第47話 初めて芽生えた感情 

 「のり、のり…」

 買物の途中で、ぼぉっとしていた俺に、純子が心配して、声をかける。

 「大丈夫か?最近元気ないで」

 「そう見えるか?」

 「うん。調子悪いんか?」

 「大丈夫やで。毎日たかと、三沢とバトルしてたから。いまふたりがおらん事に、ほっとしてたんや」

 「それならええけど」

 

 この頃俺は、おかしい。純子がたかに襲われてから。未遂に終わったのは良かったけれど…その日から、俺の悩みは始まった。

 あれから俺は、毎晩、同じ様な夢を見るようになった。

 純子が俺の腕の中で、いろんな顔を見せて誘惑してくるありえへん夢。毎日、そのせいで夜中に目が覚める。

 『純子さんって以外と胸があるんですね』

 あの日から、俺の欲望は、日に日に大きくなっていく…。俺が見た事のない純子を見たたかに対するジェラシーで…。これまでには無かった感情が芽生え始めた。

 彼女に触れたい。抱きたい。純子の全てが欲しい。誰も知らない純子を見たい…。


 純子は、そんな俺の気持ちに気付かないまま、無邪気に笑っている。

 「のり、ケーキ、どれがええかな?お昼に食べるぶんは、単品で買うとして、夜のぶんはみんなで食べるから、ホールケーキやな」

 「夜のぶんは、今日の朝、秀明が作ってくれてるから、昼のぶんだけでええで」

 「そうなんや、秀明君、器用やなあ」

 「秀明は、昔から器用やったんやで。なにやらしてもそつなくこなすし」

 「うちの綾子もそうや。いまの中2って、器用な子が多いねんなあ」

 ケーキ屋さんが混んできたから、純子は素速く2人ぶんのケーキを選んで購入した。お邪魔するんやから、せめてケーキくらいは買うでと言ってくれた。秀明がケーキ作ってなかったら、ホールケーキも買うつもりやったみたいや。純子に余計な出費させなくてよかったわ。クリスマスのホールケーキは、結構値段張るからな。秀明、ありがとうやで。俺は心の中で可愛い弟に礼を言った。

 

 買物が終わって家に着いた。鍵を開けようとした時、ふと気がついた。誰もいない家の中に、純子とふたりきり…。俺は思わず真っ青になった。最近変な夢ばかり見る俺。理性を保てるやろうか…。なんでこんな事に今まで気付かなかったんやろう。

 「どうしたん?のり…」

 鍵をドアに差したまま、動かない俺を見て純子が話しかける。

 「ああ、ちょっと鍵が開けにくくて…」

 いつまでもこうしてたらあかん。俺は思い切ってドアを開いた。今までふたりきりになった時あったやろ。その時も理性が保てたんや。きっと大丈夫。俺は自分に言い聞かせて、純子を家に招き入れた。


 「お邪魔します」

 今日は、俺と2人きりなのに、純子の方は、そんな事、全然意識してない。いつも通り、俺に笑いかける。俺はさっき気付いた2人きりという事実に、どきまぎしてるのに。変な夢見てまうのに、理性が跳ぶかもしれないと気づかなかった自分。うっかりしずぎやろ…でも、夕方には家族が帰って来るから大丈夫や。それまで理性を保ってみせる。何度も頭の中で同じ事を言い聞かせながら、純子と一緒に部屋に入った。


 「のり、どうしたんや?やっぱり変やで」

 「あっ、ああ…。なんだかまた三沢やたかが来そうな気がして…」

 「今日は用事あるって、ゆーてたやん」

 「そうやったな」

 俺と純子をふたりにする為に、三沢は用事を作ったんやったな。

 『悔しいですけど、クリスマスの日は、純子さんを独占させて差し上げますわ』

 三沢は終業式の時、体育館裏に俺を呼び出しこう言った。

 『純子さんと貴明君が接近したら、まずいですもの。初めから異性として意識してるぶん、友達から彼氏になったあなたより危険ですからね。そういうわけで、その日だけはあなたにお任せします。貴明君は、家に招待しておきますわ』

 三沢は泣きながら、俺に理由を話した。それを遠くで見てるクラスメイト等。また妙な噂がたつんと違うか…。

 『純子さん、ごめんなさい。わたくしは貴女をこのパープリンに売ります…』

 ハンカチを片手に、涙を拭いている。

 遠くから見てると、俺が三沢を泣かせたみたいに見えるやろ。頼むから泣き止んでくれ。俺は三沢に、目で必死に訴えた。


 終業式が終わり純子と一緒に帰ってる途中で、たかが話しかけてきた。たかは、あっと言う間に純子の右手を握りながら、こう言った。

 『純子さん、残念ですね。クリスマスは君達と過ごす予定だったのに、和歌子とデートで会えないんですよ。和歌子のご両親に呼ばれてしまって』

 『こらっ、お前と過ごす予定は、初めからなかったわ!!いちいち純子の手を握んなよ。純子も何か言い返したれ』

 こうして、ふたりでクリスマスを、過ごせる事になった。昨日の夜は、クリスマスにふたりの邪魔が入らない事を喜んでいたのに、いまはむしろ来て欲しいと思っている自分に驚いた。

 

 

 

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