第40話 尾崎君のアルバム
緑公園を抜けてすぐに、尾崎君の家があった。ほんまに近くてびっくりした。これやったら、迷わずに帰れるから、問題ないな。
「狭いけれど、上がって」
「お邪魔します」
尾崎君の部屋に案内されて、うちは感心した。男子の部屋やのに、なんて綺麗な部屋なんやろう。
「綺麗な部屋やなあ」
「君の彼氏の部屋もこんなものでしょう」
「…ううん、全然違うで。のりの部屋は、いろんなもんが、ごった返してるし」
「そうなんですか…」
尾崎君の部屋は、整理整頓されている。本なら本がちゃんと並んでるし、何があるのかすぐにわかる。のりの部屋は、机の上に本やCDが積み重ねてあって、ごちゃごちゃしてた。でも自分ではどこに何が置いてあるのか、わかるみたいなのがすごいと思う。この間、お家にお邪魔した時、ちょっとだけ本とCDの片付けを手伝ってきたけど、また同じ事になってるやろうなあ。
うちがソファーに座って、本棚を見ているうちに、尾崎君は、紅茶を入れてくれた。
「お嬢様、紅茶をどうぞ」
尾崎君が執事のように、うやうやしくうちに紅茶を差し出す。その口調があまりにも似合っていて、思わず笑ってしまった。
「ありがとう。尾崎君、漫画の執事みたいやな」
「左様でございますか。お嬢様」
尾崎君はそう言って笑った。丁寧な言葉遣いがほんまに似合う人やな。女の子にもてそうやのに、人見知りなんて、ちょっともったいないかも。女の子が憧れるタイプじゃないかなあ。のり以外の男子を好きになった事のないうちには、女子が憧れる異性の基準がわからんけど。
紅茶をいただきながら、改めて部屋を見渡す。いまふっと思ってんけど、まるでドラマにでてきそうな雰囲気や。尾崎君は、うちの向かいのソファーに座ってる。紅茶の飲み方も優雅で綺麗や。
男子の部屋やから、きらびやかではないのに、すごく整っていて、どこから撮影しても美しく映ると思う。生活感というものが感じられへんのも特徴かも。
「今日は純子さんが来てくれて嬉しいですよ。散歩に出かけてラッキーでした」
「こっちの方こそ声かけてくれて、ありがとうやで。和歌子も一緒やったら、よかったな。尾崎君の知り合いが増えるたのに」
尾崎君は少し目を伏せて、ぽつりと言った。
「いいえ、彼女と一緒なら、僕は純子さんに声をかけられなかったです」
そういえば尾崎君は、うちがひとりでおる時に声をかけてくるなあ。ほんまに人見知りやねんな。なかなか家に招待できる友達を作られへんわけやな。
尾崎君とは同じクラスじゃないし、共通の話題がない。同じ本を読んでたら、作品について語りあえるかも。だから、うちは、思いついた事を、言ってみた。
「なあ、尾崎君。本棚近くで見せてもらってもええかな?」
「いいですよ。どうぞ」
本棚を見たら、歴史小説が沢山並んでた。それから、松下幸之助さんや、井深大さん等の大会社の創業者の本とか。なんかめちゃ勉強になりそうな本棚や。うちが読む本で共通してるのはあるかな…そうやって見ていると端の方に、白い表紙のアルバムがある事に気付いた。これを見せてもらったら、いろんな話ができるかも。
「尾崎君、アルバム見てもええかな?」
「…見てもあまり面白くないかもしれませんよ。それでもよかったら」
「ありがとう」
ソファーに戻って、座った時に、自分の横にアルバムを置く。紅茶をこぼしたら大変やから、カップを離れた場所に移動させた。それからアルバムをテーブルの上に。
尾崎君はうちを見て微笑んでいる。
「純子さんにとって、面白い写真があればいいのですが」
うちはアルバムを開いて、写真を見る。
「尾崎君、めちゃ可愛いやん…」
子供の頃から、すでに綺麗で、整った顔をしていた。
「尾崎君って、子供の頃から、めちゃ男前やってんなあ。」
「ありがとうございます。」
うちが感心して、言った事に、尾崎君は少し照れているみたいに答えた。
「一緒に映っている女の子も、めちゃ可愛いやん。もしかして、妹さん?」
「いや、隣に住んでいた女の子です。仲良くて、よく遊んでいましたね。」
「…あれっ?」
「純子さん、どうかしましたか?」
「ううん、なんでもない。うちの気のせいやったわ」
アルバムを1枚、1枚、めくっていく。尾崎君のアルバムは、赤ちゃんの頃から順番に綺麗に並んでいた。
中学生の頃の写真になった。どことなくまだおぼこい感じがする。
「あれっ…」
ふと目にした1枚の写真。
「なにか面白い写真でもありましたか?」
そこには、のりと尾崎君が一緒に写っていた。
「あんた、もしかして、のりの…」
いつの間にか、うちの隣に座っていた尾崎君が、肩に手を回してうちを引き寄せる。
「知ってたんだ。僕の事」
尾崎君は、妖しげな微笑みをうちに向けてきた。尾崎君は、のりの元彼…隣に写ってたあの可愛い子、見た事あると思ったら、和歌子やったんや…。
「相手があんたやと知ったんは、いまやわ!離してーや!!」
「純子さん、僕はね…君がどんな女の子なのか、確かめに来たんだよ。憲武が僕を振る程いいのかなと思って」
尾崎君は、うちにそっと呟いて、妖艶に微笑んだ。
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