第20話 立てば芍薬


ジンジャー・ティーのおかわりはいかがでしょう?

はい、それではお注ぎいたしますね。


生姜は体を温め、冷え性に効くものとして有名ですよね。

これからの時期も冷房などで意外とお体が冷えてしまうことがありますので、ぜひご活用ください。

「冷えは万病の元」と申しますから。


生姜は免疫力や新陳代謝アップ、胃腸を整えたり、美肌やアンチエイジングなどの効果も報告されていますよ。

そうそう、冷え性対策には、生のままではなく加熱したものをお使いください。



ああ、先ほどよりも疲れが取れてきたようですね。良かった。

こちらへ入って来られたときは、まるで頭に漬物石でも乗っかっているかのように、グッタリとされていましたから。

ふふふ、これは失礼。


けれど姿勢が悪いのも、疲れやすい原因ですよ。

そちらをお飲みになったら、一度正しい姿勢を確認してみましょうか。

ええ、私にお任せください。




ほら、立って。

まずは、ブラブラ~っと、力を抜いてみましょう。膝も軽く曲げて。

そうしたら今度は、頭のてっぺんから糸で吊るされたマリオネットのように、すぅっと伸びていきましょう。

さあ、私の可愛いお人形さん。私の手の中で踊ってください。


頭の先から足先まで、ピンと引っ張られるように。

それが限界ですか? もう少し、糸を引き上げてみましょう。

そうそう、お上手です。


おや、少し肩が上がってしまっていますね。

私を目の前にして、緊張されているのですか? ふふふ、嬉しいですね。

鎖骨を開いて、肩はぐるりと後ろに回し下げておきましょう。横から見たときに、肩が耳より前に出てしまわないように。


おっと、今度は肋骨ろっこつが前に飛び出してきましたね。そのぶん、普段から閉じ切れていなかったのですよ。

猫背や巻き肩になると、肋骨(あばら骨)が内側に押し込まれ、肺のスペースが圧迫されて狭くなります。

日頃から意識的に胸を開いて、呼吸を通しやすくしておきましょう。


それから、腰は反りすぎないように。貴女が腰を痛めてしまっては大変です。

胸を張って腰を反らせると、一見姿勢が良いようですが、実際には腰に大きな負担がかかっています。

お尻を高く突き上げてみたところで、ヒップアップにはなりません。筋肉で引き上げなければ、上に乗っかっているだけの脂肪は重力に従ってまた落ちていきますから。


反り腰は、骨盤が前に傾いてしまっている状態です。

そうすると、その上にある貴女の大切な臓器たちが、前にずり下がっていきます。お腹の筋肉は緩み、逆に腰の筋肉は働きすぎて、腰痛の原因になってしまいます。

上体の重心も前にずれてしまうので、支えようとして前腿が頑張ります。

それほど太っていないのに下腹部だけが出ているとか、前腿が張って太くなってしまうというのは、これが原因の可能性があります。


では、確かめてみましょう。

こうして、壁際に立った時に……え? 壁ドン、ですか?

いえいえ、そんな野蛮なことはしませんよ。

そぉっと壁際に追いつめて、逃れられないようにして、戸惑う貴女の可愛らしい反応を楽しませていただいているだけです。

ふふふ。期待以上の反応を見せてくださるのですね。

ほら、そんなに俯いていないで。貴女のお顔を、私にもっとよく見せてください。


こうして頭と、背中と、お尻と、かかと。ぴったり壁にくっつけて。

この時に腰と壁の隙間が、手のひら二枚ぶんすっぽり入るくらいだと、反り腰になっています。

では、私のを入れてみても良いですか?

大丈夫。優しくしますから。

いきますよ。


私のはちょっと大きいですから、こうして余裕で入るくらいだと、腰が反ってしまっている証拠です。

おや? そんなに赤くなってしまって。どうされたのです?

私に腰を抱かれて、恥ずかしがっていらっしゃるのですか? 可愛い人だ。


では、下腹部に力を込めて、腰と壁の隙間を埋めてみましょう。

そうです、私の手を押し潰すつもりで。

ああ、貴女のしなやかな腰の感触。心地好いですね。

ふふふ、失礼。つい本音が漏れてしまいました。


前に傾斜した骨盤を引き起こすように、おへそを少し上向かせましょう。お尻はキュッと内側に押し込むようなイメージで。

そう、お上手です。


やりすぎて、背中が丸まってしまってはいけませんよ。

そうです。忘れないで、貴女は私の糸に吊るされているのですから。

私の可愛いお人形さん。

貴女は私の最高傑作だ。



おっと、疲れてしまいましたか?

疲れたなら、私にもたれかかってくださっても良いのですよ。

正しい姿勢をとって疲れてしまうのは、姿勢を保持するだけの筋力が足りないのです。

日頃から正しい姿勢を意識をすることで、使わなくなってしまった筋肉を呼び起こし、全身の代謝が上がり、体の歪みも整えられます。


だから、そう、いつだって。私のこの手に、背中を預けてくださって良いのです。

私がいつでもこうやって、貴女の腰を支えていますから。

ピンと張った私の糸で、貴女の体の中心に芯を通してあげましょう。

芯の通った立ち姿というのは、それだけで美しいものですよ。



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