第6話

美羽と西村さんは2人でファミレスに来ていた。

ファミレスには、若い男女が何人かいた。

兄弟か、友達か、カップルか、美羽にはわからない。

ただ、皆やけに楽しそうで眩しい。

皆オシャレをして、ははッと笑ったり、楽しそうだ。


西村さんは緊張している様子だ。

「バイトは慣れてきた?」「いつからやってるの?」などと質問してくるのだが、なぜか美羽はだんだん眠たくなってきた。

どうして来てしまったのだろう。

あまり仲良くない異性と食事に来てもあまり楽しくないということを美羽は知った。

これなら、大石さんと来た方がよっぽど楽しかった。

そもそも、なぜ男女で、くっつこうとするのだろうか。

男は男と、女は女と一緒にいる方がまだ良い。

そのほうが気持ちが分かり合える。

すれ違いで喧嘩したり、傷ついたりすることもきっと無いだろう。

これから仲良くなっていけば良いではないか、という考えは美羽の中に無かった。

西村さんと仲良くなりたいと思わないのだ。

コンビニの深夜バイトをしている人とは仲良くなりたいと思わない。


西村さんは美羽が考えていることに気づかず、自己紹介のようなことを始めた。

「僕は、半年くらい前に、深夜で入り始めたんだけど。深夜の方が給料が良いし、それに、ラクそうだな、って思って。ほら、僕、昼間より夜のほうが得意だし。まあ、そんな感じなんだけど。」

西村さんは照れている。


美羽は西村さんとこのまま関係が続いてしまったらどうしよう。このままいったら、次のデートはとか言われそうだ。と思った。


あの、私、いま、彼氏とかそういうの作る気分じゃないんです。


前の人と別れたばかりで。


「そんな人忘れなよ。」

「あ、それ、前の人もいってました。全く同じセリフ。」

「あ・・・笑」


ここで西村さんと仲良くなったら、また前と同じことになる、美羽はそんな気がした。

同じこと、というのは。

また、仲良くなってきたところで、音信不通になることだ。

こうやって、私も浮かれてオシャレして、出掛けたりしていたのだ。

ちょっと前まで。

でも、そうやって何回2人で会っても、いろんなお話をしても。

相手のことを知っていっても。

そうやって仲良くなっても。

音信不通になるのなら、何の意味があったのだろう。

あの時間はなんだったのだろう。

信頼関係を築いても、どこかに消えちゃうなら、ただ空しいだけだ。


たのしそうに話す男女を見て思う。

そう、バカバカしいのだ、こんなことをしても。

だってきっと西村さんとは続かない。

だって美羽自身がこんなにもデートにやる気がないのだもの。

こんな訳の分からないことをして過ごすくらいなら、まだバイトをしている方が良い。

アルバイトは裏切らない。

バイトをしたらするだけ経験になるし、賃金が出る。

お店のため、お客様のために働くことは社会にも役立っている。


「ご馳走様でした。ありがとうございました。」

「なんか業務的だなあ。ははは。」


帰り際。

「あ、私、コーヒーよりも、コーンポタージュのほうが好きなんです。」

「?」

「いつもくれるじゃないですか。」

「ああ・・・笑。分かった。次差し入れするときはコーンポタージュにするよ。」

と言った。

美羽は、その言葉の感じにん?と思った。

差し入れしていたのは西村さんからではなかったか。

それが、いまはそんなにノリ気ではないように見える。

むしろ、美羽が差し入れしてほしくて頼んでいるみたいになっている。

次のお出かけがなくなったからへこんでいるのだろうか、だめなら、もういい、という考えなのだろうか。

もう差し入れはなるべくしたくない、という考えなのだろうか。

やはり、男の人が考えていることって分からないなあ。と美羽は思った。


西村さんは「じゃ、今日はありがとね。」と、また、煮え切らないような微妙な表情で言った。

美羽は「ありがとうございました!」と答えた。バイトの時のような伸びやかな声が出た。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

コンビニエンスファイター 甘夏みかん @na_tsumi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ