第46話 初めてのクリスマス

 学校の試験が終わって、試験休みに入り、昨日は終業式やった。街がクリスマスの飾りで賑わっている。俺は純子を緑公園の前で待ちながら、色とりどりに飾られたライトを見ていた。


 試験休みの間は、純子とのデートに邪魔ばかり入り、散々やった。

 俺の元恋人、たかが、うちの学校に転校してきて、純子を気に入ってしまってから、しょっちゅうちょっかいだしてくる。俺と純子の行く場所に、どういうわけか偶然いたりするのだ。偶然がそんなに発生するはずがないが、『やあ、憲武、偶然ですね』と言いながらふたりの間に割り込んでくる。


 俺の元恋人は、もともと変わった所はあったが、人に気遣いできるタイプだったはずや。あの頃のたかは、一体どこに消えたんやろう。あいつが変わったんは俺のせいかもと思うと、胸が痛い。俺がカモフラージュの恋人やった純子に惚れてしまい、たかに別れを告げたから…。まだ純子に告白もしていなかったし、純子も同性が好きやから、付き合えってもらえない可能性の方が高かったけど、気持ちがないのに、そのまま普通に、たかと付き合うのは不誠実やと思った。その時、たかはこう言った。

 『途中からもしかして、そうかもしれないと思いました。君はあの女の子の話しを楽しそうにしていたのに、いつの間にか僕の前で話すのが苦しくなってたみたいだったからね。仕方ないですね。憲武、いままでありがとう』


 あまりにもあっさりと承諾されて、びっくりしてしまった。最後まで、俺を気遣うたかを見て、泣いたくらいや。そんな俺を見て、あいつは最後に、そっと抱き締めてくれた。

 『僕は本当に君が好きでした。正直で真っ直ぐな君か…。そのままの君で、いつまでもいて下さい』


 俺達は、ちょっとした離れた場所に住んでいたから、連絡を取らない限り、もう会う事はないだろうなと思った。でも、まさか家庭の事情で、こちらに来る事になるなんて。しかも俺を追いかけて、学校に編入してくるなんて…。想像もできなかった。

 さらに元恋人が、恋のライバルになるなんておまけがついた。そういえば、三沢も家庭の事情でこの街に来て、純子を追いかけて、同じ学校に編入してきたんやったな。たかと三沢は、幼馴染や。隣りに住んでいて、よく遊んだらしいから、似てもうたんかもな。俺は、たかの家によう行ってたけど、三沢とは面識がなかった。もしおうてたら、顔立ちだけは、可愛い三沢を忘れへんと思う。性格を知らんかったら、純子が言うように、天使に見えたんかも。


 とりあえず今日は、クリスマスや。あいつらの事は、今日は忘れて楽しまな。


 純子が待合せの場所に来た。走りながら、俺の元にたどり着く。それだけで、ライトが飾られた緑公園が、もっと明るくなったみたいや。

 「ごめん、のり。待たせた?」

 「いや、いま来たばかりやで」

 今日の純子は、レースの白いワンピースに、赤いコートを羽織っている。それがめちゃ似合っている。髪型はくるくるくねらせて、白いリボンを着けている。

 「純子、めちゃ可愛いなあ」

 思わずもれた言葉に、純子が赤い顔をしてうつむく。

 「ありがとう。綾子が本見ながら髪の毛巻くの手伝ってくれてん。『姉ちゃん、松山さんとの初めてのクリスマスでいつも通りなんて、ありえへんから』って」

 綾子ちゃんは、純子の妹で、めちゃしっかりしている中学生や。

 「そうか、綾子ちゃんに感謝やな」

 純子は嬉しそうに笑ってうなずいた。

 綾子ちゃんもサッカー部のメンバーと一緒にクリスマス会のはずや。俺の親友の野村が、OBとして参加するって言ってたから、知っている。自分も忙しいのに、ほんまにお姉ちゃん思いやな。


 俺と純子は手を繋いで、ケーキやチキンを買いに行った。今日は、俺の家で、ふたりだけのクリスマスや。純子が何回か家に来てくれた事はあるけど、誰もいない家に呼ぶのは初めてや。いつもたいがい、弟の秀明がいる。文化部で、日曜日には部活がないから。純子をクリスマスに呼ぶ事を伝えたら、お父さんも、秀明も、その日はふたりで出掛ける予定やと言った。見たいアニメ映画を、一緒に見に行くらしい。

 『夜には帰るから、その時、一緒にご飯たべような。兄ちゃん、僕、純子さんの為に、めちゃ美味しいの作るから。それまで待っててな』

 秀明はキラキラした瞳で言った。秀明は、何回か来た純子にめちゃ懐いてる。純子が来た時は、ほんまにいろんなもんがでてくる。

 ピザやチーズケーキを作って、だしてくれたり、美容にいいお茶をふるまったり。

 もしも帰って来た時、純子がいないとがっかりするやろう。だから俺は、純子の家に訪問して、状況を説明し、クリスマスはいつもより遅く帰ってもいい許可を下さいとお願いした。

 「のり君が、純子を家まで送ってくれるなら、大丈夫やよ。綾子もうちも、それぞれ遅くなる予定やからね。我が家のクリスマスは、イヴの夜やし大丈夫」

 純子のお母さんは、笑いながら許可してくれた。こうして、純子は昼から夜まで、うちでクリスマスを過ごす事になった。

 

 


 

 

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