第9話 日々に彩りを
いらっしゃいませ。
ああ、そちら。お気づきくださいましたか。
スズランが可憐な花を咲かせていたので、お店に飾ってみました。
5月1日は、スズランの日ですから。
可愛らしいでしょう。
花言葉は「純粋」、そして「再び幸せが訪れる」。
気に入ってくださったのなら、差し上げましょう。
貴女にこそ贈りたい花です。
白い小さな花を、点々とつけるスズラン。
葉陰に隠れてひっそりと咲くいじらしい姿から「君影草」とも呼ばれます。
男性の後ろで控えめに振舞う、楚々とした女性のイメージですね。まあ、少々時代錯誤かもしれませんが。
けれどその愛らしい花には、毒があるからお気をつけて。
生活空間に花を飾るというのは良いものですよ。忙しい日々の中にこそ、取り入れたいものです。
まずは小さなものから、一輪挿しも良いですね。花瓶を用意しなくても、コップや空き瓶でも構いません。
植物をお世話するのが難しいようでしたら、写真やポストカードを飾ってみるのはいかがでしょう?
春には桜を、初夏には藤を。そして、紫陽花、睡蓮、向日葵など……季節に合わせた花で、貴女の日常を彩ってみては。
あるいは、貴女の気分に合わせても良いですね。
嫌なことがあったときは、虹の写真を飾ってみませんか? 心の雨もやがては止むと信じて。
嬉しいことがあったときは、黄色い花束で思い切り喜びを表現してみましょう。
イライラしがちなときは陽だまりや清流、寂しいときにはテディベアや小さな動物の写真などはいかがでしょう。
今の気分に合った写真を選ぶ作業は、忙しくてなかなか構ってあげられない自分自身の心と向き合うことにもなります。
おや、「花を飾る」ということから、話が逸れてしまいましたね。
大切なのは、花や写真を飾るという、心のゆとりを持つこと。そして、日常に変化をつけることです。
家の中や、部屋の中に、目を向けてみてください。
散らかったり片付いたりしながらも、数週間前や数か月前と、さして代り映えのない生活空間で過ごしてはいませんか?
忙しい日々に流されて、気付けば月日が経っていた――そんな浦島太郎さんはぜひ、お住いの竜宮城に周期的な移ろいを取り入れてください。
花を飾り、花を愛で、やがて枯れ、そしてまた新しい花を選ぶ。そのサイクルの中で、貴女はたしかに時間の流れを感じ取れるはずです。
写真やポストカードでも、目に映るとき、それを選んだ時のことや飾っていた期間に、思いを馳せることでしょう。
「これに替えてから、もう二週間になるのか」
「これの前は……星空の写真を飾ったっけ」
そしてまた、新しいものを選ぶとき、貴女はご自分の現在地を確認して、新たな時を刻むのです。
さて、それでは本日は、このティーポットにも花を咲かせてご覧にいれましょう。
茶葉を糸で束ねた「工芸茶」です。
こうしてお湯を注ぐと、茶葉が徐々にほぐれて、ほら、花が開くようでしょう?
そうして出来上がるのは、華やかな香りのジャスミン・ティー。
こちらのお茶を飲みながら、貴女も私と一緒に、花を咲かせてみませんか?
難しいことはありません。私と楽しくおしゃべりするだけですよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます