第37話 憲武の独り言

 俺、松山憲武には、中村純子という彼女がいる。俺の恋人が男で、友達に彼女見せてくれと言われて困ってた俺に、純子が『うちとつきおうてる事にしたらええやん』と言ってくれて、カモフラージュでつきおうていた。

 でも、いつの間にか、優しい純子が好きになってしまい、恋人と別れた後に告白して、いまはほんまにつきおうてる。純子は、なんていうか、一緒にいたら癒される。女の子を好きになるなんて思った事もなかったから、そんな自分にびっくりしている。


 今日も、三沢と言いあいしながら、学校に行った。朝早く登校しても、必ずなぜか待ち合わせ場所に奴はいる。三沢和歌子。9月に来た転入生。俺の彼女の純子にラブラブで、隙あれば純子に迫る。純子はもともと同性が好きだから、かなりやっかいや。純子は、三沢の上目遣いや、笑顔に弱い。三沢に見惚れてしまい、動けなくなってしまう。どうしてそうなるのか純子に聞いたら、しどろもどろになって、『天使のような笑顔やから…。』とか、わけのわからん事ゆーてたな。どう見ても俺には悪魔の微笑みにしかみえへんのに。そういえば前に純子が好きやった大泉さんの事は、『神秘的な女神様』と言ってたなあ。純子は、夢見がちな魚座やから、こんな発想するんやろうか。それにしても、女神様や天使がライバルなんて、やっかいや。女神はギリシャ神話では必ず酷い目に合うプラグ。それに絶対勝たれへんのが定番やし。聖書の天使にも逆らうと酷い目にあう。俺は思わずため息をついてしもうた。でも、三沢も大泉さんも、本物の天使や女神じゃない。三沢なんか、悪魔に決まってるし。純子を悪魔から守らなければ。


 三沢は、純子とふたりの時には、ネコを被ってるらしい。油断していると、いつ爪が砥がれるか、わからんのに。あの悪魔からどうやって純子を守るか、ほんまに悩ましいところやで。心配やから土曜日も純子と会いたいけど、バイトは、純子とのデートの時の資金が必要やから、辞められへんしな。


 もともとは、彼氏に会いにいく為に始めたバイトは、いまでは純子に負担かけたくないという理由で、続けている。純子の家は母子家庭やから家計の為に、バイトしたいけど、お母さんが許してくれないらしい。学生のうちから、悪い大人を見る必要はない、だまされたらあかんからって。成績が落ちたらあかんからとかは聞いた事あるけど。携帯持たせへん、バイトさせへんのは、それぞれお母さんなりの理由がある。俺が純子の家に、挨拶に行った時は、携帯持ってない事が気にならないかというような事を聞かれた。『初めはびっくりしました。でも、そんな事が気になるようやったらつきおてません。』と正直に答えた。

 お母さんは笑って、『それやったら、純子をよろしくお願いします。』とゆうてくれた。

 後で純子に聞いたけど、もし不便やから携帯を持たせて下さい、と俺がお願いした時は、帰らせるつもりやったらしい。携帯で犯罪に巻き込まれる事もあるから、高校生の間は、持たせへんと決めてるって。いろんな事が、自分で判断できる大人になったら、その時には、自分で持つかどうか決めなさいと。


 いろんな事を思い出しながら、俺は家で洗濯していた。俺の家庭は、母親がおらんから、家事をみんなで分担している。小学5年生になる桜の季節に、父母は離婚して、俺と弟は母親から置いていかれた。当時母は、不倫していた。父が仕事ばかりして、寂しい思いをしていた。その結果、俺ら家族より、不倫相手を選んだ。不倫相手は、俺も知っていたお兄さんだった。しかも、俺が留守だと思い込んだ母が、よりによって家に連れ込んだ。それから母は、その男にしな垂れて…。偶然見た世界に、俺の中で、何かが崩れる音がした。父以外の男に身を委ねる母は汚く見えた。そして、どういうわけか、その不倫相手が色っぽく美しく見えてしまった。同じように汚いはずやのに。人は裏切る者と悟った俺は、男も女も好きになる事はなかった。中学生になって、それから3年間付き合う事になった彼に会うまでは。純子に会って、彼を裏切る事になってしまい、自分も汚いと思った。だけど、どうしても純子が心から、でていけへんかった。その時、俺は初めて母の気持ちが少しだけわかった気がした。ただ、子供を残して出て行った気持ちは、まだ理解できないけれど。


 「ただいま。」

 玄関の扉が開いて、父と弟が、買い物の荷物抱えて帰ってきた。

 「憲武、遅くなってすまん。ご飯すぐ作るからな。」

 「ボクが作るからええよ。父さんは、仕事で疲れてるし、ここはどーんと、1番若いボクに任せて。」

 秀明は、中学2年生だが、どことなくおぼこい。純子の妹、綾子ちゃんと同じ年とは、思えない。

 「でも、前も秀明に作ってもろうたし。」

 「料理は、ボクが1番上手いんやろ?」

 弟の秀明は、すごく器用で、料理もぱっぱと作ってまう。

 「じゃあ父さんは、俺の代わりに、座って洗濯物をたたんでくれたらええよ。俺が秀明手伝うし。」

 

 その夜は、ご飯食べたら、後片付けしてすぐに寝た。明日は、野村に呼び出されてる。一体なんの用やろ。純子がいたら喋られへん事かな。あれこれ考えてたけど、12時過ぎに、ふと記憶が途切れた。



 



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る