第24話 自分ばかり頑張っている
おや、どうされたのです? 溜息なんてついて。
せっかくなら、もっと甘い溜息をお聞きかせ願いたいものですね。
ふふふ、すみません。
それで? よろしければ、私に話してくださいませんか。
え? 自分ばかりが頑張っている気がする……?
同僚はラクな仕事ばかりをしているのに、周囲には認められていて。自分には大変な仕事ばかり回って来るけれど、全然評価してもらえない。
それは確かに、理不尽で、悲しいことですね。貴女はこんなに頑張っているのに、報われないなんて……。
はぁ、羨ましいものです。貴女に、それほどまで気にかけていただいているその同僚の方が。
おっと、これはいけない。嫉妬なんて醜い感情でした。貴女の前でお見せするなんて。
嫉妬するくらいなら、もっと己を磨いて、振り向いていただけるようにしなければ……。
ああ、いえ、こちらの話です。どうぞお気になさらないでください。
えっと、それで……ああ、そうそう、貴女がいつもその方のことばかり見ている、というお話でしたね。
え、だってそうでしょう?
貴女はいつものその方のことが気になっていて、いつもその方のことを見ている。
だからご自身とその方を比較できるのです。
そんなつもりがないというのなら、もうよそ見はおやめなさい。
貴女にとっても、私にとっても、気分の良いものではありません。
見ている人は、見ているものです。
常には見ていなくても、見ていないところでも頑張っているかどうか、わかったりします。
見える人には、見えるのです。
それがわからず、表面的なところでしか判断できない人なら、長い目で見ればそんな人の評価は貴女にとって重要ではないでしょう。
それにもし、誰も見ていなくて、誰も評価してくれないとしても。
私はいつも見ていますよ、貴女の頑張りを。
おや、それではご不満ですか? 仕方ないですね。
しかし、貴女のことを見ているのは、私だけではありませんよ。
少なくとも、もう一人います。
おやおや、どなたの顔を思い浮かべていらっしゃるのですか? 困った方だ。
いつも貴女を見ているもう一人とは、貴女自身のことですよ。
貴女のすること考えること、すべて貴女自身には筒抜けです。
他の人が見ていないから、ちょっと手を抜いてしまおう――それで貴女の良心が痛まないなら、貴女が満足なら、別に構わないではないですか。
けれどそうではないから、こうして悩んでいらっしゃるのでしょう?
だったら、簡単なことです。
貴女は貴女自身のために頑張ればいい。人よりも頑張っているとか、誰も頑張りを見てくれないとか、他人を基準にする必要なんてないのでは?
己のうちを顧みたとき、貴女自身がどうありたいか。それが貴女の基準です。
「頑張っている自分」と「頑張らない自分」、貴女はどちらがお好きですか? 他人の意見や評価より、そっちのほうが大事です。
どうか、貴女らしさを失わないで。
「陰徳」というのは、とても美しいものではありませんか。それは必ず、人の心を強くすると思うのです。
さあ、頑張り屋さんの貴女に本日は、こちらのハーブティーをご用意いたしました。リラックスや疲労回復で知られる、カモミールとラベンダーのブレンドです。
そこにバニラのフレーバーも添えて。
いかがです? やさしく癒される香りではありませんか。
そうそう、ご存知でしたか? このカモミール、日本語では「カミツレ」とも呼ばれますが、それは誤読が由来なのだとか。
オランダ語名の「kamille」を「加蜜列」などと当て字をしたのが始まりだそうですよ。
名前は誤読されても、その実力は変わりません。日本でも広く普及して、今や人気のハーブです。
ちなみにカモミールの花言葉は「逆境に立ち向かう」。
こんなに愛らしい花を咲かせ、リラックス効果の高いハーブなのに、ずいぶんと健気で芯の強いことですね。
こちらを飲んで、ゆっくりひと息ついてみませんか?
大丈夫、貴女だって、そんな強さを秘めていらっしゃるのですから。
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