第48話 ふたりきりのクリスマスパーティー

 俺と純子は、ふたりだけで、簡単なパーティーをした。夜は、うちの家族と一緒にクリスマスをするから、あんまり食べ過ぎたらあかんし。チキンとケーキを並べて、ジュースのシャンパンを入れる。

 「メリークリスマス、純子」

 「メリークリスマス、のり」

 うちに飾っているクリスマスツリーを眺めながら、クリスマスソングのCDを聴いて、ふたりで乾杯した。純子が曲に合わせてハミングしながら楽しそうに笑っている。

 やっぱり純子は笑顔が可愛い。このところ俺とたか、三沢の3人が目の前で言い争ってるせいで純子が困った顔をしている事が多かったからな…。なるべくそんな顔させたくないけれど、純子と一緒にいる時に、あいつらがちょっかいだしてくるから、気が付いたらいいあいになっている。三沢とたかの幼馴染コンビは、人を煽るのがうまい。なんて迷惑な奴らや。隣同士で住んでいて、毎日遊んでいたら、似てまうんやろうか。純子はお人好しやから、あいつらに迷惑なんてよう言わんから、それをいい事に調子に乗りやがって。


 「のり、早く食べな、チキン冷めるで」

 「ああっ、おう。ほんまやな」

 俺は慌てて、チキンに食いつく。純子はそんな俺を見て、にこにこしている。

 「どうしたんや?もしかして、俺の顔になんかついてるんか?」

 「ううん。今日はのりと一緒にクリスマスができて嬉しいなあと思って」

 そう言いながら、純子がキラキラ輝いている。可愛い花がいっせい咲いたみたいや。

 「そりゃ、俺らはほんまにつきおうてるねんから、当たり前やろ」

 「うん。そうやな。でも、もしかしたらあの時に振られてまうかもと思ってたから…」

  純子は、俺の元彼についこの間、襲われたばかりや。結局無事やったけど、その事をひどく気にしていた。

 「あれは純子が悪いんじゃないで。もとはといえば、俺が原因やから」

 俺はそう言って、隣に座ってる純子の肩に手をかけ、自分に引き寄せた。

 俺が純子を好きにならんかったら、いまでもたかとつきおうてたかもしれん。元々たかは、別れた俺に会う為、同じ学校に来たんやから…。

 純子は、俺の顔を上目遣いで見た後、赤い顔してそっと俯く。クリスマスソングだけが響きわたる部屋。まるで時がここだけスローモーションで流れているようや。俺は純子の顔を覗きこみ、そっと唇を重ねる。純子はいつもやったら恥ずかしがって、すぐ離れようとするのに、今日は様子が違う。俺が繰り返す口付けを何度も受け止めてくれた。そのせいか、純子が違う女の子に見える。もしかして、クリスマスには、なにか特別な魔法でもかかってるかもしれない。

 そしてつい無意識に純子の胸に手を添えてしまった。


 「のりっ、なにすんの⁈」

 純子の叫び声で、我を取り戻し、俺は慌てて、純子から離れて立ち上がる。

 「ごめん!!つい手がでてもうた」

 純子は頬をますます染めて、驚いた顔で俺を見る。いままではなかった事やから、びっくりたんやろうな。キス以上の事は、『純子が嫌ならしょうがないやろう』と言って、した事がなかったから。純子は顔を赤らめて、『のり、うちを大切に思ってくれてありがとう』と言った。その様子を見て、ますます大切にしないといけない気持ちになっていたのに。それにたかとの事かあったばかりや。やっぱり同性がいいと言い出して、今度こそ振られるかもしれない。たかの事があって、大切にしたい気持ちと、自分の欲望を満たしたい気持ちの葛藤で、俺の心は揺れている。こんなに矛盾した思いが生まれるなんて、思ってもみなかった。

 

 「のり、なんかあったんか?ほんまに最近へんやで」

 純子は首を傾げて、俺を見つめる。

 俺は純子の真っ直ぐな瞳から、つい視線を外してしまう。

 「なあ、のり、ひょっとしてあんた、こんな事ばかり考えてたん?」

 純子のストレートの疑問に、心臓が鳴る。誤魔化したいけど、ちゃんと答えなあかん。

 「…そうやってゆーたら、とう思う?」

 純子の驚く瞳が目に飛び込んでくる。

 「俺なお前がたかに触られたって聞いてから、変やねん。なんで純子が俺以外の男に…って…」

 俺は純子の視線からまた目を外して、話し続ける。

 「原因は俺やし、頭ではしょうがないってわかってんのに…純子の体に触れたい…抱きたい…って、そればかり考えて…。男って競争意識激しいからなあ。たかが純子に触らんかったら、こんな気持ちが広がる事なかったのに…」


 純子は赤い顔をしながら俯いていた。それから立ち上がり、俺の隣に並んで、腕に手をからめる。

 「ごめんな。のり」

 「どうしたんや急に?!いま近寄ってきたら、なにするかわからへんで」

 純子は、赤い顔をして、俯いたまま、俺に話しかける。

 「彼氏おるのに、他の男が触った…なんて、妙な話しやな」

 それから顔を上げて、真っ直ぐ俺の目を見て、小さな声で呟いた。

 「ちょっとだけでも…ええか?」

 一瞬、自分の都合の良い言葉が空耳で聴こえてきたのかと思った。確かめようとして目を見開き、俯く純子を見る。部屋の中では、リピートされたクリスマスソングの音だけが響き渡っていた。

 

 

 

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