第34話 会いたい気持ち


いらっしゃいませ、お待ちしておりましたよ。


…………。


ああ、いえ。

私としたことが、「待っていた」だなんて。


ここは【雨夜の止まり木】。

飛ぶのに疲れた小鳥たちが、雨をしのぎ、いっとき羽を休めるために立ち寄る場所。再び元気に羽ばたいて、飛び去って行くのを見送るのが私の役目です。

それなのに……。


あろうことか、私は貴女が訪ねてきてくださるのを心待ちにしていたのですね。


長い時を生きる私でも、こんなふうに間違えたり、悩んだりすることはあるのです。

だから貴女も、貴女の欠点を愛してあげてください。

それも、貴女の一部ですから。


すべてが揃って、調和して。

そうしてはじめて『貴女』なのです。

だから貴女は、美しい。



本日は、アッサム・ティーなどいかがでしょうか?

アッサム・ティーは、何といってもこの濃厚な深みのある味わいが特徴です。

ミルクに負けないしっかりとしたコクのため、ミルクティーとして楽しまれることが多いですね。


ですが、もしよろしければ、まずはストレートで召し上がってみてください。

茶葉の力強く豊かな風味を、感じていただきたいのです。


おや、気に入ってくださいましたか。

まったく……。貴女は本当に、素直で素敵な方ですね。

ふふふ、いえ。失礼いたしました。


ストレートな茶葉の味をお楽しみいただいたら、お好みに応じてミルクもどうぞ。甘さをお望みでしたら、蜂蜜もご用意しておりますよ。

アカシア蜂蜜に、オレンジの蜂蜜、クローバーもございます。さて、どれにいたしましょうか……。


はい。ではどうぞ。

よくかき混ぜて、お召し上がりくださいね。


ミルクや蜂蜜のやさしさに負けず、しっかりとした味わいで、すべてを包み込めるような――そんな存在に、私もなりたかったものです。


さあ、今夜はもう、お帰りなさい。

ここが、貴女の居場所になってしまってはいけませんから。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る