第26話 シンプルで丁寧な暮らしを


暑い日が続いたり、雨が降ったりと、難しいお天気ですね。

お疲れは出ていませんか?


本日は、ルイボスティーなどいかがでしょう。

ルイボスティーは麦茶と同様に、カフェインを含まずミネラル豊富な飲み物です。暑い時期の水分補給にも良いですね。



そうそう、この前の休日は、お家のお掃除を予定されていたとか。いかがでしたか? 少しでも、居心地よくなりましたか?

……おや、これは聞かないほうが良かったでしょうか。そんなに悲しそうな顔をなさらないでください。

え? あまりはかどらなかった、ですって?


なるほど、モノを減らそうとしたけれど、なかなか捨てられなかったと……。

ええ、わかります。

いざ捨てようと思うと、どれも大切で必要なものに思えて、なかなか踏み切れないんですよね。


それでは、貴女にとって本当に大切なものは何でしょう? 忙しい毎日の中で、それが埋もれていってはいませんか。

贅沢を求めればキリがありませんが、生活する上で必要なものは、案外そう多くはないものですよ。


では、貴女の家の中を想像してみてください。

モノが多すぎて散らかっている? それは困りましたね。いつ私が訪ねても良いようにしておいてくださいね。


もしも今日、家に帰った時に大地震が来たら、貴女はそこから何を持って逃げますか?

それが、貴女にとって最低限必要なものです。

必要なものをすぐに選べなかったのなら、さらに問題ですね。地震なんて、空想の話ではないでしょう?


あるいは急な病気や怪我で入院しなければならなくなったとき、身内の不幸で遠方に駆け付けなければならなくなったとき……どれも起こってほしくはないことですが、そういう時こそ、冷静に考えている余裕なんてありません。


選べないのは、余計なモノが増えすぎているのも原因の一つです。


では地震で家が半壊して、しばらく避難所に身を寄せなければならなくなったら?

あるいは……そうですね、私との駆け落ちでも良いですよ。

手と手を取り合って、カバンひとつで知らない場所へ旅立つとしたら。貴女はそこに何を詰めますか?


移り住んだ先で落ち着いたら、一度こっそりと家に帰って、もう少し荷物を持って行きましょうか。

お気に入りの洋服に、お出かけ用の帽子。何度も読み返した本。

おっと、そんなにたくさんは持って行けませんよ。

おや、ベッドカバーは二人で一緒に選んだものがあるでしょう?

この柄が好きだから、洗濯の時の予備にするって? しかしそれでは、サイズが合いませんよ。


最後まで選ばれなかったモノたちは、貴女のお家でいったい何をしているのでしょう。

すぐには要らないけど、大切なモノ?

いつか使うかもしれないから、取っておく?


消耗品でない限り、モノには寿命がないと思われがちですが……。

生活スタイルや好みは変化します。そうして必要とされなくなったとき、それは役目を終えているのです。

貴女の家に住み着いて、ただスペースを食い潰してしまう――そんな「老害」にしてしまっているモノはありませんか?


もちろん、何でも捨ててしまえば良いということではありません。

残しておくべきかどうか、モノとじっくり向き合う時間も大切です。

お部屋の中を隅々まで確認してみてください。一年、あるいはそれ以上の長い時間、一度も手にしたことのないモノはありませんか?


モノを大切にする優しさは、貴女の良いところですが……。そのまま埃を被っていたり、目の届かない引き出しの奥に仕舞い込まれていたりしては、可哀そうではありませんか。

大切なものこそ、きちんと思い出として昇華させてあげてはどうでしょう?



新しくモノを買う時は、貴女とそのモノの未来を想像してください。

絶対に必要だと思って買ったはずなのに、今はもう眠ってしまっているモノはありませんか?

かわいいから、オシャレだからというだけで、安易にモノを増やして、結局好みが変わってしまったことはありませんか?


モノを買うというのは、動物を飼うことほど大変ではありませんが、それでもモノには命が宿るのです。

その命を引き受ける覚悟はありますか?

それが役目を終える日まで、大切に使い続けてあげられますか。そういう未来が思い描けますか。


おや、少し大げさになってしまいましたね。すみません。

けれど私は、貴女には本当に良いモノを見極める力があると信じていますよ。

だって、この店を見つけてくださったのですから。


貴女もその力を信じて。余計なモノに惑わされないようにしてください。

この世はとかく、誘惑が多い。私の大切な貴女が、つまらぬものに心を奪われてしまうなんて、哀しいことです。



モノに余計なお金や時間をかけなくて済むようになったら、今度は食べるものに気を遣ってください。

貴女は、貴女の食べたものでできています。

いつか貴女がこの店に来なくなってしまっても、私の目の届かないところへ行ってしまっても……。貴女には、元気で笑っていてほしいですから。


あとは、そうですね、日々の暮らしに必要な最低限のモノには、逆にこだわりを持って。

例えば、毎日貴女のお肌に触れるタオル。柄だけでなく、上質の素材で、触れて気持ち良いと思えるものをお選びください。

あるいは、調理器具。材質や表面加工の粗悪なものだと、日々少しずつ貴女の体を毒しています。


余計な物事を手放して、日々の暮らしの一つ一つを丁寧に。

周囲の雑音に惑わされず、自分自身の本当の声に耳を傾けて。

ただ持ち物を減らすことではなく、生活スタイルやものの考え方自体が洗練され、シンプルな暮らしやすさに繋がることが重要なのです。



え? もしも今、地震が来たら、私は何を持って逃げるのかですって?

それはもちろん、一番大切な――貴女を連れて行きますよ。

さあ、この手を取って、私と一緒に来てくださいますか。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る