第49話 自分の葛藤と向き合いながら

 「純子、いま何てゆうたんや?」

 俺は都合のいい空耳かもしれない純子の言葉を確認した。

 純子は俯いて、困った顔している。

 「だから…その…少しくらいやったら…ええでって、ゆーたん…」

 純子が言った言葉が、今度ははっきり聞こえてきた。

 俯いて顔を赤らめる姿が可愛い。俺の心臓がバクバクしている。


 俺は正面から純子の背中に手を回した。純子は俺の胸の下あたりに両手を添えて、俯いている。純子の体は震えていた。

 「ほんまにええんか?」

 純子はうなづいてから俺を見上げたが、恥ずかしさで、視線を外ずす。

 「でも、全部は…あかんで」

 これは夢と違うよな…。嬉しい…でも、やっぱりまだあかん、早すぎるという気持ちがあり、俺は心の中で戦っていた。純子のお母さんにも、節度ある付き合いをしてと、言われているし。節度の線とは、どこまで引けばいいのか。俺はもじもじしている純子を見ながら、ずっと考え続ける。

 純子が、赤い顔しながら俺を見上げる。あまりの可愛らしさに、思わずギュッと抱き締めた。純子を求める気持ちはもう止められそうにない。


 「純子、ほんまにええんか…?」

 俺はまた同じ台詞を繰り返してしまう。もしも純子がやっぱり嫌やと泣いたら…いまやったらまだ自分を抑えられるから。

 「…うん。でも、うちらは高校生やし、全部はあかんで。もしもの事があったら、周りにも迷惑かかるし。うちはお母さんを泣かせたくないし、綾子がのりの家に『責任とってもらいますからね』って、怒りながら乗り込むかもしれへんし」

 「そうやな…」

 綾子ちゃんなら、かもしれへんではなく、間違いなく乗り込んでくるやろうな。純子をいじめてた子の家まで担任の先生と一緒に行って、その親に説教かましたらしいし。それで、純子もいじめられなくなり、辞任しかけた先生まで救って、問題解決させたようなパワーのある子や。純子の為やったら動くに違いない。


 俺も純子も、それからは何も言わないままで、だだ見つめ合う。スローモーションのように、コマ送りで、時が過ぎていく…。初めに感じたスローモーションより更にゆっくりと、甘やかに俺と純子の間を、風のように軽やかに流れていく…。

 そして俺は純子を抱き上げる。純子は俺の首に手を回して、一瞬俺をチラッと見たけど、赤い顔をさらに赤くして、俯いてしまった。

 やっぱり純子は、可愛い。このまま襲ってしまいたい気持ちが、湧き上がってきたけれど、純子が嫌がる酷い事をしてしまいそうな気がしたから、落ち着く為に、深呼吸をした。


 自分の部屋でクリスマスをしていたから、すぐそばにベッドはあるのに、そこに行くまでの時間がなぜだか長く感じた。やっとたどり着いたベッドに、そっと純子の体を置く。

 その瞬間、純子は顔を両手で隠した。

 俺はその両手を、自分の両手でそっと握り締めて純子の顔を見る。純子は、さらに赤い顔になって、俺を見つめる。

 それからゆっくりと唇を重ねた後に、ぽつりと呟いた。

 「純子、好きやで」

 純子は何も言わず、ただうなづいた。いまはもう、流れる時間にお互いが漂い始める。

 俺は純子を抱き寄せて、それからゆっくりと何度も口付けをした。

 「嫌な事思いださせるけど、ごめん。たかは、どこまで純子を見たんや…」

 純子は赤い顔をわずかに青くして答えた。

 「上半身のキャミソールまで…」

 「そうか…体が全部見られてなくてよかった」

 「なんで?」

 「たかに妬いて、純子を泣かせるような事までしてまうかもしれんから」

 純子は顔中、真っ赤になった。

 俺は純子が可愛くて、寝そべりながら、そっと抱きしめる。純子をベッドで抱き締めるなんて、初めてやから緊張した。

 俺の腕の中でそっと俯く純子。ひとつひとつのしぐさが目に焼き付いていく。

 そして、また唇を重ねて。それから俺は純子の服のボタンに手をかける。

 震えてなかなかうまく外れなかった。

 たかが見た純子の姿を見られるまで、随分時間がかかった。


 純子のキャミソール姿が、目の中に映り込んだ途端に、純子の首筋にそっとキスを流しながら、全体的に体を触る。純子は、俺が触れるたびに、反応して、甘い吐息を洩らす。

 もうこれ以上、続けたら自分をおさえられへん。たかには、泣いて抵抗したけど、俺には、恥ずかしいのを我慢してくれた。いまはそれで十分やな。

 俺は純子から離れて、上から布団をかぶせた。それからその横に寝そべって、純子の頬に両手を添えて、自分に向ける。

 「純子、ありがとう」

 純子は赤い顔をしながら、俺の目を見て、そっとうなづいた。

 俺はこれまで以上にきっと純子が好きになる。たかにも三沢にもこれまで以上に妬いてしまうやろうな。純子がつきおうてるのは俺やけど純子に好意を寄せる人間に対して、きっと警戒志が強くなるやろうな。


 




 






 

 


 

 

 



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