第35話 いつもと同じ朝に北風が吹き荒れる
うちとのりは、同性しか好きにならへんもん同士、カモフラージュでつきおうてた…。
「俺は純子が好きや。このままほんまにつきおうて欲しい。」
初めは戸惑ったけど、いまは本物の恋人になった。ても…うちはどうしてもわからへん事がある…。うちの好きとのりの好きは、一緒なんやろうか…。うちはのりを異性として好きなんやろうか…。
初めて心が通じ合った日…。あの日は確かにときめいたと思ってんけど…。
紅葉の秋が終わって、12月になった。それでも、いつもと同じ朝が始まる…。
のりと待ち合わせて、学校に行く。
のりは最近落ち着かない。周りをきょろきょろ見ている。
「どうしたん?のり。」
「いや、そろそろかと思うて…。」
その時、可愛い声が聞こえてきた。
「なにがですの?」
「三沢だよっ!!み…」
「あらっ、松山君がわたくしを好きだなんて、気づきませんでしたわ。でも…わたくしが好きなのは、純子さんだけですわ。」
「誰がお前なんか好きなもんかっ!!」
「あらっ、残念ですわ。折角おもいっきり振って差し上げようかと思いましたのに。」
先月から、うちとのりの学校の待ち合わせ時間に、現れるようになった和歌子。
毎朝のりと必ず言い合いしている。その時は、うちに見せる天使の顔とは別の黒い微笑みを浮かべている。のりの方は、これがまた、うちにも見せた事ないような不機嫌な顔して、和歌子に対抗している。
「純子さん。おはようございます。」
うちを見た和歌子は、可愛い笑顔で寄ってくる。さっきまでの黒い微笑みの人とは思えないくらいや。黒い髪も茶色に変わっている。
もともと、茶色だったのを、大泉さんの真似をして、黒く染めてたと言っていた。
「昨日は、日曜日で、会えなくて残念でしたわ。」
学校の待ち合わせを邪魔しにくる和歌子も、日曜日には来ない。『そこまでしたら、純子さんの心を奪うどころか、その前に嫌われてしまいますもの。』と、ちょっと悔しそうに言っていた。それに、のりが土曜日バイトなので、何かしら用事を作って、うちを誘う。のりになにされるかわからないから断れと言われるけれど、ふたりで会ってる時は、のりの見てる前のような過激な行動はしない。のりが見ている前では、抱き締めたり、キスしようとしたりするのに。うちとふたりの時は、めちゃ恥ずかしそうに、俯いたりする。ほんまにのりと言い合いしてる時と、同じ人なのかなあって思う。いまはのりが目の前におるから、ベタベタひっついてきている。
「三沢、純子から離れろっ!だいたいなんでいつもお前は、ええ時ばかり現れるねんっ!!」
「あらっ、いい時ばかりって?」
和歌子は、のりがうちを抱き締めようとしたり、顔を寄せてきたらどこからともなく現れる。もしかして、ストーカーかも。
和歌子は怯えた顔をし、震えながらのりにこう言った。
「あなたが男である限り、あんな事や、こんな事がっ…ああ、怖いですわ…。」
「また、世界作ってんな。お前…。」
「わたくしは純子さんが、汚されないように見張ってるだけですわっ!!」
「汚されるって、なんやあー!!」
うちから和歌子を引き離したのりは、和歌子に文句を言われている。ふたりの言い合いは、学校に着くまで続き、うちは1人で遠く離れて、後ろからふたりを見ている事が日課になった。
「純子さん、おはよう。いつも賑やかだね。」
違うクラスに転校してきたばかりの男子が話しかけてくる。イケメンと言うより、美形という言葉がしっくりくるタイプやと思う。
「尾崎君、おはよう。」
尾崎君は、前に歩いているのりと和歌子を見た。
「あのふたりって、いつも一緒に歩いてるんだね。」
「うん…。」
「どうして毎朝、あのふたりは一緒なんですか?」
うちは言葉に詰まった。なんて言えばいいんやろう。まさかうちを取り合いしてるなんて言われへんし。
「…松山君って、確か純子さんの彼氏だよね。」
「うん。」
「でも、なんだかあの2人が付き合っているように見えますね。」
「そっ…そーかなっ…。」
「僕ならこんな可愛い彼女をほっといて、他の女の子と歩かないなあ…。」
あれはうちをとりおうてる…なんて、絶対言われへんわな…。
「そ…そーやなっ、うちでもそんな事せぇーへんわっ。」
「純子さん、顔…引き攣ってるますよ。」
うちは何も言えずに黙り込んでもうた。
「どうかな…。純子さん、あんな不誠実な彼氏とは別れて、僕と付き合わない?」
「はあー?」
尾崎君は、にこやかにうちに交際を申し込んできた。なんや、この人。離れて歩いてるとはいえ、目の前に彼氏おるのに。
寒い北風が急に吹き荒れて、うちの髪をさらった。
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