第45話 これからも続く日々

 尾崎君とのりは互いに見つめ合っている。

 「憲武、まさか君に睨まれる日が来るなんて、数ヶ月前までは想像できませんでしたよ。僕達はあんなに仲良しだったのに、悲しいですね」

 「ほんまやな。俺も信じられへんわ」

 のりがうちとカモフラージュする前は、ラブラブやったふたりや。それがこんな風になるなんて…うちにも目の前の進展が信じられへん。やっぱり、これは、のりとうちのカモフラージュが原因やんな。そう考えたら顔が青くなる。そんなうちをよそに、尾崎君はのりに背を向けながら言った。

 「それにしても驚いたなあ。君のような人が彼女に手をつけてなかったなんて。元恋人の僕には不思議ですよ」

 「下品な言い方すんなあ!!純子が怖がるやろう!!」

 そして、のりに向き合って、笑った。

 「まあ、だからこそ、無事に帰したんですが」

 尾崎君は、横からうちの肩に手を回して引き寄せた。うちは尾崎君の言葉が頭の中で、リフレインしている。『手をつけてなかったのが不思議』…どういう事や…。それってまさか尾崎君の事を、あの優しいのりが、野獣になって、襲ったって事なんかな…。

 「じゃあ、そういう事で。行きましょうか純子さん」

 「こらあー!!たかっ、なにがそういう事なんやっ?!わけのわからん事ゆーて、純子を連れて行くな!!」

 そこにいつもより遅れて来た和歌子が走りながら加わる。意外な事に、まるでスプリンターのように素速い。うちの前では、天使のようなふんわりした和歌子が嘘みたいや。

 「貴明君、純子さんから離れなさい!!」

 「おはよう、和歌子。昨日も今日も毎日可愛いですね。さすが僕の幼馴染です」

 和歌子が可愛いんと、幼馴染という事はどう繋がるんやろう。うちは心の中で、突っ込みを入れる。尾崎君の思考は一体どうなってるんやろう。独特な彼とのりが、なんで付き合ってたんやろう。ほんまに不思議な人や。

 そして、尾崎君は、うちの手を取ってこう言った。

 「憲武と別れなくてもいいので、僕ともお付き合いしましょう」

 なんかいま、空耳が聴こえてきたような気がしたけど…えっと…『別れなくてもいいから…僕ともお付き合いしましょう』…それってうちが二股してもええって事?!そんなん、うちの事がほんまに好きやったら嫌やろう!!ほんまに尾崎君、あんた変わりもんすぎやわ。

 びっくりして動けないうちの隙を見て、また唇を重ねた。


 「「あー!!」」

 和歌子とのりの雄叫びが響く。

 「なんてことするんですのおー!!」

 「純子は俺の彼女で、お前はただの知り合いだろっ!!」

 ふたりの非難を受け流して、尾崎君は楽しげに言った。

 「あれっ、憲武。僕の方が、純子さんとの仲は深いんですよ。一応。君達は今まで通り、僕達の前を仲良く歩いて下さいね」

 「誰がこんな性悪女と!!」

 「なんでわたくしが、こんなパープリンと歩かなければならないんですの!!」

 「毎日、楽しそうに、僕と純子さんの前を歩いていたじゃないですか」

 「「全然楽しくないわっ(ないですわっ)!!」」


 のりと和歌子の罵り合いは続く。尾崎君は自分の左手を下にして、右手の拳で、ぽんと叩いて、すごくいい笑顔で言った。

 「そうだ。いい事がある。これからはみんなで仲良くしましょう。なんて素敵な事を思いついたんだろう」

 「できるかっ!!全然素敵やないわ!!」

 「もともと僕達は、仲良しなのに」

 「それは過去の話しですわ!!」

 のりと和歌子は、青筋たてて怒っている。

 尾崎君は、ふたりの反応を楽しむように、話しを続けた。

 「じゃあ、1日交代で、純子さんの恋人になるとか…。和歌子と純子さんが恋人の時は、僕と憲武は寄りを戻すとか…。僕が純子さんの恋人の時は、憲武と和歌子が付き合うとか…」

 「お断りですわ!!」

 「俺だって、嫌や!!」

 「みんなで仲良くできるナイスな提案だと思ったのですが」


 3人はずっと言い合いを続けている。うちはそれを見てため息をついた。そろそろ学校に行かなあかん時間や。うちは何度も、学校に遅れそうな事を言いかけた。でも、3人の会話は止まらない。こうなったら、しょうがない。最後の手段や。

 「みんな置いて、ひとりで行こう…」

 

 これからうちの朝は、ますます賑やかに始まる事になるねんな。これからについて考えながら、またひとつため息をついて、うちは空を見上げた。空には白い竜神雲がかかっている。その隙間からのぞく、鈍く光る太陽がなぜかまぶしくて、うちは目を逸らした。



 

 

 

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