第39話 ひとりで過ごす土曜日

 うちはほんまに、のりが好きなんかな…あれから何度も考え続けた。

 今日は土曜日やけど、のりはバイトやし、いつも金曜日に、約束しにくる和歌子は、大泉さんに買い物に付き合わされる事になったから、会えません、ごめんなさいと、泣きながら昨日言ってきた。別に約束してそれを破ったわけやないから、泣かなくてもええんやけど。どうも和歌子の中では、土曜日はもう約束した事になってるみたいや。


 お母さんは、仕事、綾子はクラブやから、家には誰もおらへん。うちは、床に置いたうちはクッションに座りながら、テレビを見ていた。普通の女子高生なら、携帯触りながら見たりするんかもしれんけど、お母さんの教育方針でうちも綾子も携帯は持っていない。持ってないと言ったらみんなに驚かれて、不便やないと聞かれるけど、そんな風に、感じひんし。でも一回持ったら、そう思うかもしれへんな。周りの子見てたら、携帯ばっかりいらってる子もおる。お弁当食べながら、携帯さわるのって、楽しいんやろうか。そうは見えへんけど。もしかして、それがかっこええと思ってしてたりして。はたから見てると、いろいろと不思議やなあ。将来はきっとうちも持つと思うけど、携帯いじりながらご飯は食べたくないし、人とご飯食べてる時にもさわりたくないなあと思う。その時は、もしかしたら同じことやってたりして〜。


 見ていた番組が終わったから、テレビをリモコンで消して、そのへんを片付けて、掃除機をかける。いい天気やし、掃除終わったら、ちょっと駅前まで行こうかな。買物しとかなあかんし。うちは掃除機をかけ終わってから手を洗って、服を着替えた。部屋着のまま駅前に行くんは、ちょっと恥ずかしい気がするからなあ。もこもこで暖かいけど、外出向きやないし。鞄の中見を確認してから、家の戸締りをして出かけた。


 駅前に行く途中で、緑公園にふらりと寄ってみた。冬やけど、全部枯れ木やないのが不思議やなあと思う。場所によっては、緑の葉の木が結構ある。もしかして、木の種類とか、植えられた場所によるんかな。ひとりで気ままに歩く土曜日なんて、久しぶりやから、いろいろと思考が飛ぶ。和歌子やったら、絶対ベンチでお弁当食べましょうとかゆうよな。のりなら、コーヒー買って来てくれて、歩きながら、いろいろ話すなあとか。考えながら、歩いていると、後ろから、呼び止められた。


 「純子さん」

 振り返るとそこに尾崎君がおった。

 「珍しいね。いつも土曜日は三沢さんと一緒なのに」

 「よお知ってんなあ」

 「君の事なら、いつも見てるからね」

 尾崎君の話を聞きながら、顔が赤くなる。

 この間の告白は、まじやったんかな。彼氏に置いていかれてるうちに同情して、その気持ちを勘違いしてるとか。あの2人が一緒に歩いてる理由知らんから、見てるうちに…もしかして、そうかもしれんな。


 「純子さん、もしかして、いつも一緒にいる人達と一緒じゃないから、寂しい?」

 「そんな事ないで。なんで?」

 「なんとなく黄昏てた気がしたから」

 言われてみたら、ひとりで外出はちょっと淋しいかも。最近の休日は、和歌子かのりと一緒やったから、見ている景色がいつもと違うというか。ふたりと別々に会うてる時は、楽しいし。三人一緒やと、ふたりが言い合いしてるのを見て、なんだか頭が痛いけど。

 「純子さん、時間ある?」

 「うん。あるけど…でも、後で買物にも行かなあかんねん」

 「じゃあ、よかったら僕の家に来ない?近くなんだ」

 「あっ、でも、うちは彼氏おるから」

 行かれへん事を言ったら、尾崎君は悲しそうに目を伏せた。

 「転校してきたばかりで、知り合いもいないし」

 尾崎君、もしかして、寂しいのかな。うちは目を伏せたままの尾崎君を見て、なんだか自分も悲しくなってきた。見知らぬ街に転校してきたばかりやったら、めちゃ心細いやろうし…。次の瞬間、うちは言った。

 「じゃあ、少しだけお邪魔しても、ええかな?」

 次の瞬間、尾崎君は満面の笑顔になった。

 「本当に?純子さん、ありがとう」

 「でも、買物せなあかんから、ほんま、すぐに帰るで」

 「少しだけでも、嬉しいですよ。僕は人見知りだから、なかなか友達もできませんし」

 うちは尾崎君の家に向かって歩きだした。


 純子と尾崎が歩いているところを、大泉雅代が、偶然見かけた。

 「あらっ、わかちゃん、あれは純ちゃんじゃないかしら」

 「本当ですわ。約束してないのに、こんなところで会えるなんて運命ですわ」

 いまにも駆け寄りそうになる和歌子に、大泉が声をかける。

 「でも、和歌子…純ちゃんが一緒に歩いているのは、松山君じゃないみたいよ」

 「…そうみたいですわね…わたくし、追いかけて行きたいけれど、動けませんわ…」

 「そりゃ、そんな所でこけたら、すぐに動けないわよね」

 大泉が声をかけた瞬間に、和歌子はこけていた。去っていくふたりの後ろ姿を、和歌子は起き上がれないまま睨みつけた。


 

 


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