第38話 ひろの警告

 次の日の放課後。俺はひろと会う為に、緑公園の前に立っていた。中に入ってベンチに座ってもええけど、動かへんと寒いし。いつもなら、純子と一緒に、どこかでコーヒーを飲んだりしてから帰るねんけど、今日はひろと会う約束やから、コンビニでジュース買って純子に渡して、家に送っていった。純子は嬉しそうに、『ありがとう。家でゆっくり飲むからね』と言って笑った。ちなみに、いつも朝に現れる三沢は、帰りにはあまり来ない。

 純子の話しでは、いとこの大泉のところになにかの手伝いで、行かないといけないらしい。そういうわけで、朝よりも、純子を独り占めできる帰り道が好きやったりする。


 「のり、悪い。待たせたな」

 「いや、俺が早く来すぎたから、気にせんといて」

 約束の5分前にひろが来た。フルネームが、野村敦啓やから名前の最後の一文字を取ってひろと呼んでいる。ひろは学年で3番から落ちた事ない秀才や。普段、ゲームや漫画ばかり読んでるのを見てると、そんな風には見えへんけどな。純子とは、学校の学区が同じで、中学時代からの同級生。やっぱりそこでも、勉強ができてスポーツもできるという事で有名やったと純子が言っていた。部活は、サッカー部。女の子の黄色い声が飛んでいたそうや。

 俺とひろとは、小学校時代の同級生。5、6年の時は、クラス一緒やったし、よう一緒に遊んだ。中学は、学区が違うから、別の学校になった。その頃は、ひろはクラブ活動が忙しかった。夏休みにサッカー部の合宿とかあって、あまり遊べなかったけれど、わずかに空いた日にちに海に付き合ってくれたりしていた。いま思えば、無理して一緒に来てくれてたかも。ひろは、ほんまにええ奴や。

 高校では、サッカー部に入っていない。なんでかと聞いたら『プロ目指すわけでもないから、他の好きな事しようと思って』と答えた。いまは漫画研究会に入っている。スポーツマンからオタクになり、ショックでファンの女子が泣いていたと純子が教えてくれた。


 俺とひろは、寒いから、どこか店に入ろうという意見で一致して歩き始めた。向かってくる北風が身に染みる。

 「今日は久しぶりに、一緒に飯食おうや。のりが中村と付き合い始めてから、そんな機会もあまりないからな」

 「そのつもりで、家には言うてきた。しゃーから、飯食わな困るで。食べていかな秀明が怒ると思うわ」

 「この時間やし、ゆっくりできるのはファミレスかな。ドリンクバー頼んで、後で飯にするか。バーガーショップでジュースだけ頼んでからファミレスに移動するのは、不経済やしな」

 バーガーショップのジュースは、一杯の平均250円や。ファミレスのドリンクバーやと、何杯のんでも300円で済む。いまからいろいろ話すから、喉も乾くやろう。俺もそう思ったからうなづいた。


 ファミレスに着いて、窓際のソファー席に座った。向かいの席も普通の椅子と違って、ソファーになっている。

 「のり、奥の席座りいや。いつも中村に譲るから、滅多に座られへんやろ」

 「ありがとう。じゃあ、遠慮なく座らせてもらうわ」

 はじめの予定通りに、先にドリンクバーを頼んだ。俺はコーヒー、ひろはレモンスカッシュを一緒に取りに行った。

 

 「そういえばひろ、なんかあったんか?」

 俺はコーヒーをかき混ぜながら、話を切り出した。その途端に、ひろはため息つきながら、ストローをかき混ぜた。

 「…なんかあったんは、お前の方やないんか」

 何か考え事をしているのか、ストローを回す手が早くなっている。

 「単刀直入に聞くで。のり、お前、まだ中村と付き合ってるんか?」

 「…なんや、そのまだって…今日かて、帰りはちゃんと家まで送ったで」

 「お前、最近、三沢と並んで学校に行ってるやろ。のりかえたんやないかって、噂になってるで」

 「冗談やろっ!やめてくれっ!!」

 あまりにも衝撃的な事を言われて、一瞬固まった。なんで、俺があの悪魔と!!

 「いつも純子も一緒やのに、なんでそんな事言われなあかんねん…」

 「あれが一緒と言えるんか。中村いつも離れて歩いてるやんけ」

 言われてみたら、学校に着くまで三沢の顔しか見ていない事に気付いた。

 「…その時、中村と一緒に、男が歩いてるの知ってるか?」

 「男…?」

 「やっぱり気付いてへんかったんか。最近、ほぼ毎日やで」

 「そんな事…純子…ひと言も…」

 ひろが俺の隣まで移動してきて、肩に手を回して言った。

 「お前らほんまにつきおうてるのか?しっかりしいーや。なんの為に、オレが告白もせんと、引き下がったと思うてんねん。中村の相手がお前やからやろ」

 ひろに中村を彼女として紹介した後、ひろが中学時代から片想いしていたのが純子やと聞かされた。告白するつもりだったのにと。でも、ひろは笑いながら、『お前やったらしゃーないな』と言ってくれた。でも、ごめん。言われへんけど、あの時の俺らは、カモフラージュやったんや。

 「うん、わかった。サンキュー、ひろ」

 「あまり他の女の子と仲良くせんと、中村を見たれよ」


 この場合、三沢の事は、なんて説明したらええんやろう。

 まさか三沢が純子を好きで、俺に文句言ってるなんて、普通は思わんやろうな。

 

 「ああ…気をつけるわ」

 俺はため息まじりに、呟いた。

 ひろはそれ以上、純子の事は、言わへんかった。いま連載してる漫画の話とか、中学時代の話をした。

 この後の食事は、唐揚げ定食を頼んだけどいろいろと考えたせいで、なんだか味がよく分からなかった。ひろは、同じ物を注文して、美味い美味いと言って、食うてたけれど。


 


 

 


 

 


 

 




 

 



 

 

 


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