第36話 純子、恋心の違いについて考える
その夜は、布団に入ってもなかなか眠られへんかった。
「なんや、今頃ドキドキしてきたわ。」
尾崎君、あれ本気なんやろうか…。
『僕は君を知った頃から、気になってたんだよ。校内で迷ってた僕を案内してくれた、可愛い女の子が忘れられなくて。彼氏がいるって、わかっているけれど…。純子さん、僕は君が好きです。』
尾崎君は転校してきた頃、校内で迷っていた。偶然通りかかったうちは、声掛けてどこに行きたいのか聞いて、彼の選択教科の美術室まで案内した。普通は、転校生が来たら、そのクラスの誰かが、校内を案内するんやけど。尾崎君のクラスでは、校内案内図を作って渡すだけなんやって。その図を見せてもらったけれど、それでは、たどりつけへん事がわかった。誰か作ったか知らんけど、抜けてるところが沢山あったから。ただでさえ、美術室や音楽室は、離れ校舎にあるから、来たばかりでは迷うのに。『これ、わかりにくいから、うち案内するわ。』その時に、彼氏がおるか聞かれて、のりの話しをした。尾崎君はその時、『彼氏がいるなんて、残念ですね。いなかったら、彼氏に立候補するのに。』なんて、冗談を言って笑った。『純子さんの彼氏やから、きっと優しい人だろうなあ。』と言われてうちは、顔が赤くなっていた。それを見た尾崎君が、にこにこしていたっけ。それがきっかけで、会うたび声を掛けてくれるようになった。
のりと歩いてる時には、気を使ってくれて知らん顔してくれる。多分のりは、尾崎君と話していても妬かないと思う。うちが可愛い女の子と一緒におる時の方がのりは妬いてしまうから。でも、尾崎君に『うちの彼氏は、女の子といる時の方が妬くから、話しかけられても大丈夫』とは、言われへんしな。うちが同性が好きやった事も説明せなあかんようになるし。それをしてまうと、うちを見る目が変わるやろうなあ。
何度も目を閉じては、開いて。ずっとこの繰り返し。
「寝られへん…。」
窓のカーテンの隙間から、月の光が差し込んでいる。
『ごめん、尾崎君。うち…のりの事が、好きやから。』
『いいよ。でも、考えといて。』
尾崎君は、爽やかな笑顔で、そう言った。
のり…あれからも、和歌子とずっと歩いとった。学校に着くまで、ずっと言い合いしてた。それやのに…ジェラシー感じひんし…ふたりがうちを取りおうてる事がわかっているからかな…とも思うけど。普通はどんな理由でも、妬くやんな。うちってほんまは、のりの事、友達として好きなんちゃうか…。それを恋やと勘違いしてたんかな…。
うちの記憶の中に、瞳がきりっとした、長い黒髪の少女がよぎる。スタイルも良くて、そのへんのモデルには負けへんほど美しい大泉雅代さん。うちが前に好きやった女の子。大泉さんを見てた頃には、ラブレター出してきた男子に妬いてたよなあ。近くにいる女の子にも、羨ましくて妬いて泣いた事もあったし。好きになるとこんなに苦しい気持ちになる事を教えてくれた。それから、楽しい気持ちになる事も。恋するいろいろな心を感じさせてくれた大泉さんは、中学時代からのうちの女神様やった。初めて会った時に、ひとめで恋に落ちたなあ。
うちは、のりが和歌子といても、野村君といても、全然そんな気持ちになれへん。のりはもともと、同性が好きやから、野村君には妬いてまうかもとは、思ってたのに。
そういえば…今日の帰り、のりと歩いてたら野村君が来て、『中村、悪いけど明日の放課後は、のり借りるで。妬くなよ。』と言って笑ってたっけ。でもうちは、野村君には、やっぱりジェラシーのひとつも感じひんかったな。もしも大泉さんを他の人が誘ったのを見たら…。そう思うと大泉さんとへの恋心となんでこんなに違うんやろうなんて思う。
同性が好きな気持ちと、異性が好きな気持ちは違うんやろうか。
うちの〝好き〟とのりの〝好き〟は、ほんまに同じなんやろうか…。
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