第10話 いつやめるの?(1)


今日はずいぶんと長い間、画面に夢中になっていらっしゃったようですね。

ええ、わかりますよ、そのお顔を見れば。


窓際の席に腰掛けて、ぼうっと遠い雨空を眺めているときの、アンニュイな貴女の横顔は大変魅力的ですが……、しかし今は、何と申しますか。

目つきが、その、ちょっとキツイです。


すみません、言い方があまり良くなかったでしょうか? 日本語は難しいですね。

では、もう少しわかりやすく……。

長時間、近い距離で、明るい光を発する画面を見続けていたために、視線は鋭く、瞳は乾いて、充血し、疲労感と悲壮感が漂っている、とでも申しましょうか。


貴女の目は、貴女が意識していなくても常にピントと、目に入る光の量を調整してくれています。

パソコン、スマートフォン、テレビなどの画面は、それ自体が光を発するために光量を調整するのが大変です。

至近距離に焦点を合わせ続けていると、目の周囲の筋肉は緊張しっぱなしで疲れてしまいます。

画面を見続けている間はまばたきの回数が減りやすく、目が乾いてしまいます。



そんな貴女に本日は、柚子茶をご用意いたしましょう。

柚子はレモンと同様、クエン酸を豊富に含み、疲労回復に良いですよ。

香りも癒されるでしょう? 柚子はアロマとしても、優れていますからね。特に日本人の方には「ほっこりする」香りではないでしょうか。


ベリー類などの、目に良い食べ物・飲み物もありますが、しかしそれよりも大切なのは、まず目を休ませてあげることです。

さあ、温かい飲み物でほっとひと息ついたら、目を閉じて、5分ほどゆっくりお休みください。

私のことはお構いなく。こちらで待っておりますから。

ちゃんと目を休ませてあげたら、それからまた、お話いたしましょう。




画面に夢中になっている間は目の疲れに気づきにくいものですが、貴女の目は日頃から頑張りすぎています。ちゃんと労ってあげてくださいね。

お仕事などでパソコン作業をされるときでも、できれば1時間ごとに5~10分程度の休憩をとって、「近くを見ない」時間を設けると良いですよ。


現代社会というのは、どうしても目を酷使しがちです。眠っている間に目を休めても、とても回復しきれません。

そのまま進行してしまうと、目の疲れや乾燥だけでなく、頭痛、肩こり、めまい、吐気、そして慢性的な疲労へと発展してしまいます。


そうなってからでは、遅いのです。

人間は情報の多くを視覚に頼っています。目に慢性的な疲労を抱え、視力が満足に機能しない状態で毎日を過ごすのは大変なことです。



しかし、まあ、お気持ちはわかります。

何事も「始めるとき」と「終わるとき」が大変なんですよね。面倒くさいと思っていたことでも、一旦始めてしまえば、続けるのはわりと楽。

「もうちょっと」「あと少しだけ」などと思っているうちに、延びて延びて、いつの間にかこんな時間……。よくあることですよね。

「慣性の法則」という、自然の理にかなったことです。


長時間画面を見つめるのが良くないことは、もちろんですが、貴女にとってメリットになること――例えば運動や勉強でも、長時間続けるとどうしても効率は下がってしまいます。


ですから、日常のどんなことも「いつやめるか」を決めてから始めると良いですよ。

テレビは家に帰って来てただ何となくつけるのではなく、「1時間だけ」「2番組だけ」など、終わりを決めてから見始めるとか。

読書なら「今日はこの章の終わりまで」とか。


これが自分でコントロールできないのはお子様です。よく、親が子供に対して「テレビを見るなら1時間だけね」とか「ゲームは宿題を終えてから、30分だけ」なんて言うでしょう?


テレビなら、録画機能やオンデマンド配信を利用すると自分の好きな時間に見られるので、スケジュールを決めてコントロールしやすいのではないでしょうか。


ゲームというものは、終わるタイミングを決めにくいものですね。

特にオンラインゲームなどは、他のプレーヤーがいる手前、やめようと思っても途中で打ち切りにくいでしょう。

でも、時間を決めてあっさり中断できる人ほど、カッコいいと思いませんか?

その良さをわからない相手は、中毒(=病気)ですから、気にしなくてよろしい。


ゲームと並んで、終わる時間を決めにくいのが、パソコンやスマートフォンではないでしょうか。

「ネットサーフィン」という言葉があるように、クリック一つで次から次へと新しい波に乗って、たくさんの情報を得た気になってしまうのですよね。


特にスマートフォンは手軽に操作できるので、気付けば何時間もいじっていた……なんてことになりがちです。

しかし、日々一生懸命に画面をのぞき込んだ結果、どれほどのものを得て、そのうちどれくらいが本当に貴女の役に立っているのでしょうか。


例えば通勤時間が1時間なら、その1時間だけをスマートフォンを見る時間にする、というのはどうでしょう?

まずメッセージやSNSをチェックして、余った時間でニュースをチェックし、それから気になっていたことを調べる。

それ以外の時間は、気になること・調べたいことを思いついても、スマートフォンのメモなどに残しておいて、翌朝、または帰りの時間に調べるのです。


時間を決めてやることで、効率的になるし情報も頭に入りやすいですよ。調べたいことがいろいろあっても、一旦整理することで優先順位をつけられます。

「気がついたら長時間スマホを触っていた」なんていう時、見ていた情報を全部覚えていますか?


通勤時間なら、電車やバスがついたら強制終了なので、やめる時間がはっきりとわかりやすいですよね。

帰宅後でも、夕食や入浴の時間を習慣化して、その時間になったら絶対にやめると決めておけば、長時間の使用を避けられるばかりでなく、生活習慣が整います。

生活の質・睡眠の質も向上しますよ。


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