第44話 やっとわかった想い

 いつもと同じ月曜日の朝が来た。悩みだすとあまり眠れないうちが、昨日は熟睡できた。みんなと仲良くしている夢を見たせいか、不思議に穏やかな気持ちやった。

 でもだからといって、のりとどんな顔して会えばいいのか、まだわからないけれど。

 場合によっては、別れなあかんかもしれへんしな。そう思ったら、また泣きたくなってきた。うちは布団の中でうつ伏せになって、枕で顔をうずめた。うちはこれからどうしたらええやろ。いくら考えても、たどり着かない迷路の中に、今日もさまよい続ける。そうや…別れても綾子がのりにクレームつけない方法考えなあかん。例えば、うちに他に好きな人ができたから…それが無難かな。うちらがほんまのカップルになって、せっかく綾子についてた嘘が、嘘でなくなったのに。また、綾子を誤魔化さなあかんのは、やっばり辛いな。ごめんな。綾子。いつも心配かけてしもうて。うちは、隣の布団の中で寝息をたててる妹を横目で見て、心の中で呟いた。


 いつもと同じ朝が動き始める。起きてから、布団たたんで、顔洗って、ご飯を食べて、制服に着替えて…。当たり前の日常がまわり始める。うちは、戸締りを確認して、のりとの待ち合わせ場所に向かった。


 朝の待ち合わせ場所に向かいながら、のりとどんな顔して会えばいいのか考える。のりの方は、どんな顔してるやろ。怒った顔、それとも泣き顔…そう思うと足どりはちょっと重たかった。待ち合わせ場所に行かんとこうかなあ…だけど学校では同じクラスやから、休まん限り顔合わせなあかんし。いろいろ考えて歩くうちに、待ち合わせ場所に着く。のりは先に来て、うちを待っていた。


 のりはいつもと同じ顔をして、うちを待ってくれていた。

 「純子、おはよう」

 「おはよう。遅くなってごめん」

 「学校に間に合う時間やから、ええで。今日はまだ体調悪いかと思って心配してたんやけど…来てくれてよかった」

 のりの言葉に、ほっとした。のりは怒ってないし、悲しんでもいない。ただうちの事、心配してくれてたんや。

 「ありがとう。のり。心配かけてごめん」

 のりは笑いながら、うち抱きしめる。それから、唇を重ねる。

 「ちょっと、のり、みんな見てるで」

 我に返ったうちは、まわりのざわめきを聞く。冷やかしながら通る友達もいて、かなりあせった。

 「ええねん、見せとけ。俺と三沢が噂になってんねんて。これで、それが誤解やとわかるやろう」

 のりはうちを抱きしめたまま言った。

 「土曜日は、ごめんな。」

 「なんでのりが謝るん」

 「俺が純子をあんな目に合わせたんやと思って」

 「あれは、のこのこついていった…うちが悪いから」

 うちは、そう言いながら、涙を流す。土日に散々泣いたのに。

 「うち、のりとどんな顔しておうたらええんかな…とか、怒ってるんとちゃうんか…とか、考えてた。」

 「俺が不安にさせててんな。ごめん」

 のりはうちを、ぎゅっと抱き締める。その力強さに安心して、うちはのりの腰に手を回して、抱き締め返す。

 この時、初めて自分の気持ちをはっきり自覚した。いままでは、のりの事を、好きなんかなとぼんやり思ってた。尾崎君との事で、あれこれ考えたのも、のりが好きだからというより、のりと付き合ってるのにあんな事になって…という気持ちからやった。

 やっぱりうちはのりが好きやねんな。男とか女とか関係なくて…。のりと抱き締めあった時の空は、めちゃ綺麗やった。もう、誰に見られても気にならへん。うちはしばらくその余韻に浸っていた。


 「なあ、純子、ひとつ聞きたい事があるねんけど」

 のりが遠慮がちにうちに話しかける。

 「なんや?」

 のりの顔が真っ青に変わる。

 「たかが、お前の胸がどおうのこうのとかゆーてたけど…もしかして…病院行くならついて行った方が…」

 「そんな事やられてへん!!」

 うちは思わず叫んでもうた。

 「確かに襲われたけど…全部見られてないし、泣いたら途中でやめてん」

 「途中で…やめた…?もしかして、たかは本当に純子の事…」

 そこに声が割り込んできた。

 「そうですよ。憲武。僕は彼女の体だけじゃなく、全てが欲しいですからね」

 「たかっ!!お前は女嫌いじゃなかったのか…」

「今まで出会った女がみんないい加減だったからね。でも、純子さんは違う。だから君も僕を捨てたんだろう」

 尾崎君は楽しげに言い放つ。まるでのりとの過去は、なにかのアトラクションみたいや。


 のりは尾崎君を睨みつけ、尾崎君は微笑んでいる。あまりにも対照的なふたりを、うちは手に汗を握り、見つめていた。

 





 


 



 

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