隣の席はいつも取り合いだったし、移動教室のときとかさ、誰が隣を歩くかでモメたりして。モテモテだったね……女の子に。そのぶん男子は、逆に近づきにくかったかも」

 ファライアさんは高い青空を見上げて、懐かしい記憶に目を細めました。


「むしろ、そこらの男子じゃ引け目感じるんじゃない? 体型も今よりなんていうか……スレンダーだったし。私服の時は男の子っぽい格好なんかもして、傍から見ると『美少年!』って感じだったよ」

 先輩の男性遍歴とか、あわよくば好みのタイプとか、そんな情報が出てこないかなーなんて、オレはちょっぴり期待してたんですけど……。そうですか、美少年ですか。まさかの、先輩ご自身が!

「ミリア先輩って今でもじゅうぶんスレンダーだと思いますけど。もっと細かったんですか?」

「そう! あの子ホント細いでしょ。そのくせ『そんなに細くないよ』とか言うし。ムカつくわー。あーでも、スレンダーってのはそういう意味じゃなくて、今みたいに……何て言うのかな、ほらあの子、ムネとかけっこうあるじゃない?」

 えっ!?


「あ、わかんないか。仕事中はローブ着てたりするよね」

 アブナイ、アブナイ。

 えっと、先輩が……、え、何の話でしたっけ、ハハハハハ。ええ、わかんないです。

「それに、あんまりあの子、露出高い服とか、体型出る服とか着ないでしょ。もったいない」

 ええ。たしかにそれは、もったいない気がします。いつもオシャレだけど、キリッとしたパンツスタイルが多くて。それはそれで似合うけど、他の女性隊員たちみたいな、ふわふわ系とか、セクシー系とか、そういうのも絶対似合うんだろうなって……。

 そういうのも見てみたいなあと、ちょっと思っちゃうんですよね。


 でもたまーに、ごく稀に、いつもと違う系統の服装をされていると、ギャップもあってすごくイイんです。

 ああでも、そういうときってドキッとするだけじゃなくてギクッとするんですよね。先輩もしかして、おデートでいらっしゃいますか、なんて。いつもと違う服装は、どこぞの男の趣味ですか、なんて……。

「今日だって、休日くらいもっとオシャレすればいいのに。まあでも今日は、うちの子の相手してくれるためだろうけどね」

 うぐっ! 今日のお洋服は、どこぞのローグ少年のためですか!?

 スリーストライク、オレ、アウト。



 今日は思いがけず楽しい休日になりました。

 家についたら、ケロ……いやケルベロスには、褒美をとらせてやりましょう。こいつ鶏肉が好きだっけ?


 いやあ、それにしても、先輩がね……、へえ、そうなんですか。そうでいらっしゃるんですか。

 ああ、たしかに……ってダメダメダメ! 今想像したら非常に危険です。先月近衛兵団が導入したという最新式キャノン砲より危険です。いや、キャノンってべつに、そういうことじゃなくて。オレのキャノンが火を噴くとかじゃなくって……あーヤバいヤバい。

 この案件は、家まで持ち帰って、今晩ゆっくりじっくりと検討させていただきたいと思います。いや今晩のオカズだとか言ってないですから!?

 あ、ケルベロス(仮)の晩ご飯に、鶏肉買って帰らないと。


 当たり前だけど、先輩にはオレの知らない世界があるんですね。休日には学生時代のご友人と会って、5歳の子供と遊んでいたり。

 仕事のオンとオフ、きっちり分ける人だと思っていたけど、あのオフも『職場でのオフ』なのかもしれません。まだ全部を見せているわけじゃなくて。

 本当の貴女は、どこにいらっしゃるのでしょう。


 先輩、もっと貴女に近づきたいです。

 貴女はまるで蜃気楼しんきろう。ちょっと近づけたと思っても、まだまだ思ったよりずっと遠くて。追いかけて追いかけて、届かぬ先へと手を伸ばしているうちに、誰かにかっさらわれてしまうんじゃないかって、最近、悪夢まで見るんです。

 情けないですね、オレ。


 貴女に男の影がチラつくたび、心搔き乱されて。疑惑が晴れてはホッとして。

 でも、だから何だというのでしょう。そんなことで安心していられるわけもないのに。今日でも明日でも、状況は変わるかもしれないのに。


 誰かが言っていたらしい、手に入れたことのないものは、失う心配なんかないんだって。

 蜃気楼が消えてしまう前に、何とかしなきゃ。カッコつけてる場合じゃない。貴女を手に入れられなくたって、べつに失うわけじゃ……ないはずだから……。

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