第2話 出会いのダージリン・ティー

では本日は、この特別な出会いを祝して。

とっておきのダージリン・ティーを貴女のためにお淹れしましょう。


美しく輝く琥珀色。

気品溢れる芳醇な香り。

いかがです?


優雅にして繊細な装いは、まるで英国紳士のよう。

さあ、どうぞ。



まずは紅茶の香りを、胸いっぱいに吸い込んで。

おや、その胸では、たくさんは吸い込めないようですね。


え? いえいえ、サイズの話ではありませんよ。

その胸の中には、たくさんの感情が澱んでいるでしょう?

不安、葛藤、孤独、渇望、自責、後悔、焦燥……。ずいぶんたくさん、溜め込んでいらっしゃるようだ。

そんなだから、新鮮な空気をたくさん取り入れることができないのですよ。


では、もう一度鼻からゆっくりと息を吸って。ふぅっと口から吐いてください。

溜息と共に、胸に溜まっているモヤモヤも、すべて吐き出してしまいましょう。

おや、それだけですか? まだまだ残っていますよ。

そうです。もっともっと吐いて。

まだ出るはずです。


この世はとかく悪臭に満ちて、人は深呼吸することを忘れがちです。

吸うこともそうですが、特に吐ききることができなくなります。

気づかぬうちに呼吸は浅くなり、それでは窒息してしまう。

息がしにくく、生きにくい。


だから、さあ、もう一度。

ティーカップから立ち上る香気を、胸いっぱいに吸い込んで。

どうです? さっきよりももっと、鮮明に香りを感じるでしょう?

紅茶の香りに満たされて、細胞一つ一つにまで、染みわたっていくでしょう。


ではまた、しっかりと息を吐いてください。

そう、すべて出し切ってしまうのです。

いいえ、まだ残っているでしょう?

もっと、もっと。全部です。

まだまだ、もっと。

最後まで。


おっと、カップの中に、何か転がり落ちたようですね。

ああ、「悩みの種」ですか。

では紅茶と一緒に、飲み込んでおしまいなさい。

大丈夫。胃液で溶けて消化され、体の中で芽吹くことはありませんから。


さあ、冷めないうちに召し上がれ。

一口含めば、様々な味覚のハーモニーが貴女の舌の上で奏でられることでしょう。

酸味、苦味、渋味……それぞれ単体では不快な味になってしまいがちですが、しかし繊細なバランスで共鳴し、織り合わされて、かくも複雑で奥行きのある味わいを創り出すのです。

その奥に、ほのかな甘味が潜んでいるのが、わかりますか?


どれかが出すぎてはいけません。しかし、どれが欠けてもいけません。

すべてが揃って、調和して。

そうして初めて完成する。

そんな紅茶の味わいは、とても美しいものだと、私は思うのです。

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