第36話 貴女への手紙


   <閉店のお知らせ>



私の大切なお客様。


これまで当店をご愛顧いただき、誠にありがとうございました。

この度、一身上の都合により閉店いたしますことを、どうかお許しください。



ここは【雨夜の止まり木】。道に迷った者だけが辿り着ける場所。


貴女にはもう、ぼんやりとながら、道が見えているはずです。


それは、決して平坦な道ではないでしょう。

時には急な坂道を越え、曲がりくねった細道を抜けなければならないでしょう。

その複雑な道程は、そのまま貴女の魅力となるはずです。

だから怖れず、前へ進めば良いのです。


けれど、時には立ち止まって。

歩き疲れたその足を、労ってあげることも、忘れないでください。

深呼吸して。耳を澄ませて。貴女のカラダとココロに、向き合って。

そして大切に慈しんであげてください。

私がそうしてきたように。

もう、そうすることのできない私の代わりに。




どうか明日の太陽が、温かい光で貴女をやさしく包みますように。

未来に吹く風が、貴女の背中をそっと押してくれますように。


夜には明るい月の光が、貴女の足元を照らしますように。

そして月のない夜は、星々が囁いて貴女に寄り添いますように。



けれど、心に雨の降る夜には、またいつでもいらっしゃい。


貴女が求めてくだされば、私はいつだって、貴女のそばに居りますよ。




        【雨夜の止まり木】 店主

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る