第12話 雨も良いもの

 

いらっしゃいませ。

ああ、来てくださったのですね。良かった。

そろそろ足が遠のいてしまわれるのではないかと、案じていたのです。杞憂きゆうだったようですね。


なぜって? ここは【雨夜の止まり木】ですから。

雨が遠のけば、自然と――おや、お気づきでなかったのですか? 穀雨はすでに終わったのですよ。


穀雨こくう」は二十四節季の一つで、春の終わり、穀物を潤す恵みの雨が降る時期です。

雨が続けばなんとなく憂鬱になったりするものですが、豊かな実りのためには、雨も必要なのですね。


これを過ぎると「立夏」。夏の始まりです。

しかしまあ、そのご様子では、貴女にはいま少し恵みの雨が必要なようですね。

いいのですよ。たくさん降らせなさい。

その雨が、貴女の心を強くするのです。

「雨降って地固まる」と申しますでしょう?



せっかくですから本日は、爽やかな緑茶で初夏を感じてみませんか。


茶摘みで知られる八十八夜は「立春」から数えて88日目。年によって変わりますが、だいたい5月1日か2日にあたります。

実際の収穫はもう少し早い時期から始まるようですが、一年で最初の収穫期であるこの頃に摘まれた「新茶」は縁起物ともされています。


貴女の健康と幸福を願って、そんな新茶のうまみを丁寧に引き出してさしあげましょう。

貴女の雨もいつか晴れ、明るい光がさしますように。

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