第25話 足湯でほっこり


いらっしゃいませ。……おっと、大丈夫ですか?

ああ、原因はこの靴ですか。今日も一日頑張って、足が疲れてしまわれたのですね。

では、私につかまって。貴女の望むお席まで、エスコートさせてください。


女性の靴というのは、オシャレなものが多いですね。

高いヒールや、装飾具。時には機能性よりもデザイン性を重視して、見ているほうまで楽しくなるものです。


足元まで身だしなみに気を遣われるのは、とても大切なことですが……実際に履いていらっしゃると、そんなに楽なものではないのですよね?

こんな窮屈なところにずっと押し込められていては、貴女の愛らしい足指たちが可哀そうです。

せめて今だけ、私がこの手で解放してさしあげたい。


え、良いのですか? そんなに可愛らしくお願いされたら、靴だけでは済まなくなってしまいそうですよ。

貴女の素肌を覆う薄布を、取り去ってしまいたくなります。


さあ、ストッキングも脱げましたよ。

それでは、こちらへどうぞ。



40℃の足湯です。熱くはないですか?

ではそのまま、ゆっくりと両足を浸けてください。そう、ゆっくりでいいですよ。

ローズマリーのアロマオイルを入れております。スッキリとして良い香りでしょう?

おや、ペディキュアをされているのですね。貴女らしい、美しい色です。


温まってきたら、私がマッサージをしてさしあげましょう。片足をこちらへ出して。恥ずかしがることはないですよ。私にお任せください。

貴女の足は、小さくてとても可愛らしいですね。

そんなことない、ですって?

いいえ。私のこの大きな革靴をご覧なさい。貴女が履いたら、ブカブカですぐに脱げてしまいそうではありませんか?


こんなに小さな足で毎日立って、貴女の道を歩いていらっしゃる。

それだけでも私は、尊敬の念に堪えません。


だから、さあ、今だけは。

私の手で、大切に慈しんでさしあげたいのです。

それとも……私などが、触れることは許されないでしょうか。



そうですか。許してくださいますか。ではどうぞこちらへ。さあ、さあ。

タオルでそっと優しく拭いて、それからマッサージオイルを塗ってさしあげましょう。ああ、指先がこんなにも固くなっている。


指と指との間。ここは、靴先に押し込められて、特に固まりやすいですからね。少し力をかけて、グッと押し広げていきますよ。

大丈夫、痛くないようにしますから。

爪の両脇や足指の関節の、固くなっているところも揉みほぐしてあげると気持ち良いでしょう?


足裏は、握りこぶしで少し強めにこすっていきますね。

貴女の軽やかな体重とはいえ、ずっと支えてくれているのですから、疲れて固くなってしまっているはず。しっかりとほぐしてあげましょう。

それから、私の親指の先端を、貴女の足裏のくぼみにあてがって。ゆっくりと押し込んでいきます。

力を抜いてください。

いきますよ。


……どうです? 私の指先は、貴女の気持ち良い場所に当たっていますか?

もう少し、奥まで入れてみましょうか。

ほら、こうやって。

ふふふ、そんなに気持ち良かったですか?

いいのですよ。素直に声や表情に出してくださったほうが、私も嬉しいのです。


では、まあるい踵も私の手のひらで包んで、優しく揉んであげましょう。

硬く突き出たくるぶしの際まで、指先でそっと刺激して。

それから、側面もなぞっていきますよ。踵から親指へ、踵から小指へ。

さあ、これで固く強張っていた足裏も、ずいぶん血行が良くなったはずです。

おや、全身の血の巡りも良くなってきたようですね。ほんのり赤みを増した頬が、ますます可愛らしい。


次は足の甲です。こちらはあまり力を入れず、丸めた指の関節を使って、サラサラと撫でてあげましょう。

サラサラ、サラサラと。足首のきわまでいきます。



ああ、ふくらはぎがパンパンに張っている。可哀そうに、こんなに頑張っていたのですね。

手のひらで温めながら、丁寧に下から揉みほぐしていきましょう。

私の手、温かいですか? 熱を帯びているのは、貴女のせいですよ。


膝の裏にはリンパ節があって、ここが滞ると足の疲れやむくみにつながります。

失礼。ちょっと痛かったですか? かなり溜まっているようですね。

老廃物が溜まっていると、軽く触れただけで痛みを感じることもあります。そんな時は温めるだけでも効果がありますので、日々のケアで少しずつ、詰まりを取ってあげましょう。


強く揉んだり押さえつけたりするのは、やめてくださいね。貴女が思っている以上に、貴女は繊細な人なのですから。

このように。そぉっと、優しく、愛撫するように。

最後は足首から膝まで、骨の際に沿って流していきましょう。

ああ。貴女の肌は、なんてなめらかで触り心地が良いのでしょう。

本当はこのまま、足のつけ根の鼠径部まで、ほぐして流してあげるのが良いのですが……私がそれをするわけにもいきませんので。


それでは、一度こちらに立ってみていただけますか?

足のオイルは拭き取りましたが、危ないですから私につかまって。ゆっくりと立ち上がってくださいね。

どうです? 足がスッキリと軽くなって、足裏全体に均等に体重がかかっているように感じませんか?



では、反対側もやっていきましょう。

ほぐし終えたほうの足も、冷えてしまわないように足湯の中に戻しておきましょう。

お湯は冷めてしまっていませんか? ぬるかったら足しますので、遠慮なくお申し付けください。


ゆっくりお風呂に入る時間がない日でも、10分ほどの足湯をするだけで、全身が温まりますよ。

冷えやむくみの改善、疲労回復、それに寝つきも良くなります。

香りの良いアロマオイルをほんの少し垂らせば、さらにリラックス効果も高まります。ラベンダーやゼラニウムなども良いですね。2,3滴で十分ですので、入れすぎにはご注意ください。


十分に温まった後は、濡れたままでは冷えてしまうのでよく拭き取って。それから保湿もしてあげてください。

オイルかクリームを塗って、このようにマッサージをしてあげるのも良いですよ。ただし、足裏に塗りすぎて滑ってしまわないようお気を付けくださいね。


足は、第二の心臓と言われます。

重力で下に溜まった血液やリンパを押し戻す力が足りないと、全身の巡りが滞って、怠さや不調につながってしまいます。

忙しい貴女に「毎日」というのは酷でしょうが……余裕のある時、気づいた時だけでも構いません。いつも頑張ってくれているこの足を、時々は労ってあげてください。

毎日でなくても、いっとき気にかけてあげるだけでも、何もしないよりはずっと良いのです。

そうすればきっと、明日の貴女は、今日よりさらに魅力的になっているから。


さあ、マッサージは終わりましたよ。

それでは仕上げに、こちらをお飲みください。

全身の様々な不調を改善する、魔法の薬――エリクシール、とでも申しておきましょうか。

ふふふ、気づいてしまわれましたか。ええ、ただのぬるま湯です。

マッサージで老廃物を流れやすくした後は、さらに排出を促すために水分をとっておくと良いですよ。



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