第2話

お客さんがレジに商品を持ってきたので、対応する。

50代くらいのおばさんだ。

急いでいるように見える。


「いらっしゃいませ。」


見ると、ペットボトルが一つ、サンドイッチが一つ、置いてある。


ピッ。

ピッ。


バーコードを読み取り、客層キーを押す。


客層キーを押したら、店員の仕事は終わりだ。

あとの会計はお客さんが勝手にやってくれる。

レジの横に置いてある会計用の機械をお客さんが操作するため、店員は終わるのを待っていれば良いのだった。

おばさんは慌ただしい様子でお札を機械の中に入れ始めた。


美羽はそれを見ながら、良かった、とほっとした。


朝は通勤途中でコンビニによる人が多い。

そのため急いでいるお客さんが多いのだ。


たまにお客さんに「急いでもらえますか。」と言われることがある。


「急いで」と言われても研修中の美羽にとってはいまの速さが一番速いのである。

どうしよう、と思うと鼓動が早くなってくる。

とはいえ、もしお客さんが仕事に遅れたとしても私の責任では無いだろう、と思う。余裕を持って家を出なかったのあなたの責任ではないのか。コンビニ店員に速さを求めるのは、筋違いである。


接客をしていると、どこからともなくオーナーの斎藤さんが現れた。オーナーは50代のおじさんで口うるさく注意してくる。美羽は少し苦手だった。オーナーに出くわすと、何か注意されるのではないか、と心の中で恐れている。ちなみに、オーナーの奥さんは店長だ。

夫婦でコンビニを経営しているのだろう。


オーナーはレジの中に入ってきた。

「もっと早く!はい、はい、客層キー!すぐ押す!」と横で声を荒げた。美羽はさっきよりもはやく手を動かした。オーナーはお客さんに向かって、「すみませんねえ。新入りなものですから、ははは。」と大きな声で謝っている。


朝からこんなに声を張り上げて、お客さんにとっては彼の方が迷惑である。


焦ると、ロクなことにならない。

さっそくバーコードを読み取ったあとに「おにぎり」を投げ飛ばしてしまった。おにぎりは遠くに飛んで行った。

それ見たことか。オーナーが横から急かすからこうなったのだ。

かわいそうに、遠くに投げ飛ばされて潰れてしまったおにぎり。

美羽はそれを掴んで袋に入れた。


オーナーはかわいそうなおにぎりに気づいているのか気づいていないのか、満足そうな様子で「うん、うん。」と頷いた。

「あとは、お客さんがやってくれるから。分かった?客層キー。」そう付け加えると、オーナーはドタドタと慌ただしくレジを出て言った。


オーナーという台風が去っていって、またレジには平穏が訪れた。オーナーに比べると、教育係の大石さんがかわいらしく見える。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る